思いもよらない発表の先に気づいたこと
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:鏡味義明(ライティング・ゼミ10月コース)
「工業技術研修センター配属、鏡味義明」
「は、はい!」
社会人としての第一歩、配属。皆さんそれぞれ希望をもって会社に入り、やりたい仕事に就いてバリバリ働く、そんなイメージを持っているはず。でも、僕の場合はちょっと違ったものだった。
僕はとある自動車部品メーカーに就職した。愛知県豊田市に生まれ、クルマの街で育ったこともあり何の迷いもなくこの会社を選んだ。当時は自動車にカーナビや大きなディスプレイが搭載され始めた頃。僕は理系大学を卒業して技術者として入社、ソフトウェアエンジニアになるつもりだった。
僕が呼ばれた部署名は、製品を開発する部署ではなさそうだ。研修担当なのかなぁ、事務局みたいな仕事ならいやだなぁ。なんてことを思っていると「頑張ってね!」と、入社以来一度も話したこともない同期が何人も僕の肩をたたいていった。
そして配属初日の朝。上司となる方のところにご挨拶に行くと、
「おー、君か。今日からよろしくね。ちょうど学生が集まっているので挨拶に行きましょう」
ん? 学生? 挨拶?
連れられるまま案内された場所は大教室。教室にはずらっと80名ほどの学生が集まっており、その前に立った上司は私を横に立たせ、話し始めた。
「今日から配属になりました、鏡味先生です。では、ご挨拶をお願いします」
「え? あ、はい、鏡味と言います。よ、よろしくお願いします」
ん? 先生? え? あれ?
配属されたのは、会社の中に存在する、企業内短期大学校の講師、という配属だった。そもそもこの会社に学校があり、そんな配属があるなんて全く知らなかった。配属発表の日、肩をたたいていったのはその短大の卒業生だった。
そういえば、配属前の人事との面談で「君、教えることは好き?」と聞かれたことを思い出した。そういう事か……
パソコンのディスプレイに向かって製品開発をする予定が、黒板の前でチョークを使い、学生に向かって授業をすることになるなんて。なんてこった。自分が描いていた姿と全然違う。なぜ僕だけここに? 同期は自分の希望を叶え、充実した毎日を送っているように見えて羨ましかった。
こちらと言えば、1コマ90分の授業に午後から実習。学校という事で朝と帰りはホームルームがあったり、体育祭などの行事では一日ジャージで外にいたり。これって会社員の仕事なんだろうか? なんて事を思いながらの毎日を過ごしていた。学生は寮に住んでいて、寮の生活指導なんてこともやっていた。夜中に電話がかかってきたら、学生が何か悪さでもしたのか、とびくびくしていた。
エンジニアになりたかったはずなのに。学生指導したかったはずではないのに。
「辞めようかな……」なんてことが頭をよぎりつつも、少なくとも2年は頑張ろうと何とか踏みとどまっていた。
そして2年目のある日。授業の中で学生から質問を受け、何気なくそれに対して回答をした。話しながら自分の中で「あれ? 思った以上にうまく説明ができたな」という変な手ごたえを感じた。するとその学生は「なるほど、そういう事ね!」と、パッと表情が明るくなった。
何だろう、それは自分の中の電気が相手に伝わったような感覚。自分が送った電流が、相手に届いてピカッと光った瞬間を見た。瞬間、自分の体中に鳥肌が立っていた。人にものを教えるってこういう事なのか、この仕事って、こんなに素晴らしいものなのか、と思えた体験だった。
そしてそれ以降、その学生は目に見えて変わった。毎日活き活きと課題に取り組み、落ちこぼれ気味だったはずなのに成績TOPで卒業していった。
自分がしたことで、相手が成長する。大げさに言うと、相手の人生が変わっていく。いつしか自分の仕事がとても誇らしく、尊いものに変わっていった。
この体験以降、自分の役割に対しては、まずはやってみることが大事という考えに変わった。たとえ与えられたものであっても、何か面白いところが必ずあるはずだ、まずはそれを感じられるところまで積極的に取り組んでみよう、と思うようになった。ただ押し寄せる波にのまれるだけではつまらない。サーフィンのように、自分から積極的にその波に乗って楽しんでしまったほうが、人生は100倍面白くなる、と。そしてその波は、想像もしなかった新たな波を呼び起こしていく。
あの意外な配属から18年後、僕は人事部で採用発表をする立場になっていた。配属発表の日、500人の新入社員を前に、順番に配属先と名前を呼んでいく。そして全員の名前を呼んだ後、必ず自分の体験を話す。自分が描いた未来は自分の想像の範囲内だ。希望がかなった人もそうでない人も、偶然の体験ができるその波に乗ってみてほしい。その先に、君たちが想像もしていなかった大きな海が広がっているかもしれないよ、と。
そして現在、僕は会社を転職し、新たな仕事に就いている。あの配属発表の時には想像もしていなかった未来が、そこにはある。
***
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