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みっちゃんに会いたい


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記事:北村知里(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「今度いつ会えるんやろ」
自転車で作業所の前を通るたびにみっちゃんとの他愛ない会話を思い出す。
みっちゃんは小学校の同級生。知的障害があるみっちゃんとは小学5年生と6年生で同じクラスになった。おかっぱ頭で、はにかむような笑顔が可愛い少女だった。
一緒に登下校し、給食を食べ、体育や書道、図画工作や音楽の授業では一緒に学んだ。
クラスの全員が交代で、身の回りのお手伝いをしていた。
小学校を卒業し私は違う校区の中学校に進み、みっちゃんは支援学校へ行ってしまったので私の記憶からいつの間にかみっちゃんは消えてしまっていた。
 
数年前、記憶から消えていたみっちゃんが突然目の前に現れた。
駅に向かう途中に障害がある人たちが働く作業所がある。自転車で通り過ぎようとした時、
ふと白髪交じりのおかっぱ頭が目に留まった。
「みっちゃんに似た後ろ姿やわ」
なぜか突然そう思った瞬間、振り向いた女性を見て心臓が止まりそうになった。
 
みっちゃんだったのだ
 
小学生の時から時間が止まったように変わらない笑顔で荷物を車に積んでいた。
私は思わず大きな声で叫んでいた。
「みっちゃん、みっちゃんやんね」
「だれですか」
笑顔はけげんな顔になり、作業所の中に飛び込んで行ってしまった。
作業所から名札をつけた男性が飛び出してきて問いかけられた。
 
「あの、どういうご関係ですか」
当然の質問だ。私はいきなり叫んで彼女をおびえさせた怪しいおばちゃんなのだ。
所長だと挨拶された男性に、小学校の同級生だったこと、同じクラスだったこと、当番で一緒に登下校し授業を一緒に受けていたこと、そして彼女のことを忘れてしまっていたことを全て話し、驚かせてしまったこと謝った。
 
「そうだったんですね、あの人はみっちゃんと言うのですが、少し確認してもいいですか」
私の名前、小学校の名前、卒業した年など質問を受け、彼女のお母さんに連絡し卒業アルバムで私が同級生だと言うことが本当だと分かったらしい。
外で待っている私に所長さんがみっちゃんを連れて来てくれた。
 
「この人ね、みっちゃんの同級生で、なつかしくて名前を呼んだんだって」
「ごめんね、ビックリしたよね。覚えてないよね」
「なまえ教えて」
「ちーちゃんって呼んでくれてたよ」
「ちーちゃんとお友達やったんやね」
みっちゃんは、はにかんだ笑顔でにこりと笑ってくれた。
 
その日から、作業所の前を通る私の姿を見つけると彼女は飛び出して来て他愛もない会話が始まるのだ。
「ちーちゃんどこいくの」
「駅前に買いものに行くの」
「クッキー焼けたからちーちゃんにあげる」
「みっちゃん、それお金払わなあかんのよ。帰りに買うから」
「お給料もらったら、ちーちゃんに買ってあげるね」
「あははは。ありがとうね」
 
彼女が働く作業所はクッキーなどの焼き菓子を作っている。材料を厳選し身体に優しくて
しかも美味しいのでとても人気がある。
作業所の大きな扉は天気のいい日は全開になっていて焼き菓子を作る人達の姿は一生懸命で楽しそうにも見えた。
私を見つけ走ってきてくれるみっちゃんとの何気ない会話はとても楽しかった。
所長さんには時々怒られたけど
 
そんな楽しい時間は突然絶たれた。
新型コロナ感染症だ。感染予防のため全開だった大きな扉は固く閉ざされ作業している人達の姿を見ることはなくなった。みっちゃんが私を見つけて飛び出して来てくれることもなくなった。
そして彼女との他愛ない会話が途切れて1年半以上が過ぎてしまった。
 
新型コロナ感染症は日常を変えてしまった。人と会うことを避けるようになり不要不急の外出を控えるようになり、大切な人達とのつながりも少し遠くなってしまったような気がする。
私達は重要な話だけで生きているわけではない。どうでもいい話や他愛もない会話の中にちりばめられているつながりを感じることも生きていくうえで大切なことだと思う。
急用などないけれど、大切な人と会い顔を見て笑ったりすることも日常の中で大切なことなのだと思う。
みっちゃんが働いている作業所で作っている美味しいクッキーをコロナ禍でも買うことはできる。
だけど美味しいが足りない。
みっちゃんとの他愛ない会話がクッキーをより一層美味しくしていたことに今さらながら気付いたのだ。
 
以前のような日常には戻らないかもしれない。戻ったとしても以前とは違う日常かも知れないけれど、人とのつながりは以前の必ず戻ってくる。私は信じている。
閉ざされた作業所の扉はいつか大きく開かれ、私を見つけて走ってきてくれるみっちゃんと会える日も必ずやって来るはずだ。
その日がくるまで、みっちゃん
 
元気でいてね
お仕事頑張ってね
私のこと忘れないでいてね
会いたいと思っていてね
 
私も健康に気をつけて、毎日頑張るね。みっちゃんのこと忘れないし、また他愛もない会話ができる日がくることを心から楽しみにしているからね。
 
 
 
 
***
 
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2021-08-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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