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お誕生日プレゼントは要りません


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記事:中原育代(ライティング・ゼミ大阪会場)
 
 
娘が深いため息をついている。
ここ1ヶ月、ため息の回数は多くなる一方だった……。
来月は娘のお誕生日、そのあとはクリスマスがやってくるというのに。
「最近、元気ないみたいだけど何かあったの?」
娘は、面倒くさそうに
「もうすぐお誕生日がくるんだよね……」
と言いながら浮かない顔を私に向けた。
 
母親としては、ちょっとでも気分を盛り上げてあげたいと思いつつ、
「プレゼント何するか決めたの?」
と努めて明るく聞いた。
それなのに、まさか、それが地雷になるとは思いもしなかった。
 
「はぁ……。だからさ、それが嫌なの!!」
 
一瞬、私の中でバグが生じ、頭の中がクルクルと回った。
お誕生日プレゼントのことを聞いて、こんなにキレられるとは夢にも思わなかったし、お誕生日プレゼントを決めること自体が、娘にとって苦行になっていたとは予想をはるかに上回る出来事だった。
 
Z世代と言われる人たちが、高価なものを欲しがらないという記事はあちこちでよく見かける。けれど、まさか我が子ももれなくそうなるとは思ってもいなかった。しかも、お誕生日のプレゼントさえも要らないと言い出すとは、想像もしていなかった。
お誕生日とクリスマスが、そう遠くない娘にとって、そんなに欲しいと思っていないプレゼントを、毎年毎年、搾り出しながら考えるのは、今年で終わりにしたかったようだ。
嬉しそうに、お誕生日プレゼントはなにがいいかを聞いてくる親をみて、娘としては気を遣っていたのだろう。どちらかというと、「お誕生日プレゼント」という響きに目をキラキラさせていたのは、昭和生まれの親の方だったなんて……。
 
我が家には四人の子供がいるが、みんなZ世代ということもあり、物欲はほぼ無いに等しいというのは理解していた。お財布だって、気がつけばジップロックになっていたりする。
ただ、お誕生日プレゼントさえも必要なかったと知って、母親としては、ちょっぴり悲しい気持ちがした。
 
この出来事があってから、我が家ではお誕生日にプレゼントを贈るということが恒例では無くなった。欲しいものがあれば、お誕生日の頃に伝え、欲しいものがないときは、お祝いの食事をして「おめでとう」だけもらえたらいいということになった。
 
ときには、「弟が欲しいものができたから、私のお誕生日プレゼントの代わりに買ってあげて欲しい」という権利譲渡のシステムも採用される。
 
物の価値観はそれぞれであるが、世代によってこんなにも違うのもなのかと驚くことばかりである。
「お誕生日は1年に一回の特別な日で、プレゼントがもらえる、ワクワクして待ち遠しい日」というは、もう遠い昔の話なのかもしれない。
 
Z世代の娘曰く
「お誕生日は、自分が生まれた特別な日だし、お祝いしてくれるのは嬉しい! でもさ、プレゼントって自分が生まれたことと何の関係もないじゃん。欲しいと思ったタイミングで、欲しいものがもらえる方がすごく嬉しい!」 なのだそうだ。
 
そういえば、お誕生日になかなか手に入りにくいプレゼントをもらうよりも、友人から突然コナンの漫画をプレゼントされた時の方が何倍も喜んでいた。
 
Z世代の物の価値は、値段では測れないのかもしれない。
そして、待ち望んで物を手に入れるということで喜びが増すということもないのかもしれない。
それでも、お誕生日という、大切な人が生まれた特別な日に、プレゼントに頼ることなく、言葉だけで喜びを伝えるというのは、本来のお誕生日の祝い方なのかもしれないし、何よりも大切なことだったのかもしれない。
私たちの世代が、プレゼントで人の想いを量ってきたわけでは決してないが、Z世代の子供たちをみていると、私たちが忘れていた、プレゼントよりももっと大切なことを思い出させてくれているような気がする。
 
プレゼントは要らないと言われつつも、母親としては、やっぱり子供達のお誕生日は特別に感じてしまうし、勝手にテンションが上がってしまう。
もう頼まれることはないけれど、今でも懲りずにお誕生日プレゼントと称し、「あなたが生まれた日はね……」と同じ話をしながらプレゼントを渡す私は、Z世代の子供たちから呆れられているのかもしれないが……。
 
あなたがこの世に生まれた日、どんなに嬉しかったか、言葉に込めても溢れてしまうので、溢れる想いをプレゼントに変えて。
 
お誕生日おめでとう。
生まれてきてくれて、ありがとう。
 
 
 
 
***
 
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2021-10-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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