メディアグランプリ

「え?」と軽く引かれながらも僕が美容室で女性誌を読む理由



記事:まるバ  (ライティング・ゼミ)

 

「今日はどんな髪型にしますか?」

「そうですね。暑くなってきたので、サイドを刈り上げて、ツーブロック気味にして……」

美容室のいつものブリーフィングが終わると、『メンズ・ノンノ』『LEON』などの雑誌を席に持ってきてくれるが、

「えーと、これじゃなくて女性誌をください」

「え?」

「いや、だから……」

たまにこんなやり取りをして、女性向け雑誌を読むのが、実はひそかな僕の快楽なのだ。
男子から見てみると、女性向けファッション誌には、計り知れない魅惑の世界が広がっている。

何も言わなければ、当然、自分の席には男性向けファッション誌が置かれる。もともと店で購入できる種類も限られているので、店員にとって、男性客向けのセレクトはシンプルだ。若者向けかチョイ悪オヤジ向けの2択、迷ったら『週刊文春』! これだけ。

一方、女性客にとってみたら、まったくシンプルではないだろう。どの雑誌を席に置かれるかで、年相応に見えるか、(ポジティブ・ネガティブ両面の意味で)そうでないのかの試金石となってしまう。
「え、この雑誌が似合う年齢に見られるってこと?? (意味深)」

年齢だけでなく、テイストの違いも重要。
ここ数年、30代~40代女性向けにファッション誌の創刊が相次いだことで、ジャンルが細分化され、同じ年齢層の中でも触れ幅がかなり大きくなってしまったからだ。

「いくつになっても永遠に可愛い大人の女」
「自分への投資を怠らない好奇心いっぱいの彼女たちに」
「30歳からの“HAPPY”と“センスの磨き方”を見つけよう!」
「ツヤっと輝く、大人女子力!」

これは、どれも同じ年齢帯をターゲットにした各誌のキャッチコピー。
正直違いがわからない……。

でも、読者女性の間では明確な線引きがあるから気を付けたい。年齢を感じさせない永作博美のようなスタイルを目指す女性客が、もし『CLASSY』を渡されたなら、

「わたし、そんなバリキャリちがうわ。髪振り乱しながら仕事とかしないし!」

なんて、顔には出さないものの胸のうちで思っていることだろう。

きっと、美容師アシスタントくんたちは、隠れキリシタンが踏み絵に臨むように、席へ運ぶ女性誌のセレクトに毎日ドキドキしていることだろう。
なぜ、僕が女性ファッション誌にこだわるか?

好きなモデルさんがいるから?
それもある。

国民的アイドルグループのメンバーにもさっぱり疎く、「ももクロ」5人の顔と名前でさえ一致しないのに、ファッションモデルだけはやたら詳しかったりする。表紙には名前が登場することはなく、広告特集のページでやっと小さくクレジットされるくらいの、ほぼ無名のモデルもひそかにチェックしてたり……。

しかし、モデルさんの笑顔よりも、はるかに心を躍らせて楽しみにしている誌面がある。

それは、

【30日間着まわしコーディネート】。
悲しいことに、最近やや少なくなってしまったが、それでもまだまだ根強く残る、女性ファッション誌で不動の安定感を誇る企画だ。

この30日間コーディネートの、大きな魅力はズバリ、主人公の設定がオカシイ。斜め上を行って、もはやネタの領域に入っている気がする。

これまで主人公の職業は、「出版社の雑誌編集者」「大手企業の広報担当」「広告代理店の営業」あたりが定番だった。しかし、それだけでは手詰まりになってきたのか、最近は職業と背景の幅が広がりを見せる。
・激務で腰を痛め休職中。キャビンアテンダント 美保の30日間コーディネート
・10アイテムで乗り切る! 隠れ鉄ヲタOL つばさの1カ月シミュレーション
・同棲中の彼氏と破局! 心機一転、フリーカメラマン 玲奈の30日間着まわし術
「休職中だったら、服装よりまず治療に専念しろよ!」とか思うのだが、座布団の枚数を競うかのように、毎月各誌でネタ設定の大喜利が繰り広げられている。

そして、マンガのような、ネタに満ちた30日間のめくるめくストーリーが展開される。
ご都合主義でなんともコンビニエントなおとぎ話を、「まーたやってるわ(笑)」といった感じでほほえましく思いながら読むのが、毎月楽しくてたまらない。
・整骨院の担当が高校時代の初恋相手だった!

・鉄道イベントで知り合った鉄ヲタ男子くん。実は弁護士見習い!

・35歳にして、若い男子が集うシェアハウスへ転がり込むことに!?
こんなネタ設定を下敷きにした上で、脳髄の奥を刺激するような、みずみずしい造語でアイテムが紹介されるのだから、脳内で快楽物質エンドルフィンがドバドバ出てくる。

「ゆる感シャツ」
「愛されワンピ」
このあたりはまあ良い。

「おフェロメイク」
おっと、雲行きが怪しくなってきた。

「とぅるるん サロペット」
「とろみブラウス」
水溶き片栗粉でも使っているのか、まるで料理のような世界観にまで到達したクリエイティビティには、改めて感服する。
なぜ、こんなネタに走った企画が支持され続けているのだろう?
ファッション雑誌をよく読む、身近な女友達はこんな感想を漏らした。

「出版社で働く女子ってすごいなー! キュンとするイベントがあんなに発生するとか」

いやいや、違いますから!

どうやら、女性自身も実用的な着こなしのハウツーとして活用しているのではなく、妄想を楽しむものとして捉えているようだ。
それはちょうど、BL女子がカップリングをとっかえひっかえしながら、シチュエーションの妙を楽しむのと似ている。
1カ月上手に着替えて毎日新しい自分を演じたい、という現実世界で手の届きやすい願望を救済しながら、ぶっ飛んだネタ設定を展開することで、願望をさらに発展させた妄想へと化学変化させる。
30日間着まわし企画は、現実と妄想の境目を限りなくあいまいにして、毎日、非日常を味わい続けるための、魔性のスイッチなのかもしれない。

天狼院書店の本拠地、池袋の街を舞台にした、とある小説の印象的なセリフ、

「本当に日常から脱却したければ常に進化し続けるしかない」。
その通り。

そして、非日常を味わいたい気持ち、これは男女共通だと思う。

非日常へ誘ってくれるスイッチが、こんなところに転がっていたとは!
今度、鉄道イベントにでも行ってみるとしよう。

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

【通信受講/日本全国対応】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ2.0」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜《この春、大人気ライティング・ゼミが大きく進化します/初回振替講座有/全国通信対応》

 

 

【天狼院書店へのお問い合わせ】

TEL:03-6914-3618

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。

【天狼院のメルマガのご登録はこちらから】

メルマガ購読・解除

【有料メルマガのご登録はこちらから】

バーナーをクリックしてください。

天狼院への行き方詳細はこちら


2016-05-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事