エジソンはなぜ天才なのか。
月曜の朝。
適度に混み合った電車に揺られて会社に向かう。
スマホのメモ帳画面を凝視したまま固まる女ひとり。
それは私だ。
何をしているかというと、書くことを考えている。
いや、正確に言うと、脳内の水面にポコッと浮かんでくる何かを待っている。
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まだ15時間以上ある。余裕、余裕だ! と自分に言い聞かせている。
テーマさえ浮かべば、それさえ浮かべることができれば書くことができる。
月曜の重だるい頭。今にも閉じそうなまぶた。でも浮かぶときは浮かぶのだ。
私にとって原稿を書くのに電車は最適だ。新幹線や特急など遠方に向かうものではなく、通勤電車が良い。電車に乗っていることを紛らわせたい故に書くことに集中できるし、さらに制限時間もある。適度な雑音も重要だ。
静寂の中デスクに座って勉強や仕事に向かい続けられない私には、このやり方が合っている。
そんな感じで電車に揺られております。
かっこつけて書いていますが、もうちょっと早めに準備すれば良いのです。時間に余裕を持って書けば良いのです。追い詰められないとできない性格はもうどうにもならない。むしろどうにかしたいと思っていないのかもしれない。
そうして電車に揺られながらうんうん唸っているとき、ふと有名すぎるあの言葉が浮かんできました。
“Genius is 1% of inspiration, and 99% of perspiration.”
言わずと知れたトーマス・アルバ・エジソンの名言です。韻も踏んでいて名文です。
直訳すると「天才とは1%のひらめき、そして99%の汗である」
「どんな天才でも努力することが大切」「いやいや、それは誤訳。1%のひらめきがなければ努力しても無駄、が正しい」「でもエジソンは努力が重要と他のインタビューでも言っている」など、いろいろと諸説はございますが「どちらにしても、1%のひらめきがなければ99%の努力が生きてこないし、努力しないとひらめきも生きてこないんだよな……」が、私なりの解釈です。
ひらめきがなければ努力の方向性も定まりません。が、闇雲に努力した結果、思わぬ方向にたどり着いて何かひらめく場合もあります。
0から1を作り出す。それが「ひらめき」であり、それが常にできる人は天才と言っていいかもしれません。
また一方で、「努力をし続けられる」というのも天賦の才のひとつであると、そう思います。
そんなことを考えている間、ガタンゴトーンガタンゴトーンと私を乗せた電車は走り、目的地である職場の最寄駅に停車してしまいました。着いちゃったけど、今日はまだ何も浮かんできていません。
でもまだまだ焦りません。そんなことはよくあるからです。
駅を出て会社に向かって歩きながら、なにかないかなーと思って辺りを見渡します。今日は深夜から大雨。ビルの合間に咲いた濡れた紫陽花がキレイです。でも今はそれをテーマとした美しいポエマーな文章は浮かんできません。「すみません、今度にします」と紫陽花に謝ります。
そしてまた、エジソンに思いを馳せます。エジソンについて、以前に少しリサーチをしたことがありました。彼の伝記を読んでいて、その中で強烈に記憶に焼き付いてしまったのは小学生のエジソンに対する担任教師の捨て台詞です。
「君の頭は腐っている」
すごい台詞ですこれ。ドン引きです。いつの世も天才はつらいよ。
「なぜ物は燃えるのか?」と疑問に思い藁を燃やしたら納屋まで燃やしそうになったり、ガチョウの卵を孵化させようと卵を抱えたままガチョウ小屋に何時間も閉じこもったり、そういった若干誤解されがちなエジソンの行動が度重なった結果、先生がぶち切れて言ってしまった言葉です。
「君の頭は腐っている」
言っていいことと悪いことがある。
凡人には計り知れぬエジソンの頭の中を「腐っている」ってことにしないと、担任教師や周りの大人のプライドが許さなかったのでしょう。
それにしても、既にこの時点でエジソンのひらめきがスパークしまくっています。
ここで凡人の私も気が付きました。
新しいことを思いつくことだけがひらめきなのではなく、当たり前のことに疑問を持てること自体がひらめきなのだと。
当然起こっていることとして多くの人が認識していることは多々ありますが、それ自体を疑問に思い、実際に説明できることってどれくらいあるでしょう。
なぜ物は燃えるのでしょうか? なぜ、卵はあたためると孵化するのでしょうか? なぜリンゴは上から下に落ちるのでしょうか? なぜ太陽は明るいのでしょうか? どうやって水はできたのでしょうか? なぜラジオから音楽が聞こえるのでしょうか? なぜインターネットはつながるのでしょうか? 今話題のニホニウムって結局なによ?
ああ、これ全部ネタになるんだ。疑問が全部ネタになる。
「君は頭が腐っている」この言葉なんて、ネタの宝庫じゃないですか。
なんでそんなこと言われなきゃいけなかったのか、なぜそんなふうに言わせてしまったのか。そんな風に考えると疑問は尽きません。
大人になった私が言われたらどう思うのだろうと考えたとき、「頭の中腐ってるって言われた!」とすぐ話の種にするでしょうね。しかも嫌いな人から言われたら「あの人に腐ってるって言われて、むしろ嬉しいわ! 同じ思考回路じゃないってことだからね!」とかなんとかキャッチ! アーンドすぐにリリース! すぐネタとして昇華です。私スッキリ。お肌ツヤツヤ。
好きな人から言われたら、とりあえず落ち込んで反省してみようと思いますが。
エジソンもそれをバネにしたのかどうかわかりませんが、結果的に彼にとっては窮屈である学校を退学となり、理解のある母親のサポートを受けながら、その後は言わずもがなです。
普段エジソンのことなど思い出すことなどなかったのに、月曜の朝にいきなり私の頭の中に降りてきてくれたエジソン。予想以上にいろいろなことに気づかせてくれたエジソン。
そうしてなんとか会社に着くまでにプロットがおおかた完成しました。
エジソン師匠、ありがとう。
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