年齢における計算尺を使ってみると
記事:Mizuho Yamamotoさま(ライティング・ゼミ)
告白しよう。はっきり言って私は、識字障害
(ディスレクシア)ならぬ数字障害を持って
いる。とにかく数字が読めない、書けない、
覚えられないのである。昔から、電話番号は
3件以上は覚えられなかった。だから、覚え
る必要のない携帯電話の現代は、大歓迎だ。
金額は、
「いちじゅうひゃくせんまん」
必ずカウントしないと読めない。で、間違え
る。
日本中が沸いたバブル期の素敵な一時期。デ
パートに勤める伯父が、外商担当で「世界の
宝石店」なる催しのときは、アタッシュケー
スに宝石を入れて良く実家を訪れた。
「あんたも一緒に見る?」
母に誘われよく実家へ出かけて行った。子ど
もが生まれてからは、私の家に来てもらった。
宝石にはそこまで興味はなかったが、その時
一生に一度の出会いをしてしまった。
ハート型にカットされたダイヤモンドの指輪。
「これ、イギリスのダイアナ妃の婚約指輪を
作ったお店の作品!」
さりげなく伯父が言う。
指にはめるとぴったりで、輝きが美しいのに
うっとり。
「いちじゅうひゃくせんまん、ん、10万?
これ買おうっかな?」
「これはお買い得だよ!」
「よし、買った!」
「ほんとに、いいの? 買ってもらうのは嬉
しいけど」
「うん、ボーナス払いでさ、買うよ」
「えっ、金額見た? 100万だけど……」
たしかに、イギリス王妃御用達のお店のダイ
ヤが10万なわけはないと、普通は気づくは
ずなのだが。
結局、金利手数料なしで、こっそり外商に毎
月払える金額を持って行くということで買っ
てしまった。
「ママ、きらきらきれいねぇ!」
息子たちも喜んだ。
夫には、10万円奮発して買った!と話した。
何年かかって支払ったかは覚えていないが、
今でも私の唯一の宝物だ。
早期退職した昨年、共済組合に借りていたお
金を一括返済するときも、請求額を見て、
「いちじゅうひゃくせんまん」
234万も残りがあったんだ!うわぁ~、か
なりのショックだとしばらくひとり落ち込ん
でいた。しかし、引き落としの日に通帳を見
ると23万4千円。ゼロを1つ間違えていた
のだ。ラッキー!
そんな私も、年齢差だけはイメージできる。
なんせ、年齢計算尺を身に付けているから。
短大卒で就職してすぐに受け持った生徒は、
9歳下だった。中学校国語で採用されたのに、
採用ミスで、中学校に空きがなく小学校に回
され5年生の担任をしたのだった。
その子たちを基準に考えると、イメージが沸
く。現在47歳が、その教え子たち。その子
たちの11歳下が、当時生まれたての赤ん坊
だったのに、現在36歳。
逆に年上は、10歳上の従妹、20歳上の母
の妹=叔母、30歳上の母の姉=伯母と、身
内が10歳刻みでいるのでこれまたイメージ
しやすいのだった。
20歳以上離れていると、私が仕事を始めた
年に、この世に影も形もなかった物体として
たいていのことは許さざるを得ない気分にな
る。その点では、最後に教えた生徒たちは、
私が教員になって20年以上過ぎて生まれた
子たちで、40歳も年齢が離れている上に、
その親に教え子がいたりするので、何があっ
ても仕方ないなぁという境地だった。あの時
小学5年生だった子が、中学、高校と進んで
大学に行ったり、専門学校に行ったり、就職
したり。そして結婚までして、子どもを持っ
て、その子が育って中学生になっている。
そんな長い時間、教員という同じ仕事をして
生きて来たのかしら、私って? すごいなぁ
と改めてびっくりしてどうする? と自分自
身に突っ込みを入れながら来し方を思う。
天狼院のライティング・ゼミメンバーも、ほ
とんどが、私が仕事を始めたときに影も形も
なかった面々である。みんな、大きくなった
んだねぇと、おばちゃんはつくづく思い、訳
もなく応援したくなる。
そんな風に考えながら、はたと思考が停止し
た。
そうだ!三浦さんって、私が仕事を始めた年
に2歳だったんだ。
想像してみよう。2歳の三浦さんを!
そんなの無理だなんて言わないで。
おむつは取れていたのだろうか?
髪の毛は? イソノカツオ風かしら?
そうとうやんちゃだったに違いない。しかし、
見かけによらずセンシティブで、なんせ子ど
もの頃の私と同じく「自家中毒」だったとい
うから。
大事なこと、楽しみなことがある日は決まっ
ておなかが痛くなって。枕元の洗面器抱えて
衰弱し切って、病院に運ばれて点滴を受ける。
そんな子が、大きくなって本屋さんになって
池袋、表参道、福岡、京都…… 、次は神戸、
仙台とお店を出していくのだから。
衰退産業と言われる書店に付加価値をつけて
日本全国に展開しようとしているのだから。
これは、応援するしかないじゃない! と、
おばちゃんは思うのだった。
若者が夢を持って、生き生きと活躍する場所、
天狼院書店。
衰退していく日本に、元気を与える天狼院書
店。
「本」の先にある暮らしを提案する天狼院書
店。
私の目標寿命125歳までにはまだ間がある。
そのとき三浦さんは107歳。どんな展開が
待っているのか。まだまだ楽しみはこれから
である。
(おわり)
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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