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「自転車で200km」のエクストリームイベント「ブルべ」は人生そのものだ


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記事:山本英門(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「このチェックポイントを過ぎるとあと50kmか。もう終わりも近づいてきなた」と思いながらペダルを回す。残り50kmを切ればもう終わったも同然。全行程600kmの道のりも最終盤に入ったというものだ・・・・・・。
 
誰にとっても身近な自転車。だが「あなたは自転車で200km走れますか?」という問いかけに迷わずハイと答えられる人は少ないだろう。東京日本橋から北に200kmは郡山の手前、西に200kmは静岡の先である。
ところが、である。「200km最短の距離カテゴリー」というエクストリームな自転車イベントがこの世に存在する。それは「ブルベ」というスポーツだ。
 
「ブルベ」は「認定」を意味するフランス語で、同国発祥の長距離サイクリングイベントだ。ブルベは完走タイムの速さを競うものではなく、制限時間内に完走すれば誰もが「認定」を受けることができる。参加者同士で脚力を競うというよりは、自身の限界へのチャレンジといった性格が強い。
走行距離は最短のカテゴリーが200kmで、その上は300km、400km、600kmと上がっていく。1000kmや2000kmを超えるブルベもあり、4年に一度フランスで行われる「パリ・ブレスト・パリ」(パリとブレストの往復1200km)は7000人以上が参加するビッグイベントだ。
では200kmを走るのに一体何時間かかるのか?もちろん自転車はママチャリではなくきちんと整備されたロードレーサー。気合を入れて踏めば(一瞬だとしても)40km以上のスピードが出る。
200kmのブルベでは、休憩時間なども含めて時速20kmペースを維持できれば余裕を持って完走できると思ってよい。200kmを約10時間で走る計算だ。300kmだと約15時間。朝6時に出れば夜9時にはゴールできる(アクシデントなく快調に走れば、の話だが)。
しかし、400kmや600kmとなると一筋縄ではいかない。途中で仮眠を取る必要が出てくるからだ。600kmのブルベでは、300km走って4~5時間寝て、また300km走る、というイメージだ。中には1200kmを仮眠なしで走り切る超人もいるが、その話はまた改めて。
 
ブルベは金も時間もかかる。多大な苦痛も伴う。
まずは決して安くないロードレーサーを購入し、長距離を走れるだけの脚力をつけることが大前提。
無事に出走できたとしても、走行中には膝が痛くなるわ、気温3℃で土砂降りの雨に遭うわで、カラダにもココロにも傷を負う。
おまけに、数々の「痛み」ももれなくついてくる。「走った翌日はお尻が痛い」はほんの序ノ口。「サドルで尿道が圧迫されて用を足すたび激痛」「走りながら寝てて転んで鎖骨骨折」といった痛々しい体験談は枚挙にいとまがない。
また、走行中(特にナイトライド中)のアクシデントや珍体験にも事欠かない。「真っ暗な峠道を登っていたらシカに抜かされた」「あまりに眠くてコイン精米機の中で寝たらすこぶる快適だった」本当にあったブルベの怖い話、で本が1冊書けそうだ。
 
それでもなぜ人はブルベに魅入られ、苦しい思いをしてまで長距離ライドの世界に引き込まれていくのか。
それはブルベが「人生そのもの」だからだ。
200kmの道中、何らかのトラブルが必ず発生する。膝や首が痛くなることもあるし、自転車がパンクすることもある。パンクしたら自転車を止めて修理キットでチューブを交換する。
真っ暗な峠道をひとりで登っていると、「なぜ自分は(お金を払ってまで)こんなことをしてるんだろうか」と自問自答する。「こんなにつらい思いをして何か意味があるんだろうか」と。
 
人生も同じだ。
カラダやココロに変調をきたして少し立ち止まったことがあるはずだ。「なぜ今自分はこの仕事をしているんだろうか」と答えのみつからない問いかけをしたことがあるはずだ。
それでも、前に進むことだけはやめなかった。少しずつでも進めば、それだけゴールに近づくから(ちなみにブルベ参加者は「走ってれいばいつかはゴールに着く」と口を揃えて言う)。
若い頃は体力に任せてペース配分なんか考えずに人生突っ走ってた。翌日のことなんか考えずに毎日が全力投球だった。
でも、ブルベではスタートから飛ばす人なんて誰もいない。みんなゆっくり自分のペースで走り始める。200kmは長い道のりだと知っているから。
 
手あかのついた表現だが、人生山あり谷あり、だ。でも死ぬときには「いい人生だったな」と思いたい。
距離の長短に関わらず、ブルベのゴールではいつも幸せをかみしめる。道中が辛ければ辛いほど喜びはひとしおだ。苦しい峠道も凶暴な向かい風もいい思い出に変わる。「トータルで見ると楽しかったな」と心から思える。
 
今年で46歳。人生100年時代、200kmのブルベにすると折り返し点あたりで少し脚に疲れを感じてくる頃か。
そういえば昨年の6月はめまいで倒れて1週間会社を休んだっけ。同級生からはやれ胆石で入院だ脱腸で手術だと、トラブル報告ばかり。ここはブルべに学び、終盤を見越してしっかり補給をしておくタイミングだろう。そう、ゴールはまだ先なのだから。
 
 
 
 
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2022-02-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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