ときにはチェコスロバキアをひとりで歩いてみるのです
*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:永松 昭徳(ライティング・ゼミ平日コース)
「おまえの住んでる地区、信号機が1個もないよな。あはは、田舎だな」
小学生のころ、駅前に住んでる友達からこんなことを言われました。
わたしが住んでいた地区を、思いっきりの仮名ですが、「かもめ市大字かもめ村」としておきます。
たしかに、かもめ村には信号機がありませんでした。
中学・高校に進むにつれ、クラスメイトはより広い地域の人たちの集まりになります。
高校時代、隣の「すずめ市(仮名)」から原付バイクで通っていた友人からは、
「いいよな~かもめ市は。いろいろ店があってさ。すずめ市は山ばっかりだよ」と羨ましがられました。
小学生のころは田舎もんとバカにされていたわたしは、少し広くなった世界では、都会だなと羨ましがられるという扱いに変化しました。
世界は広くなると、立ち位置やものの見方が変わるようです。
その話とは逆に、世界をより小さくすると、立ち位置やものの見方が変わることを知ってびっくりしたこともあります。
かもめ村は、さらに1組から15組まで、「隣組」という小さなグループで区分けされていました。
かもめ村には、年に1回「隣組対抗~大運動会~」という催し物がありました。
当時30代だったわたしは、テントの中で60代のおじさんたちの会話を聞いてびっくりしたことがあります。
「9組のやつらは都会に近いからズル賢いもんの」
「そうそう、おれが子供の頃からずーっとズル賢いもんの」
(いくら都会に近いって言っても、同じかもめ村だし五十歩百歩だろ……)
と心の中で苦笑いしました。
その都会に近いと言われた9組の中で生活している人たちは、こんなことを言ってるに違いありません。
「北のやつらは駅に少し近いけん、ズル賢いもんの」
(都会に近いとどうしてズル賢くなるのかという因果関係はここでは置いておきます)
結局は、壁をどこに置いているかの問題なんですよね。
隣同士の2つの市で区切れば、かもめ市は都会扱いされる。
校区で区切れば、かもめ村は田舎と冷やかされる。
隣組で区切れば、9組のやつらはズル賢いやつらと呼ばれる。
9組で区切れば、北側の人はズル賢いと言われる。
別の例をあげてみることにします。
現在(2021年7月)もオリンピックが行われておりますが、数年に1回のサイクルでこのような国際大会がありますよね。
ファン人口の多い野球で例えます。
ふだん、自分の応援しているチームのライバルチームの4番打者。
いつもは全然応援していない。(むしろあんまり好きじゃない)
でも、そんな選手だったとしても、「ジャパン」という選抜メンバーの中にいたら、思いっきり声援を送ってしまいますよね。
日本が負けそうなときに、逆転ホームランを打ってくれたりしたら、
「もう最高だよおまえさん!これからもずっと応援するよ!」
とテレビに向かって叫ぶでしょう。
では、もし仮に、この国際大会が「国」単位の対決じゃなく、アジア・アメリカ大陸・ヨーロッパ大陸・アフリカ大陸で選抜チームを作るという大会だったならどうでしょう。
わたしたちは、普段はまったく愛着の湧かない隣の国の選手にも、「がんばれー」って言いながら、アジアチームのマークが入った旗をパタパタふってしまうような気がするのです。
結局、壁をどこに立てるのか、なんです。
毎日、毎日、同じ環境で生活していると、視野はどんどんと細部に向かっていきます。
壁がどんどん自分に近いところでそびえ立ちはじめます。
地球・国・県・市・校区・隣組・会社・仲間・ご近所・家族・個人という風に、最後には、自分というたったひとり分の壁だってできてしまいます。
では、いつの間にかできてしまっている壁をどうやったら壊すことができるのでしょうか。
わたしは、こんな想像をしてみることにしています。
なぜかチェコスロバキアに強制的に3年間ひとりで住むことになった。
1ヵ月過ぎましたが、日本人はまったく見かけない。
言葉も話せないので、コミュニケーションをするのも大変。
さみしい。もっと誰かとおしゃべりしたい……。
そんなストレスがどんどん大きくなってきている。
ある日、いつものように通りを歩いていると、向こうから歩いてくる男を見て、「もしかして…」とわたしはつぶやく。
彼は、やっぱり日本人だった!
わたしたちは笑顔で握手をし、ハグし合いました。
この瞬間、その人が、何県出身であろうが、どこのチームを応援してようが、田舎に住んでようが、隣組が9組であろうがズル賢い人間かどうかなんてどうでもいいはずなんです。
さらにもっとでっかいイメージをしたいときは、舞台をチェコスロバキアから太陽系に置き換えてみます。
人工衛星と石ころしか浮かんでいない宇宙空間。
宇宙船の周りを今日もパトロール。
誰か無事だった人はいないだろうか。
そこに、向こうからやってくる人影が見えた。
1ヵ月ぶりに会う人影。
ふわふわと宇宙遊泳しながら近づいてきた人間が、アフリカ人であろうが、カナダ人であろうが、チェコスロバキア人であろうが、固く抱擁すると思うんですよね、宇宙服のまんま。
そのとき、壁は太陽系まで後退しています。
壁はなるべく遠くにある方が、人生は楽しいような気がしますね。
***
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