メディアグランプリ

国際比較文化論 《Graduationは家族の祭なのです》



記事:Mizuho Yamamoto (ライティング・ゼミ)

角帽にガウン姿の娘や息子と、満面の笑みの友人夫妻の写真が、この時期Facebookに溢れている。外国人の友人たちは、子どもたちの高校、大学卒業を家族中で祝う。そして祖父母、叔父叔母親戚一同参加の大卒業祝いパーティを開く。

日本は、どうだろう? 高校や大学卒業は、仲間と共に祝い、家族の出番はなさそうな場合が多くないだろうか?

次男の大学卒業の日、私は春休みを利用したワシントンDCへの旅行でアメリカ人の友人宅にいた。夕飯後のリラックスタイムで、友人家族とソファーで寛ぎ、テレビを観たり、パソコンを見たり、雑誌を読んだりで銘々好きなように過ごしていた。面白い記事や、場面があると、

「見て、見て! これ面白いよ!」

みんなで笑いを共有する。友人夫妻はとにかく笑い上戸で、実に楽しそうに、げらげら笑う。

PCを見ていた私は、Facebookの次男の投稿を見つけた。はかま姿のゼミの女子仲間と嬉しそうにVサインをするスーツ男子の写真を指さし、

「ねえ見て! 今日は次男の大学の卒業式だったよ」

というと、家族みんなが一瞬凍りついた。

「えっ! そんな日にここにいていいの?」

「家族で卒業祝いのパーティしないの?」

「日本は、学生同士で卒業を祝うの?」

質問のマシンガン炸裂!

そうだった、ここはアメリカだった!高校も、大学も、家族で卒業祝いをするんだった……

質問者の1人は友人の一人娘。6月の高校の卒業式は、祖父母をはじめとする親戚一同で、ポトマック川で船上パーティをするための船を予約した話を、さっき聞いたばかりだった。卒業は人生の一大イベントで、家族の大きな祭りだったのだ。

私たちの国では、大学合格における喜びの方が、卒業の喜びより勝っている気がする。卒業は、4年間ある程度真面目にやれば手に入るからだ。

入学はそこまで困難ではないが、卒業は難しいというアメリカをはじめとする国々は、卒業が大きな努力の賜物であるからだろう。だから家族中でお祝いしたくなる。

よくここまで勉強をして、単位を取ることができたね、一心不乱に勉強してやっと手にした卒業証書だね、という卒業生への尊敬に溢れる家族の対応なのだろう。

残念ながらわが国では、卒業の時点ではどこへ就職をしたかに気持ちが移っていて、ゆっくりと卒業の喜びを味わう余裕がない。

そう考えると、何とも残念な国に生きているのだなとがっかりしてしまう。

就職したら、次は結婚。子どもはまだ? 二人目はいつ? 一戸建ての家はいつ? 子どもたちのお受験はどう? 高校は? 大学は? 就職は? 定年は? 子どもの結婚は?

いつなの? どうなの? と追われながら人生を終えて行くのが残念な国の住人である私たちなのだろうか?

もう少し、ゆっくりしようよ。
もう少し、今を見つめようよ。
今、この時間を生きることに喜びを持とうよ。

そんなふうに立ち止まって考えてみたくなってもいいのではないだろうか。

早期退職をして、この1年立ち止まりっぱなしの私は、その楽しさに取り憑かれている。

「そういえばさ、おじいちゃまの九十歳のお祝い、何ていうんだっけ? 名前あるでしょう?」

滞在していた千葉のアパートでいきなり次男から言われ、

「ん? 卆寿のこと? 略字で縦に九十って書くからね」

「それそれ! ちゃんとやろうよ、お金僕も出すから」

「いやぁ、偉いよね、あんたさぁ」

「だって、リンダがいつもそういっていたから。家族の行事は大事にしなきゃって」

「リンダ???」
(おっと! 次男に外国人の彼女がいたとは知らなかった)

「留学してた時のホストマザー!!!」

「あ、ああ、ね」

オーストラリアに行っていた半年足らずで、そんな勉強をしてきたのだと思うと、嬉しい母だった。
もうかれこれ8年も前になるのに…… 。

「じゃあ、米寿の時みたいに豪勢に行くかな? ていうか、米寿と卆寿って2年しか違わないんだね」

昔の日本では、それだけ長寿がめでたくて稀なことだったのだと思う。だから小刻みにお祝いをしたのだろう。

そういえば、これもまたアメリカ人の友人におばあちゃんの100歳の誕生日に、家族が50人くらい集まってパーティをしている写真を見せてもらったことがある。

100歳のおばあちゃんは、なんと、スパイダーマンのコスプレ姿だったっけ。

面倒がらずに節目節目で、きっちり楽しくお祝いして、親戚一同集まるのも良いことかもしれない。日本人って、昔はそうやって家族で集まるのが好きだったはずなのに。

ちょっと次男に教えられた気がして、最近の若者は案外ちゃんと物事を考えているのだと嬉しくなった。

国々の違いを知ることは人間の幅を広げる。取り入れたいところと、譲れないところと、せめぎあいの中で生まれてくるものが、新たな文化を築いてゆく。

さて、父の卒寿をどんな形で祝おうか?

旅行となると企画から、乗り物と宿の手配、当日は添乗員並みの働きと、すべてが私1人にかかって来る。男性4人に対して女性は私1人だけ。

そうだ、長男の彼女が年末年始の旅行から、メンバーに加わってくれている。次男の彼女が、外国人だと海外に家族が増えていいなぁと、私の妄想が膨らみ始める。

孫の大学の卒業祝いは、隅田川で屋形船貸し切りパーティなんてどうだろう?

おっといけない、まずは父の卒寿から。家族のお祝い事を楽しむことで、人生に彩りを!

 

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2016-06-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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