でっかいママチャリに乗る小学生に学ぶ
記事:田村将太郎さま(ライティング・ゼミ)
漫画、特に戦闘漫画において、体が小さなキャラクターは不利である。
戦闘において、体躯が大きいことはそのままパワーに直結するし、戦いなのだからパワーはあった方がいいに決まっている。また、敵の攻撃を受けた時にも、体が小さい分致命的なダメージになりやすかったりする。逆に体がべらぼうに大きい敵キャラが、主人公の渾身の一撃を喰らってもへっちゃら、という場面は大いにある。痛くもかゆくもないわといって、主人公をあざ笑う。最初は主人公が苦戦するものの、主人公が工夫をして勝つのがベタな展開ではあるが、体が大きい方がいいに決まっている。
しかしながら、戦闘漫画には体が小さいけれど強い、というキャラクターが必ず出てくる。
各漫画で必ず一人は出てきているのではないだろうか。しかもK−1ファイターと女子大生くらいの体格差、もしくはそれ以上の体格差のあるキャラにも勝ったりする描写は何回も見たことがある。
小さいながらも持ち前のスピードを生かして、敵を翻弄し美しく勝つ。蝶のように舞い、蜂のように刺す、モハメドアリのようなキャラクターである。
そして、現実を超越している類の戦闘漫画に出てくる体が小さいキャラは、総じて「体の大きさに見合わない巨大な武器」を持っているように思う。モハメドアリはボクサーなので武器は持っていないけれど。どこにそんな力があるんだ! と言わんばかりの大剣や大槌などを振り回し、敵をやっつけるのだ。
そんなことを今日、小学校低学年くらいの男の子が「その体には大きすぎるママチャリ」に乗っているのをたまたま見かけて思い出した。その男の子は、信号を待っている時は足がつかないので、タイヤとタイヤの間にまたがるようにしていた。ハンドルが顔の高さにある。なんだろう、すごいほっこりというか、いいなあと思った。応援したくなった。
漫画家の方が、小さいキャラクターに大きい武器を持たせたくなる気持ちがわかった気がする。小さいヤツが大きいものを扱っている姿はギャップがあって、なんとも可愛らしい。
どうやら人間というのはギャップに弱い生き物らしい。そのようなギャップを持たせることによってキャラクターの魅力を引き上げているのか。
小さいのに強い、とか。小さいのに、すごく重そうな武器を軽々と扱えるとかとか。
可愛らしい女の子が分厚いステーキを美味しそうに頬張る姿もギャップがあって美しい。
ギャップというのは最高の武器だと思う。
漫画家の小山健さんの「女の子にガンプラをプラスしたい」という記事は(短くて、すぐ読めるので検索して読んでみてほしい)実にギャップの魅力を表現していると思う。
この記事は、道行く可愛い女の子に協力もらい、その女の子に「ガンプラ(ガンダムのプラモデル)」を持ってもらって写真を撮り、魅力が上がるのかという内容だ。
女の子に声をかけて、ガンプラを持ってもらって、写真を撮る。それだけ。それだけなのだが、ガンプラによって女の子に生まれる効果がすごいのだ。
勘の鋭い方以外は、女子にガンプラを持たせる意味がわからないだろう。そんな方のためにちょっとだけ説明してみよう。
私を初め、世のモテない男子にとっては、可愛い女の子というのは世界の対極にいる存在である。違う世界の人というか、我々が話しかけるのもおこがましいというか、決して交わらない存在なのである。いわば、百姓と武士。可愛い人が私の前を通る時は、ひれ伏しかねない勢いである。それは言いすぎているにしても、実際、私は可愛い人と話すときに緊張してしまう。体に染み込んだ「百姓魂」によって、挙動がおかしくなってしまったり、話も盛り上がらない。「今、武士殿と喋っているでござる……! あわわ」となってしまう。百姓が武士に「今年の大根はコレコレこうで……」と熱く語ったところで、やかましい! と切り捨てられるか、無視されるかだ。そもそも武士にとって、大根の話は興味ないのだと思う。武士は刀の話がしたいのだろう。つまり、武士には武士の世界があって、百姓には百姓の世界がある。違う世界の人という認識を持っている。
別に可愛くない人と話すときは……。これ以上言うと私の友人の百姓たちに「私と話すときは緊張しないのか」「私は武士じゃないのか」と、抗議されてしまう。
そんな身分階級があまりにも上すぎる「可愛い女の子」に我々との親近感を持たせるギャップとしての「ガンプラ」なのだ。
ガンプラとは、ガンダムのプラモデルであるが、男子ならば一度は作ったことはあるのだろう。私もガンプラを作ったことは何回もある。ガンダムのストーリーとかキャラクター自体は全くわからない。しかし、ガンプラを完成させた時の達成感、ガンプラの持つ精密ながら力強さを感じるボディ、細かなギミックは少年たちの心を鷲掴みにする。単純にガンプラはかっこいい。ガンプラは、少年心の象徴とも言える。
