修行先での出会いと涙もろい僕
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記事:リーマン(ライティング・ゼミ2月コース)
1日平均18時間労働、残業代なし。
年休は、年末年始の10日間。
突っ走って生きていた10年間だったと思う。
新卒で入社した会社は、今でいうスタートアップ企業。
完全実力主義の会社だったこともあり、みんな寝る間を惜しんでハードワークをしていた。
人生の楽しみは? と問われると、1年に1回のイベントごとだった。
なんと、全額会社負担で年末年始10日間の旅行がプレゼントされるのだ!
が、しかし、素直に喜べない。
それは、その旅行が、「修行」と呼ばれていたからだ……。
何故、修行か?
理由は、渡航先の場所、宿泊先の有無が決まっていないのだ。
空港でチケットを手渡されるまで、何もわからない行き当たりばったりの旅だからだった。
実力主義の会社なので、業績優秀者はリゾート地や大都市の観光地。
業績1位の者には、南極といった人生で一回行くかどうかの場所を事前に選択できる特権が与えられている。
その他大勢の者は、赤道直下か、極寒の地か行先未定につき、財布のみ持参。
すべて現地調達が基本となる。
初年度、僕は業績未達のため、チケットには宿の記載がない……。
不安ながらも、僕は日本を出発した。
到着したのは、気温30度ごえの、ベトナムだ!
空港から外に出た瞬間、度肝を抜かれる。
「ホテルはどこだ? 送ってやるから金くれ!」
な、なんだ! 人相が悪い(ように見えた)ベトナム人達に、あっという間に取り囲まれた!
恐怖はあったが、修行と思えば出たとこ勝負だ!
「よく聞いてくれ! 話を聞ないと損するぞ!」
50人はいるであろう、取り囲んでいるベトナム人に大声で叫んだ。
伝えたのは、初めてこの国に来たこと。宿がないこと。今、猛烈にお腹が空いていること。
そして、日当を払うから英語が堪能なガイドを一人雇いたいこと。
群衆の中から、一人の男性が僕に近寄ってきて、
「役に立つから雇ってくれ! いますぐに宿とご飯を提供できる!」流暢な英語だった。
ご飯と宿を準備してくれた彼を雇うことにし、晩御飯を食べながら僕からある提案をした。
日本人も現地の人も行かないような場所に連れて行ってほしい。というリクエスト。
翌日案内された場所で、僕は生涯忘れられない経験をすることになる。
訪れたのは山頂の寺院につづく、山の麓だった。
よく見ると、山道の階段の一段一段に、人が座っている。
ガイドによると、
ベトナム戦争で負傷して働けない者、戦争孤児を寺院が面倒を見ているとのことだった。
飛び跳ねながら、爽やかな笑顔で近づいて来る一人の青年がいた。
僕と同じ年だった彼の片足は、地雷の影響でなかった。
生まれた国が違うだけで、ひょっとしたら立場が逆になっていたかも知れない……。
見渡せば、両足がなく手作りのスケボーに体を乗せて、手を使って移動している者もいる……。
涙が溢れ出てきて止まらなかった。
片足の青年が笑顔で、そんなに泣かないで! という言葉を受け、余計に僕は声をあげてしばらく泣いてしまった。
溢れでてくる涙を拭きながら、僕は、ある決心をした。
階段を一段一段登って、五体満足でない人に10ドルずつ配り歩いた。
この国では10ドルあれば3か月は生きていけるらしい。
頂上に着くころ、手持ちの3,000ドルはなくなっていた。
その日以降も、ガイドとベトナムの様々な土地を訪れ、人々との交流を重ねた。
帰国前日には、ガイドの家に招待され、晩御飯もご馳走にもなった。
場所は、メコン川の真上にあるスラム街で、劣悪な環境にもかかわらず、ご家族の笑顔がとても眩しかった。
そして、いよいよ帰国の日。
送ってもらった空港で、僕はまた号泣することになる。
ガイドから、お前がしてくれたこと、流した涙、そのことを絶対に忘れないと……。
奥様から預かっていると土産も渡された。
中身は、昨晩と同じ食材で作ったお弁当だった!
美味しいと言ってくれた僕のために、朝から奥様が作ってガイドに持たせたのだった。
お互いに泣きながら、必ずまた会おう! と固い握手を交わし、僕は日本へと飛び立った。
そして翌年末、僕は業績1位を獲得した!
渡航先もホテルも自由に選べる! 羨望のまなざしを僕に向け、どこに行くのか? と後輩たちから質問攻めにあう。
僕は、「約束をしている人が待つ国に行くんだ」と笑顔で答えた。
到着したベトナムの空港では、あのガイドが僕に両手で手を振ってくれている!
1年越しの約束が果たせた嬉しさと、再開の喜びに早くも泣く僕であった。
***
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