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残念な存在だった『梅たか子先輩』がいち早くバージン・ロードを歩めたワケ


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記事:小堺 ラムさま(ライティング・ゼミ)

私の職場で秘かに「梅たか子」と呼ばれている先輩がいる。
本名は確か、豊田智子だったかな?
うろ覚えだけど。
本人は知らないと思うけど、女子社員の間で豊田先輩の通称は「梅たか子」だった。
ここから先は、豊田先輩のことを本名ではなく「梅たか子」と言って話すこととする。
梅たか子は、身長は165センチメートル位で、中肉。
髪型の定番は、黒色のロングストレートで、たまにショートボブのような感じにすることもあった。
毛量は多そうで美容室でカツラが作れる量の髪を梳かれそうなタイプだった。
顔は、目がくりっとした二重で、うさぎちゃんのように上を向いた丸い鼻が愛らしかった。
人気女優の松たか子に、髪型、顔のパーツ等、どことなく似ていた。
しかしだからと言って、私達の脳内で梅たか子先輩が「LET IT GO!! レリゴー~!」となんの違和感もなく歌いだすことは皆無だったのにはワケがあった。

そもそも、何故「梅たか子」なのか?
女優の松たか子に似てるんなら素直に「松先輩」ってニックネームでいいじゃん!って当初は私も思っていた。
先輩が梅たか子と言われるのにはれっきとした理由があったのだ。
日本人である読者の皆様なら、寿司屋や丼物といった和食のお店に一度は入った事があるのではないだろうか。
それでは、メニューが天丼しかない、とても有名なお店ののれんをくぐったところを想像してみて欲しい。
のれんをくぐると、店内はかぐわしいタレの香りが!!
おーっといけねえ!
説明を続けなきゃ!
お店の壁に貼られている、縦書きの表札みたいなお品書きのメニューを見てみると…
【天丼 松】
【天丼 竹】
【天丼 梅】
とある。
値段も書いてないし、それぞれの天丼の具が果たして何なのか、全く明らかではない。
だけども、多くの人はここで店員に尋ねることもなく、次のようなイメージが容易にできて難なく注文ができるだろう。
松は、おそらく大アナゴ1本とエビ2本、それとあとキスとかの白身魚で、残りは野菜の天ぷらが載ってて金額は1800円かなあ。
そして、竹はエビ2本、キス、イカと野菜の天ぷらが入って1500円かなあ。
最後に松は、キスと野菜の天ぷらで900円だろうなあ。
本来、「松・竹・梅」とは元旦に飾られる角松を見てもわかるように3点セットで吉祥のシンボルとされてきた。
いつからか定かではないということだが「松・竹・梅」が、主に和食のお店で「特上・上・並」とされていた等級が「松・竹・梅」と表記されることが多くなったらしい。
稀に、お店によっては梅を一番上のランクにしているところもあるようだが、元来「松」は仙人が食べていた食べ物ということもあって、「松」が最上級ランク、まあ値段も高い品物として決めているところが殆どなのである。
松が最上、竹が上、梅が並のランクであることがおわかりになったことと思う。
天丼と今回の話、なんの関係があるのサ!ってお思いでしょうけど、大有りなんです!

前述の先輩の通称は「梅」たか子である
その先輩はどことなく、女優「松」たか子に似ていた。
ここで出てくるのが「松・竹・梅」の等級理論である。
おわかりでしょうか?
そう!!先輩は、明らかに「松」ではなく、かといって「竹」にさえもランキングできず、どこまで行っても「梅」な女なのであった。
どことなく人気女優の松たか子に似ているところはあった。
だけども、何かが変だったのだ。
常に「な~んか違う、オシイよね…」「なんか残念なんだよね」と女子社員に言われ続けた先輩。
そんな先輩は松の2ランク落ち、松竹梅でいうと最下級の「梅」ランク、竹にも松にもなれない、「梅たか子」だったのだ。

梅たか子先輩は、本当に全てが残念だった。
目はくりっとした二重だったけど、ちょっと離れていて、なんとなく間延びした感じが否めなかった。
うさぎちゃんのように上を向いた丸い鼻も、顔の中央にドスンと座った感じを醸し出していた。
いつも着ている服のセンスもイマイチで、ファッション誌をマネしているのはわかるんだけど、大切な何かをはしょったり、サイズが少しだけ間違っていたりして、いつもいつもなんだかちょっぴり野暮ったかった。
ほんと、あと少しのところ、わずかな精度が合っていれば、顔だって松たか子そっくりだったろうし、服のセンスもよかったと思う。
でも、あと少し、ほんの少しのポイントを全て外しているのであった。
そして、肝心の仕事は、些細な書類上のケアレスミスをしては上司の係長に怒鳴られている状況だった。
あのミス、いつも誰がフォローしてるんだろうか…
ま、そんな事知る由もないけど。

私は、梅たか子は先輩だけど、頼りないなあと思っていた。
そして、センスもイマイチだし、顔もなんか微妙に残念な感じで、「私も梅先輩みたいになりたい!!」と思える存在ではなかった。
それよりも、いつも営業成績1、2位を争ってるのに雑誌から抜け出てきたような洗練された雰囲気をいつも醸し出している隣の課の川口先輩にすこぶる憧れていた。
私も川口先輩みたいに、仕事もできて、お洒落で、綺麗で、あんな女性になりたいって思った。
たまに川口先輩とトイレですれ違って「頑張ってね、あなたにもできるから」なんて言われた日なんかには、飛び上るほど嬉しくて、女磨きにも仕事にも精が出た。
梅たか子じゃなくって、女子ヒエラルキーの最上階に属しているような川口先輩と同じ課だったらよかったのに…そう思ったことさえあった。

