就活の面接で「お帰りください」と言われて
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記事:飛鳥(ライティング・ゼミ2月コース)
就活解禁日が、私の第一志望の最終面接の日だった。黒いスーツを身にまとった就活生の集団が合同説明会の企業ブースに集まるニュース映像を、道端に落ちたパンくずに群がる蟻のようだと思いながら見ていた。
私が就活生だった年は就活解禁の時期が遅く、人材確保への焦りからか就活解禁前に選考プロセスを進めてしまう企業も多かった。私の志望業界は中でも特に選考時期が早く、すでに内々定を手にしている友人も多くいたなかで、私の就活は負け続き。1回不採用通知をもらえば5日間は落ち込みが続くほどショックを受け、それでも続く面接になんとか身体を奮い立たせて笑顔を振りまく日々だった。そんななかでやっと手に入れた最終面接への切符。しかも第一志望の企業だ。
実はその日、もう1つの面接が重なっていた。第二志望の企業の面接だ。他にエントリーしていた企業はすでに全て不採用となっていたため少し迷ったが、3日前に第一志望の人事担当者から「ぜひ最終面接に来てほしい。」と電話があったことで、第二志望の面接を辞退しようと心は決まった。
この最終面接を乗り切れば就活が終わる。最終面接に呼ばれればほぼ内々定が決まったようなものと入社した先輩に聞いていたため、暗闇のなかでもやっとトンネルの出口が見えたような気分だった。
面接会場に到着し受付で自分の名前を名乗ると、女性の若手社員と思しき受付担当者が何かに気付いたような顔をして、中堅の人事担当を呼び小声で話をした。この人事担当が以前の人事面接で面接官だった人で、その時の手応えは良く、評価されている印象もあった。最終面接前に電話で連絡をしてきたのも、この中堅の人事担当のはずだ。受付担当者との話の内容はききとれなかったが、何か大事なことを思い出せないときのように心がもやもやする。それもつかの間、他の就活生と同様に待合室に案内されたことで違和感は消え失せ、私の心は部屋の空気と同じ心地よい緊張感に包まれた。用意してきた志望動機や学生時代のエピソードを、もう一度頭の中で反芻する。
私の名前が呼ばれたのは、他の何人かの就活生のなかで最後だった。受付の女性社員に面接室に案内される。だが、他の就活生が案内されている部屋とは異なる部屋のようだ。何かがおかしい。部屋に入ると、違和感が目の前に現れた。
役員面接と聞いていたのに、座っていたのはさっき受付で見かけた中堅の人事担当だった。「よろしくお願い致します」私は通常の面接のときと同様に挨拶をする。
「申し訳ないんだけど」人事担当は挨拶もそこそこに、神妙な顔をして言った。「あなたは面接での評価も高く、我々としても一緒に働きたいと思っていました。ですが、あなたの後に面接をした学生さんがとても優秀だったため、採用枠が足りなくなってしまい、あなたの採用を見送ることになりました」
唐突なことに私は絶句した。「本日の面接はどうなるのでしょうか。面接をして評価を頂くこともできないのでしょうか」辛うじて質問が口を突いた。今までの面接の評価は良かったはず。最終面接に向けて志望動機も練り直してきた。今日は何のためにここに来たのか。ここでは終われないと思った。
だが、そんな思いもむなしく、「お帰りください」人事担当は言った。丁寧な態度ではあったが、厄介な虫のように追い払われている気分だった。
面接会場を出て、私は帰りの地下鉄を待つホームのベンチで、金縛りにあったように動けずにいた。焦りと、絶望と、憤りと、そして悔しさと。自分を評価してくれていると思っていた人から、全てを否定された気分だった。面接すらしてもらえないなら、なぜ最終面接にくるようにと電話をかけてきたのか。企業は私を見ていたのではなく、私を駒としてしか見ていなかったのだ。頭のなかはぐちゃぐちゃだった。後から考えれば、第一志望の最終面接に呼ばれたことで、調子に乗っていたのかもしれないと思った。こんなことなら第二志望の面接を辞退するんじゃなかった。辞退したことすら自分の逃げだったように思えた。エントリーした企業は既に全て不採用で、志望業界の採用はほとんど締め切られている。持ち駒はもうない。惨めだった。これから私はどう就活をすればいいのか、そしてどう生きていけばいいのか。
立ち直るのに、長い月日が必要だった。甘いと言われるかもしれないが、結局、その年の終わりまでに就活を再開する気力は私には残っていなかった。
1年経って私は志望業界を変えて就活をし、内定も貰った。働き始めて数年が経つ今も仕事は楽しいし、職場の同僚や上司に恵まれ、信頼もされていると思う。だが、今日評価されていても明日クビになるかもしれない、組織の駒なんてそんなものだから、職場の同僚とお互いに自己開示することが怖いと思ってしまう。周りに恵まれているからこそ、本当はそんな思いを持つことなく信頼しあう関係を築きたかったとも思うが、組織に勤めている限りはそれを受け入れるしかないのだろう。黒いスーツを着た就活生を眺めるたびに、今でも私はそんなことを考えるのだった。
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