ガンプラは、ゆるくてふわーっとしたものが好きな可愛い女子とはまるで縁がない、ゴツゴツとした男臭い代物である。
それを、可愛い女子に持たせるのである。それはまるで、あまーいソフトクリームにチキンカツを差し込むがごとき行為である。まさに未知。しかしその結果、ある化学反応が起きるのだ。
可愛すぎて近寄りがたかった女の子が「ガンプラ」を持っていることにより、なんとなく「こっち側の人」な気がしてくるだろう。一見パンケーキやお洋服にしか興味がなさそうで、我々不細工男子とはまるで接点がなかった女の子に「ガンプラ」という共通項があるのだ。
例えば、電車で自分の母校の制服を着た学生を見つけた時、自分の好きなアニメのキャラクターのキーホルダーがカバンについている人を見つけた時、天狼院の黒いブックカバーがかかった本を読んでいる人などを見かけたときに感じる「あれ、なんか親近感わく」という感覚に似ている。「赤の他人」から、「少しだけ自分の関係のあるかもしれない人」に変化する感じだ。
可愛い女の子はどうせ俺の話なんか聞いてくれないんだろうな、どうせパンケーキが大好きなイケメンと付き合ってるんだろうなと思っている、私の「心の壁」をガンプラがぶち壊してくれるのだ。もしかしてこの子は話が合うんじゃないか? あわよくばブサイクとか気にしないのではないか? あわよくば私と……。
つい議論が飛躍してしまったが、こういうプロセスで女の子が可愛く見えるのではないか。
しかも、この記事において、小山さんが女に持たせるガンプラはめちゃくちゃ大きい。女の子の身長の70%くらいの大きさがある。ガンプラを女の子が持っているのか、それとも女の子がガンプラにしがみついているのかわからないサイズ感だ。まるで大きな武器を振り回す漫画のキャラクターである。これによって我々が潜在的に持っている「小さい子に大きいものを持たせたい欲」も同時に満たされる。こうして女の子の魅力が相乗効果でぶち上げているのである。……完璧すぎる。恐るべし小山さん。「ガンプラを可愛い女の子に持たせる」というのはとんでもない発明であると私は思う。
ギャップを持たせることによって、その人に魅力を持たせることはできる。しかし、女の子にガンプラをもたせたり、小さいキャラに大きな武器をもたせたり。しかし、小さいキャラは大きな武器を持っているというギャップだけで人気なのであろうか。それなら、大きなキャラに爪楊枝をもたせて戦わせても良いではないか。しかし、大きなキャラクターは大抵敵キャラで登場する場合が多い。当然、あまり人気は出ない。なぜ、背の低いキャラは応援したくなるのだろう。
そもそも、戦闘漫画のキャラクターで背の高いキャラクターはほとんどいないと思う。
調べてみたが、NARUTOの主人公のうずまきナルトは身長145.3センチらしい。あまりにも小さすぎないか。私の予想ではせいぜい160はあるんだろうなと思っていたが、ここまで小さいとは。ナルトにガンプラを持たせたら、ガンプラの陰に隠れてしまうんじゃないか。
ちなみにワンピースのルフィは174センチであった。特別小さいわけではないものの、超人的な力を発揮する割にはあまりにも標準体型である。
漫画の「応援されるキャラクター」というものは我々との共通点をなるべく持たせているのではないだろうか。漫画の世界なので、実際には忍術が使えたり、体が伸び縮みしたりするので、決定的に違うのだが、背丈が我々と一緒くらいだったり(もしくは我々より小さい)、何か弱点があることによって、親近感を持たせるというか、主人公を極力「一般化」しているのではないか。私たちは、主人公や体が小さいキャラクターに自分に近いものを感じているから、自分をそのキャラに置き換えているから、彼らを応援したくなるのではないのだろうか。
また、主人公は、たいてい、物語の冒頭は弱者からスタートする。例えば、いじめられていたり、他の人より成績が悪かったり、両親が他界していたり。
そういった境遇は、常に「自分は不幸である」と思ってしまいがちな私たちにとっては、応援したくなる要素であるし、自分と重ね合わせやすい。
逆に、世界を支配している、残虐非道で最強最悪な力を持つ悪の帝王を応援できるだろうか。できない。それは、自分を投影できないからだ。日常において、私たちは誰も強大な力を持っていないし、世界を支配していないからだ。
なので、主人公が悪の帝王に立ち向かう姿には、負けるな! と言いたくなるし、主人公のピンチにはハラハラしてしまうのである。
