わたしは「遊び人」だった。
記事:うみの そらさま(ライティング・ゼミ)
わたしは「遊び人」だった。そして、とても「モテた」。
そう、いわゆる「人たらし」である。
多くの人を傷つけたし、自分のことも傷つけた。なんて自分は汚いんだろうと思って、体を隅々まで洗っても自分が気持ち悪くって仕方のない日々もあった。
そんなわたしも、この世におぎゃーと産まれたときから「遊び人」だったわけではない。
むしろ真面目が正義だと考えるような優等生だった。そして、どちらかというと面倒な存在の「嫌われ者」だった。
学校では、無視されていたこともあったし、1人でご飯を食べることもしばしばあった。最悪なのは「はい、○人ずつのグループにわかれてください」という、あれ。みんなが意気揚々と次々にグループを作る中、どこの輪にもはいることができず、とうとう最後の1人になる。「グループができましたが?」という先生の問いと共に一斉にみんながわたしの方を見る。こんなに嫌な注目のされ方はない。結局、先生が「ここに入れてあげてくれない?」とどこかのグループにわたしをいれる。もちろん貧乏くじを引かされた子たちから仲良くしてもらえることなんてない。
中学生になり、高校生になり、段々とどうすればうまく人と付き合っていけるのかが分かってきた。特に大切なのはこの3つ。
・目の前にいる人へのサービス。
・何においても突出しないで平均でいること。
・常に相手の機嫌をみてグループやクラスの空気を読むこと。
いくら処世術を身につけたからと言って、「嫌われ者」だった過去は消えてはくれない。いつも、一歩踏み外せば「嫌われ者」に舞い戻ってしまう恐怖と闘いながら生活していた。毎日毎日、石橋をたたくように過ごしていたのだ。
次第に、今までの環境や「嫌われ者のわたし」を知らない場所で、自分の世界を一からつくり直したいと思うようになった。そして、東京の大学への進学を決めたのだ。
大学生になり、はじめに変えたこと。それは、下の名前で呼んでもらうことだった。決して苗字ではない。それまで学校ではずっと苗字で呼ばれてきた。そこに相手との距離感を感じていたのだ。だから新天地ではみんなに名前で呼ばれたかった。傍から見れば、そんなことかと思うかもしれないけれど、わたしにとっては大きな大きな第一歩だった。
考えてみれば、学校という箱の外ではわたしは人気者だった。どこに行ってもかわいがられたし、いつも輪の中心にいた。今になって気が付いたのだけれど「人気者のわたし」はいつも、名前で呼ばれていた。
小学生から高校生までの間は、あまりにも学校という箱が自分の世界の大部分を占めていたために、「わたしは嫌われ者なんだ……」と思い込んでいた。いつでもどこでもダメな人間なんだと思っていたのだ。
でも、でも違った。
「人気者のわたし」だって昔からいたのだ。だけど、箱という世界にとらわれてそんな自分を完全に忘れていた。いや、封印していたのだ。
わたしはこれまでに会得した処世術をフルに活用して、東京で初めて出会う人に接していった。「嫌われ者のわたし」を知らない人たちと打ち解けることは、とても簡単だった。なぜなら、今、目の前にいる人がどうしてほしいのかを頭で考えるよりも先に、身体が自然と相手の喜ぶように動くようになっていたからだ。
このスキルこそが、わたしを「遊び人」として確立させた。
このスキルを使えば、簡単に人をおとせた。人の懐に入るための小道具のようなものである。こうすれば相手は必ずわたしのことが好きになるという確信をもって動いていた。
……なんて自分本位なんだろうか。
思うに、「遊び人」になったのは純粋に「人に好かれたかった」からだろう。
「モテ」てうれしかったのも、「あなたが好きだよ」と思われたかったからなのだろう。
でも、わたしはやりすぎた。
いくら人から好かれたかったからといって、本当の意味で相手が喜ぶことをできていなかったのだ。
表層的で、刹那的で、短絡的で、一言で言うなら、ただの「アホ」だった。
東京でのわたしはすぐに、「嫌われ者」から「人気者」になった。そして、「人気者」から「遊び人」になった。そしたらまた、「嫌われ者」になった。わたしという人間はなんて愚かしいのだろうか。もっと他にやり方はなかったのか。
東京に出てきて9年。さて、今のわたしはどうか。
数年前までわたしのことを嫌っていた人にまで、「変わった」と言われるほど変わったのだ。すきですきで仕方がない恋人もいれば、わたしの過去を分かったうえで親しくしてくれる大切な仲間や友だちもいる。
わたしが本当に望んでいたのは、みんなから嫌われないことでもなく、みんなから好きになられることでもなかった。そう、わたしを肯定してくれる誰かだったのだ。
昨日、会社の先輩たちと夜の街で飲んでいた。ある先輩が言った。
「ぼくの妻は、そらさんのこと嫌ってますよ。正確に言うと、興味はないけど、昔イラッとしたことのある人に似てるんだって。」
いや、笑いましたよ。一度も会ったこともない人に嫌われることもあるんだなぁって。わたしの「嫌われ者」っぷりもそこまできたのかって。
だけど、今のわたしは昔とは違う。
恋人や親しい友だちに「やっぱりわたしは変わってなんかなくって、今も嫌な女なのかな?」と尋ねると、
「俺はそらちゃんのことがすきだよ」と言ってくれる恋人。
「そらは変わったよ。ずっと見てきたからわかる。」と言ってくれる友だち。
わたしはもう、誰に嫌われても大丈夫だ。「遊び人」に戻ったりなんかしない。たとえ「嫌われ者」になったとしても、わたしを肯定してくれる人がいるのだから。
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