そんなある日、私が同僚とフロアの電話番を交替した後、人もまばらな終了間際の社員食堂で残り物のB定食の衣が多すぎる酢豚をつついていると、同僚の竹田が息を堰切って私のところにやってきた。
「ちょちょっと聞いてよ! 梅たか子が結婚するってよ!」
「はっ! マジで? え、えっ、誰と?」
私は、驚いた。
だけど、ここで慌ててはいけない。
何も結婚すればいいってもんじゃない。
誰と結婚するのか、これが女にとって最重要課題だろう。
誰と結婚するのかでこれからの女としての運命が大きく変わると言っても過言ではないからだ。
「それがね、営業部でいつも川口先輩と1位争いしてるアノ先輩………」
同僚の竹田が私を無視してしゃべくりまくっている間、私はもはや彼女の言葉なんて聞いてやしなかった。
耳に入らなかったのだ。
な、なんでよりによって梅たか子が、あんないい男と結婚できるのか…
仕事でいつも鈍くさい梅たか子。
着ている服のサイズがいつも微妙にフィットしてない、ちょっと野暮な梅たか子。
松たか子に似てるくりくりお目目なのに、設置が離れているせいで間延びした印象の梅たか子…
どこもかしこも全てがオシイ、残念の代名詞な梅たか子。
松竹梅の一番下の梅たか子!!
竹にも松にもなれない梅たか子なのに!!
それなのに、何でなの??
私には意味がわからなかった。
川口先輩がアノいい男と結婚したんならわかる。
だれもがお似合いのカップルだって思うだろう。
だけど、だけど、何で梅たか子なんだよ!
こんなことって、あるの~~~???
もう、ちょっと~~。
なんか、不合理じゃない?
誰か、教えてよ~、何で梅たか子なんだよぉ…

私が食べ残したB定食の酢豚を目の前に食堂で絶句していたあの日から3か月後の6月、梅たか子はバージンロードを歩いていた。
なんでも、新婦の梅たか子は6月の結婚にこだわったそうで、優しくてデキル新郎はそれを叶えるべく、最短で会場を押さえ、今回の挙式と披露宴にこぎつけたのだった。
私も招待状を頂いたので、しかとこの眼で何故梅たか子がアノ人と結婚できたのか、暴いてやろうと思い、会場へ向かったのだった。

プロにメイクされ、最新デザインのウエディングドレスに身を包んでバージンロードを歩く梅たか子は、やっぱり、何かが残念だった。
プロの力を借りてシンデレラのように魔法をかけられたはずなのに、やっぱりどこかが惜しかった。
ちっとも洗練されてなかったのだ。
だけども、とっても幸せそうだった。
私は、同じように列席している、上品だけど艶やかな誰もが見とれてしまう和服姿の川口先輩に向かって「梅先輩、やっぱり今日も何か惜しいですね」と、おべんちゃらを言った。
川口先輩は、「そうね…」と乾いた声で一言だけ言って、押し黙った。
川口先輩、ショックだろうなあ。
そりゃそうだよね…だって、輝いていてカッコいい川口先輩こそが今日の新郎とお似合いだって社内では噂されてたから。
そこをあの残念な梅たか子がかっさらっていった訳だから。

教会での挙式が終わり、披露宴会場へと移動した宴も終盤になったころ挨拶があった。
新郎謝辞である。
ここで私は、新郎が何故梅たか子を選んだのか初めて新郎の口から聞くことになった。
新郎は、仕事でミスして遅くまで残業していた梅たか子をみかねては、いつも手伝ってやっていたとのこと。
ドジでおっちょこちょいだけど頑張っているところ、そして、梅たか子のどことなくホワンとした感じに、いつも癒された、そしてそんなところに文句なしに惹かれたと言っていた。
最愛の妻を幸せにします、だと。
もう、完敗を通り越して、梅たか子に乾杯って感じだった。
残念で惜しいあの感じは、最上な男子からすれば「ホワンとした感じ」と翻訳されるのである。
そして、癒されるんだと!!
全く、ちきしょー!
何だってんだ!!
たしかに、天丼屋さんにご飯を食べに行って、いつもいつも、大アナゴとエビ入りの、しかも1800円もする「松」ばかり頼めないよね…
毎日の生活だから、キスと野菜天だけの900円の「梅」だとホッとする。
野菜天ばかりなのも健康的だしお値ごろな値段もほっとできる。
男の口から放たれて初めて腑に落ちることだった。
何も磨きに磨いて、社会的にわかりやすい最上をそろえればいいってもんじゃないってことを。
しっかし、全てにおいてオシイ、残念な感じが梅たか子の計算だったら、許さないからね~と思った。
幸せになってください、梅たか子先輩!
ちょっと~、私も梅たか子先輩に続いて幸せになってやるんだから~。
とはいっても、あの常にオシイ、残念な感じは、まねしようと思ってもできないからねっ。
あれは、梅たか子だからできること。
私は私の良さを探して行こう!
竹とも松とも、梅と比べる必要はないのだ。
誰と比べることもなく、自分の良さを追及して…。

 

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2016-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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