ナンパのパーソナルレッスンを受けてみた。
岸★正龍さま(ライティング・セミ)
*この記事は、「天狼院ライティング・ゼミ」の受講生が投稿したものです。
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昨年の9月。
まだまだ残暑厳しい、というかむしろ真夏並みに暑かった日曜日の夕方。
僕はストナンをするために新宿アルタ前に立っていた。
ストナンとはストリートナンパのこと。つまり、道行く女性に声をかけ最終的にはネンゴロになろうという、野郎にとってはドリーミンな活動だ。
この世に生を受けてから半世紀を過ぎたクソオヤジの僕が、一体なにを思ってストナンに挑戦しようと思ったのか? その理由は、どの角度から書いても宣伝につながりここの規約に触れるため割愛させていただくが、とにかく昨年の9月の日曜日の夕方、僕はアルタ前でストナンをやってみたのだ。
結果?
無残。
壊滅。
兇変。
禍殃。
バカじゃね?
キモいって。
ウルサイ。
死ね。
いやもうね、人間辞めたくなるくらいの罵詈雑言。
実際にその晩は浴びせられた言葉の棘が心の隅にまで刺さりまくり、それが辛くて吐くまで痛飲するも酔わないどころか余計に滲みて傷口が広がり、けれど飲まずにいられなくて飲み続け、それが原因でメタメタに身体を壊し、そこから一週間ほぼ廃人になって苦しんだくらい。
悔しい。
一週間経って体調が戻ったとき僕の心を駆け上がってきた感情は、一直線に悔しさだった。なんとかしてストナンを成功させたい。性交までは望まないまでも連絡先を手に入れるくらいの成功は収めたい。
そのためには?
どうしたらいい?
はい、困ったときはGoogle先生に聞こう、ってことで、早速「ナンパ コツ」などでお伺いを立ててみたらGoogle先生は僕に、できないなら習えよ、とばかりナンパ塾やらナンパのパーソナルレッスンやらが存在することを教えてくれた。
いまはなんでも学べるんだなぁと感心しつつ、さらに情報を集めると、オラオラ系とかお笑い系とかナンパの先生にも色々流派があることがわかってきた。
その中から僕が選んだのは誠実系間接ナンパを教えている先生。
選んだ理由は、「お茶いかない?」などとストレートに攻めていく直接ナンパと違い、道を聞いたりするところから入る間接ナンパなら僕にでもできそうだと思ったから。加えて、生徒さんの中に半世紀童貞を守った禿頭さんがいて、その人でもレッスンを受けた後にはストナンで美形女子の連絡先を手に入れることができた、と書いてあったから。
つまり簡単に言えば、これなら僕でもいけるんじゃね? と思ったのだ。
僕は早速先生にメールを送り、レッスンを受ける日を相談し、レッスンフィーを送金し、指導の当日を迎えることとなった。
*
先生との待ち合わせは新宿西口を出たところだった。
指定された場所に5分前に到着し「青いシャツを着て行きます。私は背が小さいのですぐに分かると思います」という先生をお待ちしていた。あ、あの方かな? 青い服の、って、え? 小っちゃ! 僕の前にやってきて「お待たせしました」というこの先生、予想よりかなり小さい。これはナンパを考えたときかなりのハンデなのではないだろうか……
「小さいな、と思ってるでしょう?」
この先生、エスパーか! 僕の心を読んでいる!!!
「確かに僕の背ではナンパにはマイナスが大きいと思います。けれどこれからお伝えする誠実系間接ナンパ法をとれば問題ありません。いや、百聞は一見に如かずですね。まずはやってみましょう。付かず離れずの距離でついてきて見ていてください」
先生はそう言うが早いかキョロキョロとターゲットを探し、狙いを定めると一目散に近寄り声をかけある。
その相手は先生より10センチは背が高い。
しかもモデル顔の美人だ。
生徒である僕の前だからって先生、そんな高目にいかなくても、っていや、高目狙っておけば失敗した場合のいいわけにもなるからわざとの高目か……なんてことを勝手にぐるぐる思っていたら。
二人はスマホを取り出しなにやら操作をはじめ、それが終わると手を振りあって別れ、そしたら先生、笑顔で僕の元に戻ってきてこう言った。
「これから用があるとのことでLINEの交換までしかできませんでした」
そして手に入れたばかりのIDを見せてくれる。
小さな巨人、僕の中にそんな言葉が刻まれた。
「岸さんもできるようになりますから、ご心配なく。やってることは『(両手の間に20センチくらいの空間を作りつつ)この辺りでこれくらいのペンギン見ませんでしたか?』と聞くだけです。そしたら相手の女性は一瞬、え? ってなりますから。その思考が停止している間に話をつないでください。ということで、早速やってみましょう!」
って、え?
もう?
もう、突撃するの?
ペンギンで?
後で知ったことだが、これはペンギンナンパと言ってザブングルの加藤が考案した有名なやつらしい。が、それだけの教えでナンパできるようになるならパーソナルレッスンとか受けに来てませんって!