弱者であった主人公が力をつけ、仲間を募り、悪の権化を打ち負かす。
そんなストーリーには皆が心を打たれるのだ。
「桃太郎」や「一寸法師」などの「鬼を打ち負かす系」の昔話が多いのもそのためであると思う。昔話で鬼が出てきたら、たいてい懲らしめられる。
会社勤めの方は、どうしても逆らえない「会社」という強大な敵と感じているかもしれないし、強大な敵とは嫌な上司かもしれない。もしかしたら、資本主義社会というものすごく強大で目に見えない敵かもしれない。
学校に行っている人は、嫌いな先輩、めちゃくちゃ怖い先生とか、学校の授業が嫌だとか、受験のプレッシャーとか、それぞれあるだろう。
どんな人にも「どうしても逆らえないけどなんとかしてやっつけたい敵」つまり「鬼」がいるのではないか。
自分の中の「鬼」をなかなかやっつけることができないから、漫画の小さいキャラや、弱者であった主人公を自分自身に置き換えて「弱者が強者をやっつける」という構図に希望を見出したり、爽快感を覚えるのである。自分が、嫌な上司を一喝して会社をスパッと辞め、起業して大成功。体を鍛えて、嫌な部活の先輩やいじめっ子をぶっ飛ばして、いじめられなくなる。受験なんてせずに、世界中を放浪して、暮らしていく。
そんな「私たちのやりたくても絶対にできないこと」を抽象的でありながら、漫画の主人公たちは代行してくれているのではないか。
しかしながら、今日も私たちは強者に従い、環境に流されている。そんな自覚があるのは私だけではないだろう。
子供の時は漫画が大好きだったけど、大人になって読まなくなった方は多いだろう。私もめっきり漫画を読まなくなった。時間があれば漫画を読んでいたのに、最近は漫画を週刊誌に持ち換えた。
それは、漫画の主人公のように「自分にもあいつをやっつけられる」という気持ちを失いつつあるから漫画の主人公に自分を置き換えられなくなっているからかもしれない。
週刊誌には、誰かが頑張る姿や、悪が退治されることではなく、誰かの不幸や、スキャンダルが載っている。そうやって、自分より不幸な人を探している。これは自然なことなのか。さみしいけれど、みんなこういう風になるのは仕方ないのかもしれない。
怖いもの知らずが、怖いものを知ってしまう瞬間が誰にでもあるのだろうか。
身の程知らずが、身の程を知ってしまう瞬間が誰にでもあるのだろうか。
自分自身を「主人公」に投影することやめるのが、大人になるってことなのか。
小さい頃は、無茶をする。そこ飛び越えられる!? っていう柵を飛び越えようとして転んだり、自転車を意味もなく手放し運転したり。できなさそうなことでも、どんどん挑戦していたと思う。自分には大きすぎるママチャリに乗りたがるのも、わかる。ママチャリに乗るということは、ある種「大人な」感じがしてワクワクしたものだ。
それで転んで怪我をしたり、大人にめちゃくちゃ怒られたりしたものだ。「なんでそんなに無茶するの!!」
でも次の日には同じことをしていたりする。そして、いつかその柵は楽に飛び越えられるようになり、ママチャリも簡単に乗りこなせるようになる。
そうやってできることを増やしていったり、できることとできないことの線引きをしていく。できることと出来ない事の境界線をはっきり濃くしていくことが「大人になる」ということなのだろうか。
ほとんどの大人は自分の線引きがもう済んでいると思っている。私も例外ではない。身の回りに線を引いて、その線から出ない範囲で生きている。
でも、本当に、全部線引きは済んでしまっているのだろうか。また、過去に引いた線を飛び越えてしまってもいいのではないか。
今度は漫画の主人公ではなく、私たちが冒険に旅立つ番ではないか。
漫画の主人公のように悪の組織に立ち向かうことはない。少しだけでいい。自分を超えてみようではないか。
行ったことのない町に行ってみたり、いつもより早起きして散歩してみたり。
聴いたことのない音楽に挑戦してみてもいい。
歳なんて気にせず、劇団員やってみたり、本を書いてみたり。写真を撮りに出かけよう。そうだ、お笑い芸人なんて、やったことないね。まだ「線を引いてないところ」はたくさんあると思う。
まずは手始めに「でっかいママチャリ」に乗ってみませんか?
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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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