カゲに隠れてばかりだったあの子が最近キレイになったワケ
記事:高野萌美さま(ライティング・ゼミ)
最近、彼女の様子が変わった気がする。
今まではファンデーションに眉を描いただけで出社するような子だったのに、2週間連続でばっちりメイクをしてきている。髪だって、起き抜けのまま来たんじゃないかっていうくらいラフなスタイルが多かったけど、今日の彼女は流行りのくるりんぱヘアを駆使した凝ったアレンジをしてきている。そして、たびたび窓際や照明の近くへ行ってはニコニコした表情でスマホをいじっている。
彼女の身に何があったのだろうか。
恋でもしたのか。
それともおしゃれな友人ができたとか?
「違いますよぉ。彼氏とか好きな人とか、色恋事にはホント縁がなくって」
グロスでぷるんとした赤い唇を大きく開け、笑顔で彼女は答える。
嘘だ。だって私が知っている彼女はそんなうるうるとした唇をしていなかった。たまにメイク直ししている姿を見たことあったけど、メンソレータムの薬用リップを軽く塗るだけだったじゃない。
そもそもあなた、職場に数多いるキラキラ女子たちのカゲに隠れて「あなたって本当にキレイね」って褒めたたえる側の人間だったのに。大体その笑顔は何? 一瞬ドキッとしちゃったじゃないの。
「まぁ……確かに、これまでの私は美意識が低かったですね」
昼休みに彼女をランチへ誘い、あれこれ質問してみたら、遠い目をしてこう語りだした。
「全く興味がなかったわけではないんです。雑誌に載っている可愛いモデルさんを見て『おしゃれだな。この服着てみたいな』なんて思ったり、気になる化粧水のサンプルをもらったら喜んで試してみたりするような、それくらいの興味関心はあったんです。でも」
「でも?」
「『美しい』とか『キレイ』とか、そういったものは私とは無縁だと思って生きてきたので」
彼女の顔が、少しだけ曇った。
「私、自分に自信がないんです。自信なんて、どうやって持てばいいのかも分からなかった。私は昔から松雪泰子さんや檀蜜さんのような、着物が似合う凛とした女性にあこがれていたんです。切れ長の涼しげな目元、色白な肌、そっと美しく添えられたかのような薄い唇。けど、私って真逆じゃないですか。たらこ口だし、団子鼻だし」
確かに、彼女はお世辞にも松雪泰子に似ているとは言えない。冬でも日に焼けたような褐色の肌で、肉付きのいい体形。目も鼻も口も、1つ1つが顔というフィールドで存在感をアピールするかのように大きく目立っている。
「こんな私じゃどうあがいてもあこがれの人物にはなれないって思ったら、メイクをがんばってもおしゃれな服を着ても自分イケてるって思えなくって。ましてや、そんな自分を好きになってくれる人なんてこの世にいないんじゃないかって、本当にそのくらい追いつめられていたんです」
「まって、嘘でしょ!?」
本気で驚いた。だって私は……。
「あ、でも、さすがに『こんな自分じゃダメだ!』って思って、最近始めたことがあるんです。それがこれ。ちょっと恥ずかしいんですけど……」
見せてくれたのは、スマホに保存されていた大量の写真。被写体はすべて彼女自身だ。
「最近、自撮り写真を撮るようになったんです。最初はどうしても照れてしまって、どうポーズをとればいいのか分からなかったんですけど、毎日撮っていくうちに恥ずかしさは薄れてきて、逆に『自分が魅力的に見えるパーツってどこだろう』なんて考えるようになって」
そういいながら画面をスライドし、見せてくれたのは唇が写った写真だった。
「私のたらこ口、もしかしたらセクシーかもって思って撮ってみたんです。松雪泰子には程遠いけど、これもなかなか悪くないでしょ?」
そう、私は彼女のたらこ口が好きだったのだ。ぽってりとした厚みのある唇。そのやわらかそうな唇は、私の目からはとてもセクシーで魅力的に見えていたのだ。
「私にだって魅力的な部分はたくさんあるんです。今までそれに目を向けないで、自分に無いものばかり見ては羨ましがっていたけど……。これからは団子鼻やたらこ口も自分の魅力になれるように研究していきたいな」
自分自身の魅力って、周りは気づいていても本人はなかなか分からないものだ。彼女は写真にして客観的に見ることで、今まで気づかなかった魅力を発見し、自分を肯定できるようになったのだろう。
「今度、自撮り写真の上手な撮り方を勉強しに行くんです。プロのカメラマンにですよ!?テクニック磨いたら、次は先輩のセクシーな写真も撮らせてくださいね」
「えええ!?」
セクシーな自分、か。
私も、気づかなかった自分を見つけることができるのだろうか。
太陽の光で肌がきれいに映った彼女の写真を見ながら、私もこの光を味方につけたいと思った。
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