マスクの下はどんな顔?
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記事:もちだみお(ライティング・ゼミ超通信コース)
鏡の中に母がいた。
えっ? お母さん? 私は驚いた。よくよく見ると、それは紛れもなく私だった。
私と母は似ていない。母は丸顔で、私は父の血が濃かったのか瓜実顔だ。なのに、鏡の中の私は、輪郭が母にそっくりなのだ。
顔の下部分が丸くなって、ちょっと頬が垂れている……。
ブルドック顔、とまではいかないが、確実に頬が重力に負けているのだ。
え、うそぉ……。
私の自慢は、体は太っていても顔の輪郭だけは「シュッ」としていることだったのに。その顔の輪郭がぼやけている。これでは、「顔だけはシュッとしているデブ」ではなく「ただのデブ」である。やばい。やばすぎる。
加齢のせいだろうか、それともマスク生活のせいか。どっちもだな、きっと。
おととし買った、コロコロするとフェイスラインが引き締まるはずの美容器具を、押し入れから引っ張り出してきた。何回かコロコロして、面倒くさくなって仕舞いこんでいたものだ。一週間ほどコロコロしてみたが、目に見える効果は無い。そして、やっぱり面倒くさい。私は、またもや止めてしまった。
実は、流行りのEMS美顔器も持っている。器具を顔に装着して電気を流し、表情筋をピクピクさせるアレだ。これもしばらくやってみたが、やっぱり効果があるとは思えなかった。私の顔は、もう垂れていくしかないのか。
まぁ仕方ないか。もうトシだからな。今更フェイスラインとか気にしたところで、何かステキなことがあるわけでもないし。それに、基本マスクで隠れてるもんね。うん、いいや。仕方ない。諦めよう!
そう思いはするのだけど、鏡を見るたびに「母に似てきた自分」を見て、ゲンナリするのだ。
私は母が好きではない。なるべく会いたくないと思っている。
そんな母と似てきたなんて……。
朝の洗顔タイムが、夜の歯磨きタイムが、要するに鏡を見なくてはいけない時間が、苦痛で仕方がない。私には現実的ではないけれど、「整形」のふた文字がチラチラする。おいくら万円くらいかかるんだろう。
そんなもんもんとした気持ちを抱えて過ごしていたある日、とあるテレビ番組を見た。なんの番組だったかは忘れてしまったが、「マスク時代のお悩み解決」という感じの特集だった。
マスクを取ったら顔が分からない、とか、マスクでかぶれて痒い、とか、そんなお悩みの中の一つに「顔が老けた」というものがあった。一年前の写真と比べて、明らかに頬が落ちて一気に顔が老けてしまった、というお悩みである。一緒だ! と思った。ぼんやり見ていた番組だったが、そこからは食い入るように見はじめた。
番組では一年前と今との写真を比較していた。一年前と今と、いったい何が違うのか。
それは、頬の一番高い位置である。
一年前は目のすぐ下のところが一番高かったのに、今はそこから2センチくらい下に一番高いところがある。その分肉が下に落ちて、口角が下がって輪郭がぼやけている。ふむふむ、やっぱり一緒だ。
これは、マスク生活で表情を動かすことが減り、顔の筋肉が衰えたから。顔の筋肉を鍛えれば元に戻るという。顔の筋トレだ。
番組では「ニパニパ体操」というものを紹介していた。口を思いっきり横に広げて「ニ」の形にして10秒キープ。「パ」と力を抜く。これを10回繰り返す。これで1セット。1日に1セットでいいらしい。
そして、そのお悩みの方が実践したビフォーアフターの写真が示された。確かに変わっている!
頬の一番高いところが、上に上がっているのだ。素晴らしい!
「マスク時代だからこそできるエクササイズかもしれませんね」という司会の方の言葉を聞き、確かに! と思った。マスクをしてたら、その下でどんな表情をしていても恥ずかしくないじゃないか!
私は「これしかない」と思った。
それからというもの、出勤時の車の中で「ニ・パ・ニ・パ」、帰りの車の中で「ニ・パ・ニ・パ」。マスクの下はなんともマヌケな顔なのだが、見えないから気にしない。大胆に思いっきり「ニ・パ・ニ・パ」した。
そして二週間ほど過ぎたある日、洗顔の後で鏡を見たら、そこに母はいなかった。確実に頬が上に上がっている。口角が上がり、輪郭も少しシュッとしてきた。
やった! 母を撃退したぞ!
マスクの下でマヌケな顔をしながらも、エクササイズを続けた甲斐があった。努力は報われるのね。私は長い間、鏡に映る自分の輪郭を確認した。
今回のことで一つ確信したことがある。それは、自分の体は自分の努力でしか変えられないんだなぁ、ということ。そして、地味な努力でもそれを続けるといつか実を結ぶ、ということ。いろんな器具を使うより、私には地味なエクササイズを続ける方が性に合っているらしい。
輪郭を少し元に戻して自信がついてきた私は、次は地味なエクササイズでダイエットに挑戦することを心に誓った。
***
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