「キミのサイコガンを撃て」
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:鈴木敬太(ライティング・ゼミ12月コース)
「指が無いから撃てない……」
過去最大のおねだりに加え、向こう1年のオモチャを諦める約束もして、ようやく買ってもらった2丁のオモチャ拳銃を手に、私は泣いた。
TVで見た西部劇の2丁拳銃が真似できなかったからだ。
4歳のころの記憶だ。
私には生まれつきの障害がある。
左手の指が無い。見た目にもわかりやすい「左全手指欠損」というもので、障害の等級は3級である。
ちなみに、22歳ごろに発症した病気の影響で大腸を全て摘出しており、以来人工肛門で生活している。こちらは「直腸機能障害」という4級の障害で、約25年の付き合いだ。その際、私の障害は足し算(引き算?)されて、2級になった。柔道の合わせ技一本のようだ。
さて、冒頭の記憶は、障害を呪った唯一の記憶である。
他の場面ではマイナスに捉えたことはなく、逆にプラスに捉えたことは数えきれない。むしろ有効活用しかしていない。
今回はこの辺りを紐解き、私なりに障害や境遇の解釈を紹介したい。
結果、己の境遇を悲観して苦しんでいる方が、少しでも前向きに、気楽になれたら嬉しい。
私にとって、障害は武器である。
幼少の私が欲しかった2丁拳銃なんかメじゃない。
まず、2丁拳銃は固定できても指が無いと撃てないと判断し、4歳の私はあっさり諦める。代わりに「コブラ」という寺沢武一氏の描いたSF漫画の主人公に憧れた。主人公コブラの左手は義手で、サイコガンという必殺の銃が仕込まれていたからだ。強くてユニークでモテる彼のキメ台詞「サイコガンは心で撃つもんなんだぜ」にも痺れた。
2丁拳銃の代わりに、割りばしと輪ゴムと段ボールで作ったサイコガンを左手に付けて、トモダチの2丁拳銃に対抗して遊んだ。
「僕の左手を手術してほしい」
ある日、とにかく壊れやすいサイコガンが嫌になり母に頼むと、私の障害を自分のせいだと思っていた彼女は泣いてしまい、気マズくなった私はサイコガンを卒業することにした。
2丁拳銃の件以外では、自分の左手を恥じることも隠すこともなく育った。今は亡き母曰く、幼少のころの姉だけは、写真を撮る時も手をつなぐ時も、私の左手を握っていたそうだ。子供心に私を守ってくれていたのだろうと思うが、なにも憶えていない。
私には、自分の普通と人の普通が違うことなど、どうでも良かったのである。
なんせトモダチと同じオモチャを欲しがると「じゃあそこのウチのコになりなさい」と、5円玉を握らされて閉め出される。そのくせ「だから○○くんは元気なのよ」と、突然半ズボンで学校に行かされる。真冬の北海道で、である。
子供としては、なんとも理不尽な要求をしてくる母親だったので、狙い通りだとは言わせたくないが、とにかく人と比較して落ち込むようなことは無かった。
良い性格に育ててくれた、としておこう。
小学校に通い始めるころには、左手を普通に使う場面が増えてきた。それらの場面を通じて、障害の武器としての可能性を見出していった。
縄跳びは手首に括り、鉄棒は手首で支え、自転車のハンドルは手のひらで抑え、スキーのストックは右手だけで操った。
運動会の騎馬戦では、知的障害のある子を乗せて、彼の帽子を取られないように逃げ回った。
プロ野球を夢見て、サウスポー用のグローブを買ってもらい、右手で取り、右手で投げた。取ったあと、ボールごとグローブを左脇に挟んでボールだけ取り出して投げ、またグローブを嵌める、という動作は、一見なにをしているのかわからないくらいスムーズだった。大リーグで活躍したジム・アボット投手にこそ敵わないが、少年野球では弱小チームながらレギュラーで、ピッチャーも担ったのだから、そこそこはできたと言っていいだろう。
どれも自分とっては普通だったが、体育では先生がマンツーマンで教えてくれたし、騎馬戦では職員会議に呼び出されて「大丈夫か」と確認された。野球では新聞社の取材まで受けた。普通なのに丁重に扱われる……。なんとなく「おいしい」と感じ始めていた。
なお、中学校のサッカーでは、3年間ベンチを温めた。やはり障害の有無よりも、熱意や努力・才能の方が重要なのだろう。
大人になるにつれ、自分の普通が、人の特別であることに明確に気付き始める。
どうやら障害があると大変に見えるらしい。
小賢しくも自然に、普通を武器に、使い始める。
・病気もケガも、障害者医療制度で安くお医者さんに診てもらえる
・テニスコーチ時代、普通に球出しができれば感動される
・販売員時代、ご年配のご夫婦から呼ばれた時は左手を上げて駆け寄ると成約率が上がる
・およそ成人して以降、高速道路から市営駐車場、映画館やUSJまで半額で利用している
・よほど稼がない限り支給され続ける障害基礎年金は、叔母の仕送りに充てて久しい
ズルく見えるかもしれないが、私はなんら恥じていない。もしも選べるのなら、左手の指もほしいし、人工肛門とは決別したい。上述した全てを失うとしても、だ。
だが、必要以上に、誰かを羨んだことも、自分を卑下したこともない。小1で親父が借金で逃げても、中2で母親がガンで亡くなっても、22歳で難病を患い大腸を失なっても「なんでオレだけこんなメに……」なんて思うことは無かった。
当然、ツラかったが、どれも自分にとっては普通だったのだ。
だからこそ、得することもあり、気付けることがあり、役立てる場所もある、と知っていた。
なにより、私はずっと幸せだ。
これを武器と言わずしてなんと言おう。
私にとってのサイコガンは、障害そのものだった。
そこから得た精神性を、即ち、己の普通を貴重だと捉えて磨き続ける重要性を、説きたい。誰であろうと、障害が有ろうと無かろうと、境遇は武器にできる。
活かすも殺すも捉え方次第なのだ。
自身の境遇に苦しむ方に、コブラのキメ台詞を贈りたい。
「サイコガンは心で撃つもんなんだぜ」
***
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