という僕の心をまたしても読みすかした小さな巨人先生は、「いきなり振っても難しいですかね。じゃあまずは座学でやり方をお伝えしましょう」と言い、それそれ、それを待っていました、まずはちゃんと教えてください、という気持ち満載の僕を従えてスバルビルのマクドナルドに入っていく。
それから30分。
僕は小さな巨人先生から講義を受けた。
講義の内容は、なるほど、という具体性に富むもので、これなら僕にでもできるんじゃないかと感じたし、なんでもお見通しの小さな巨人先生は僕がそう感じたタイミングに合わせて「では実践に移りましょう」と席を立ち、西口に戻り、いよいよ僕の実践のスタンバイ。
「声をかける女性は私が決めますので、迷わずその人に声をかけてください。斜め後ろからですよ。あ、あの女性、赤い服の大きなバックを下げた、はい、あの人です。行ってきてください!」
小さな巨人先生に尻を叩かれた僕は、赤い服の大きなバックを下げた女性に近づいた。迷ってはいけない。この勢いのまま声をかけろ! そう自分に言い聞かせ、斜め後ろから声をかけた。
僕「すいません。この辺りでこのくらいのペンギン見ませんでした?」
女「えっ?(笑)」
僕「いや、僕の飼ってるペンギンなんですけど見失っちゃって」
女「(笑)」
僕「さっき散歩してたんですが、はぐれちゃって。よかったら一緒に探してくれませんか?」
女「(笑)」いながら、去っていく……
先生!
最後は(笑)で去られてしまいましたが、いまの女子、とにもかくにも声をかけた僕を見てくれ、数言ではあるけれど僕の言葉につきあってくれました。「死ね」と言われたことに比べれば、太古の海にシアノバクテリアが登場したに匹敵する絶大なる進化です!
僕は小さな巨人先生に、いま起こったことを興奮気味に報告する。
「はい、第一段階はクリアですね。次は会話を1分つなげることを意識してみてください」
小さな巨人先生は僕の興奮にはまったくつきあってくれず、というか普通に冷静に僕に新たな指令を出し、じゃああの女性で、と次なるターゲットを指定した。直前の成功体験に気を良くしていた僕は勇んでターゲットに近づき同じ台詞を繰り返す。
しかし。
今度はガン無視。綺麗にスルー。
先生、スルーされました、と泣きつく僕に「スルーがデフォです。報告要りません。次は彼女に行ってください」と指示を繰り出す小さな巨人先生。
いや人間ってどんな状況にも慣れるもんだな。何度か繰り返すうちにスルーされることに心が揺れなくなり、次々と声がかけれるようになってくる。
僕「すいません。この辺りでこのくらいのペンギン見ませんでした?」
女「えっ?(笑)」
僕「いや、僕の飼ってるペンギンなんですけど、見失っちゃって」
女「(笑)」
僕「さっき散歩してたんですが、はぐれちゃって。よかったら一緒に探してくれません?」
女「(笑)」
僕「笑ってるのは嘘だと思ってるから?」
女「えーだって嘘でしょ?(笑)」
僕「まだ笑ってる。僕が大事なペットと離れて悲しんでるのに……ペット飼ったことある?」
女「ありますよ、っていうか、いまも飼ってますよ」
僕「そうなんだ! 犬? 猫?」
女「猫です」
僕「猫! 偶然! 僕、ペンギンの他にも猫メッチャ好きなんだよね。猫って無条件に可愛いよね」
女「うん、スッゴイ可愛い」
僕「だよね、だよね、どんな種類?」
女「種類っていうか、三毛? みたいな?」
僕「三毛猫なんだ! 白黒茶色の?」
女「いえ、白に茶色と銀です」
僕「ええー! 珍しいんじゃない? 写真ないの?」
女「ありますよ。ちょっと待ってくださいね」
(スマホを取り出して猫の写真をみせてくれる)
僕「うわー、ヤバイ! 超絶可愛いじゃん!!!」
女「ですよねー。スッゴイ可愛いんです、うちの子」
僕「この写真見て癒されてんでしょ」
女「うん、嫌なことあったときはこの写真見てるかな」
僕「いいなぁ、それ。羨ましい。あのさ、僕もこの子で癒されたいからこの写真送ってくれない? LINEとかで」
女「ええー、LINEですかぁ?」
僕「うん、他人に幸せを分けてくほどにさ、この子も幸せになるって、そういう話知らない?」
女「そうなんですか?」
僕「ほら、神社の神さま? キツネとか狛犬とかいるじゃん。あれと一緒で、人の役に立つのっていいんだって。この子の幸せのためにもさ、送ってよ」
女「じゃあ、わかりました。送りますね」
パララパッパパー
岸は彼女のLINEを手に入れた!
なんだ、これ?
なにが起こった?
どうしてこんなに普通な感じで手に入った?
「おめでとうございます。完璧です。猫好きという共通項でラポールを築き、彼女の猫を褒めることで心を開き、神社という客観的な事例をだすことで説得力を出した。
本当に完璧です。もう私にお伝えすることはありません。あとは実践を繰り返し、あなたなりのスクリプトを組み上げてください」
先生にベタ褒めされて、僕はすっかり有頂天。
なるほど、なるほど。その順番ですね。その順番を意識して僕にとってベストのスクリプトを組めばイイのですね。成功への道が見えました。小さな巨人先生! ありがとうございました!
「はい、お疲れさまでした。僕もこれから5人くらいは連絡先ゲットできるようナンパに入ります。お互いに頑張りましょう」
そう言うが早いか小さな巨人先生は、ターゲットの捕捉に入り、すぐに狙い定め、足早に近づき声をかけ、話し込む。
僕もいまの感覚を忘れないうちにもう一度。
そう思ってまた声をかける。
すると、慣れ親しんだ返答が返ってきた。
バカじゃないの? 死ね。
うん、そうだよね。
世の中そんなに甘くないよね……
けれどなんだろう。
死ねと言われても痛くない。
これは進歩なのか麻痺なのか?
ねぇ誰か教えてください。
***
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