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商売の秘訣は、美容師さんが教えてくれた


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:nasuica(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
みなさんは、どっちのタイプだろうか?
 
・美容師さんを指名する
・美容師さんを指名しない
 
もしくは第三の選択肢で、美容室を高い頻度で変える、というのもあるだろうか。私は、決まった美容室で、決まった美容師さんに髪を切ってもらうことにしている。
 
そういう都合もあり、人生の転機、例えば大学進学、就職、転勤のたびに好みの美容師さんを探している。
 
今月、会社の都合で転勤をすることになった。また美容室を探さなければならないのか……。と少し嫌気がさしている。そして、担当してもらっていた美容師さんに、最後に髪を切ってもらいに行った。新天地で、すぐにいい美容室が見つかるとは限らないからだ。
 
彼には3年近く髪を切ってもらっていたため、少し感慨深い気持ちになっていた。そういえば、いい意味でも悪い意味でも、印象に残った美容師さんが3人いるなあ、と昔に思いを馳せた。
 
 
一人目の美容師さんは、大学時代に三回だけ髪を切ってもらった。見た目は30代後半で、少し派手目の、バンドマンっぽい格好をしていた。
最初に髪を切ってもらった印象はとてもよかった。私に似合う髪型を提案してくれたし、腰が低く、とても丁寧だったからだ。
 
しかし、三回目に態度が一変する。その美容室に三回目に予約して伺った。美容室の常識を知っているわけではないが、一時間待たされた。もちろん、その時は混雑していたのだろう。しかし、当時の私は
 
「美容院を予約していて、一時間待たせるって、そんなことある!?」
 
とむちゃくちゃにイライラしてしまった。そして、髪を切ってもらう時も、待たせたことを悪びれもせず、かなり短時間でこなした。と、そういう印象を勝手に持ってしまった。そういうことがあると、次に行く気が起きない。その時は、新たな美容室を探しに行く羽目になった。
 
 
二人目の美容師さんは、大学から上京して、就職した時に出会った方だ。
二回目に伺ったときだっただろうか。初めてその方が担当になった。女性の方で小柄だが、見た目と違ってチャキチャキしている方だった。30代前半くらいだっただろうか、いろいろな苦労をされているようだった。かなり有名な美容室で働いた後、シングルマザーとなり、子育てのために、実家に帰ってきたということだった。
 
明るく、かつ、嫌味なく「この髪型がいいと思う」と、思ったことをズバズバ言ってくれるような方だった。たまたま、当時流行っていた漫画があったので、髪を切ってもらっている間に、3巻の途中まで読んだ。
 
まだその美容室の様子見をしていた自分は、次に行く時も、指名せずに予約を取った。その時も、その小柄な美容師さんだった。そこで私は衝撃を受けた。
 
前回読んでいた漫画が、3巻から机に置いてあったのである。
 
「続き面白いですよ、ハハハっ」
 
その美容師さんは、私が漫画にハマったことを見抜き、ちゃんと用意してくれていたのである。その熟練のホテルマンのようなホスピタリティに、虜になった。もちろん、カルテのようなものにメモをして、できるだけそのお客さんの情報を記載しておくのだろう。しかし、そこまで細やかな気配りを美容室で受けたの初めてだった。
 
そこから、4年程度はその美容師さんを指名することになる。学生時代の美容師さんとは違って、何回行っても手抜きすることはない。最初のままの率直なもの言いと、細やかなホスピタリティを持ち合わせていた。
 
その美容師さんとは、私が結婚で引っ越しをしたことから疎遠になった。
最後に伺った時、美容師さんは、マッチングアプリで出会った方と、いい感じの関係になったと聞いていた。彼女は今どうしているのだろうか。また、あの美容室に行ってみようか。そう思わせられるくらい、サービスの質が高かった。
 
 
三人目の美容師さんが、つい最近まで担当してくださった方だ。彼は長髪で茶髪、見た目は正直チャラい。そして、初めて年下の美容師さんだった。3年前に初めて担当してもらったとき、大丈夫かなと思った。
 
しかし、彼には強みがあった。顧客を男性に特化していたのである。髪を切る際には、顧客が求めていて、似合う髪型を提案してくれる。例えば、私は勤め人でお客さんのところに行くこともある。若いにも関わらず、そういったことも瞬時に理解して、清潔感があるが、私に似合う髪型を提案してくれた。
 
さらに、男性に特化しているが故に、会話がめちゃくちゃ「ちょうどいい」のである。高校生の時の部室のような雰囲気で、適当な話ができる。彼が付き合っている彼女との、「男女のあるある」めんどくさいトークを、笑い話にして話してくれる。ついつい時間が経つのを忘れてしまう。
 
私が彼と出会ってから何年か経ち、ついには彼は店長になった。若くしての、異例の出世である。彼の強みと接客の質の高さを考えれば、それも十分に納得できた。
 
 
私が担当してもらう美容師さんで、継続してもらう方には、共通点があるなと思った。
 
「できる」美容師さんは、ネットフリックスだと思った。
ネットフリックスは、定額課金のサービスだ。定額課金のサービスでよく言われる言葉として、「カスタマーサクセス」という言葉がある。
サービスを利用してもらうお客さんの信用を勝ち取り、継続して利用してもらうこと、また、感動体験を継続して提供すること、を指すと言われている。
 
まさに美容師さんこそ、カスタマーサクセスが重要になる職業だと思った。普通の人は、一か月か二か月に1回は美容室に行くだろう。まさに、定額課金のサービスだ。
 
一人目の美容師さんは、単発ではサービスに満足させてくれたかもしれない。けれど、一回の満足度の低いサービスで、お客さんは離れて行ってしまう。少なくとも、私はそうだった。
 
二人目の美容師さんは、「漫画を用意してくれていた」という感動体験でハートをつかみ、その経験に裏打ちされた技術と人間性で信用させてくれた。
 
三人目の美容師さんは、男性顧客に特化することで、質の高いサービスと、居心地の良さを提供してくれていた。それによって、若くして店長にまで上り詰めた。これまで会った中でも、レベルが高い「カスタマーサクセス」を実現していると思った。それくらい、「お値段以上」のサービスを、継続して提供していると思った。
 
 
最後に散髪をしてもらっている途中、彼から相談があった。
 
「店長になって給料上がったんで、彼女に同棲もちかけたんですけど、断られました……」
「まじで意味わかんないんすけど」
 
ちょっとチャラ目のトーンで、彼は言った。好青年の彼が、これからどういう人生を歩んでいくのか、とても気になった。根掘り葉掘り、どういう経緯だったのか聞いてみた。
 
すると帰り際、
 
「続きどうなったか気になったら、またうち来てくださいね」
 
ニヤッとしながら彼は言った。まるで「続きはWEBで」みたいな言い方だった。
末恐ろしい。この言葉で、少し遠くても、また彼に髪を切ってもらいたくなった。
 
 
こちらの人生の節目で、美容師さんが変わる。
しかしこちらも、美容師さんの人生の一部を、会話を通して、定期的にウオッチしていることになる。
 
二人目の女性は、結婚されたのだろうか。三人目の青年は、彼女とうまくいくのだろうか。
 
「あの後、どうなったんですか?」
 
いつか、確認しに行きたいと思った。
 
 
 
 
***
 
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