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九つと十歳のあいだに


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:相澤 めぐる(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「ねえねえ、お母さん! みんなでカハクに行ってもいい?」
 
学校から帰るなり、息子が大声で言った。
 
「え、今はコロナで事前予約をしなくちゃいけないし、子どもだけで行くのは難しくない? 誰と誰で約束したの?」
 
嬉しそうな顔で私の了解を取ろうとする息子に対して、私は少し困惑気味に答えた。
息子は小学4年生。ここ最近、言動が一気に少年っぽくなってきた。少し前までは、遊びの約束も親同士で連絡を取り合って確認を取ってからのことが多かったが、最近は学校で友達と約束をして勝手に遊びに行くことが多くなった。行先は、近所の公園か児童館だったが。
 
それが、今回の行先はカハク。カハクとは、科学博物館のことだ。うちからは、子どもの足だと徒歩で30分くらいはかかる。小さい頃は年パスを買ってよく行っていたので、この辺りの子どもにとっては馴染みのある場所だ。幼児期よりも小学生の今の方が展示内容をよく理解できるだろうから行けばいいのだが、皮肉なことに小学校に上がってからは他の予定で忙しくなって逆に足が遠のいていた。
 
だから、小学4年生男子の行先としては、悪くない選択だった。ただ、子どもだけでそんな公共の施設には行ったことがなかったし、誰か保護者が同伴した方がいいのは間違いない。でも、それだと「じゃあ、行かなくていい」と言われそうだった。
 
小学4年生。難しい年頃だ。
 
これが2年生や3年生ならば、親も普通に同伴するだろうし、5年生や6年生ならば、「気をつけなさいよ」と、たくさん注意事項を言いながらも子どもだけで行かせるだろう。
 
ふと、自分が子どもの頃を思い返してみた。
子ども時代のちゃんとした記憶があるのは小学4年生からだ。断片的な記憶としては、もっと小さい頃のことも覚えているが、ちゃんと出来事を流れで覚えていて、自分の気持ちもおぼろげながら記憶にあるのは小学4年生からだ。自我が芽生える年頃で、友達との関わり方も自分主体になってきたのだろう。親がセッティングしてではなく、子ども同士であれこれ考えてやりたいようにやることが増えてきた。だから、楽しかったことも多かったし、上手くいかなくて失敗したこともあった。記憶に残っているのは、そのせいだと思う。今、自分が子育てをするようになって初めて気が付いた。
 
そうか、息子もそういう年頃になったのか。
 
息子にあれこれと今回の計画について聞いてみた。「自転車は危ないから、〇〇に集まって、そこからみんなで歩いて行くんだよ」とか、「水筒持参。おやつはコロナだからナシ」とか、「小学生は入場料はかからないんだよ」とか、意外ときちんと話し合えているようで驚いた。そして、何よりも楽しそう。頭ごなしに却下するのは、なんだか違う気がした。
 
まず、今回のカハク行きの言い出しっぺのお子さんのママに連絡を取ることにした。
うちは行かせてもいいかもと思い始めていたが、他の親御さんの同意なしには勝手に話を進められない。
 
すると、その親御さんも、「みなさんに連絡をしようとちょうど思っていました」との事だった。なんでも、既にカハクに問い合わせて、小学生だけでも入場可能かどうかまで確認してくださっていた。カハクとしては、体温を測って平熱であること、マスクを着用していること、そして事前予約を済ませていること、これらを守れば小学4年生だけでも入場は可能との回答だったらしい。それを聞いて、ますます我が家も行かせてみようという気になった。
 
手分けして他の親御さんにも連絡を取り、結局5人中2人は家庭の方針でダメとなったが、残りの3人は行けることになった。そこでも親が全部決めてしまうと、せっかくの子どもの話し合いが無駄になる。「〇〇くんと××くんはおうちの約束で行けないけど、行ける子だけで行くか、それとも全員で行けるもっと近い別の場所に行くか、みんなで相談してみれば?」と、子ども達で相談するよう促した。せっかく自主性が芽生えてきたのだから、その芽を摘みたくない。
 
みんなで話し合った結果、今回は行ける子3人だけでカハクに行くことになった。行けない子は、5年生になったらいいよと親御さんが言ったらしく、来年は5人全員で行こうということで、みんな納得したそうだ。
 
カハク行きの当日、学校から走って帰った息子はランドセルを半ば放り投げて、大急ぎで支度をしてまた走って待ち合わせ場所まで向かった。平日の放課後だから、結局カハクにいられる時間は2時間くらいしかない。それでも、すごく嬉しそうだった。道に迷わないか、帰りはちゃんと時間どおりに帰れるか、心配は尽きなかったが、それは杞憂に終わった。満面の笑みを浮かべて、大満足で約束の時間どおりに息子は帰ってきた。そして、興奮気味に、何を見たか、どんなことがあったか嬉しそうに報告してくれた。
 
すごいなあ、いつの間にみんなこんなに大きくなったのだろう。
 
これまでは、思い出作りは親が中心となって与えることが多かった。家族旅行やイベントや催しへの参加だ。でも、今回は、親は少し手を貸しただけ。きっとこれからは、だんだん子ども主体になり、親よりも友人との時間が大切になるのだろう。
 
幼稚園の時の園長先生に、「一つ、二つ、三つのように、『つ』がつく年齢の子どもには目も手もかけましょう」と言われたことを思い出した。息子は今、九つ。2か月後には10歳だ。手を離すべきときが近づいているのだ。
寂しさを感じないと言えば嘘になる。でも、息子のあの満足気な自信に満ちた表情が見られる喜びの方が大きい。
 
 
 
 
***
 
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