メディアグランプリ

一歩の重み


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記事:J子(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
「日本と海外の懸け橋になりたい」
 
小さい頃の夢を追いかけ、大学時代はアメリカに1年間留学した。
営業をつけるために新卒で入社した広告関係の会社は英語を使うことはゼロだった。
その後、縁あって手伝うことになった実家の農機具店でも英語を使う機会はほぼなかった。
 
いつの間にか「日本と海外の懸け橋になりたい」という夢はどうせ無理だと思い込み、
心の奥底に眠ってしまった。
周りに外国人を見かけても、急に声をかけたら変な奴って思われるかも。
と思い、声をかけることはなかった。
 
その後結婚し子供を授かりたいと思った。結婚して半年、赤ちゃんは中々できなかった。
妊活、不妊治療を3年続け待望の赤ちゃんを授かった。
妊娠して喜んでいた矢先に、つわりが始まってしまった。
丸2日間、2時間おきの吐き気で結局丸2日間寝れなかった時は、さすがに心が折れた。
妊娠2か月から続いたつわりは、妊娠6か月によくなり始めた。
 
やっと楽しいマタニティライフが送られる!
ほっとしたのはつかの間だった。
 
8か月の妊婦検診。
医師から「今から入院しましょう。張りがあるね。しばらく張り止めの点滴をします。
24時間ずっとつけるからしんどいけど赤ちゃんの為に頑張ってね」
急遽入院することになった。
 
病室から歩いて自販機までジュースを買いに行ったら、看護師さんに怒られた。
「藤下さん、ジュース買いにったでしょ?歩いちゃダメです」
 
病室から自販機まで徒歩20歩。たった20歩歩くのもダメなのか。
ことの重大さを改めて感じた。
 
出産する直前まで約1か月半の間入院する生活が始まってしまった。
トイレとお風呂に入る以外はベッドで横にならなければならなかった。
なんとか、入院を乗り切り、やっと退院することができた。
予定日の次の日に待ちに待った娘を出産。
 
出産後、私の容体は急変した。
 
血が止まらず、近くの大学病院に緊急搬送されることになる。
約3時間の緊急開腹手術を受け、なんとか命を取り留めることができた。
目を覚ますと、私は酸素マスクをつけていた。足には血栓を防止するためのエアー
クッションがつけられ、大きくなったり小さくなったりしている。
エアークッションのせいで全く寝られない。寝られないし、体も動かない。
右斜め下をみると、尿を貯める袋が吊り下げられていた。
お腹にはドレーンという血をためる袋が装着され、その袋をいれるポシェットが
首からかけられていた。
 
手作りで作られたポシェットには手縫いで「一歩」と書いてあった。
初めてみた時には一歩の意味がわからないかった。
 
医師が説明してくれた。
「お母さん、大変でしたね。赤ちゃんは生まれた病院にいます。赤ちゃんは元気です。
赤ちゃんに会う前にまずはお母さんが元気になりましょうね。お母さんの出血量は5リットルあったんです。人間の体重の8%がおおよその血液の量で、お母さんは約60キロあったから血液の量は4.8リットル。ほぼ全身の血がでてしまうくらい命が危ない状況でした。
まずは、足を少しずつ動かしましょう。血栓を防止するためです。血栓ができてしまうと、心臓や脳にとんだ場合、命に係わることになる可能性があります」
 
命が危ないほど壮絶だったんだ。信じられなかった。
 
ふと、娘のぬくもりを思い出した。
 
「うわぁ、あったかい」
 
大学病院に搬送される前に、娘の肩を少し触った時のぬくもりだ。
意識が朦朧としながらもほんの一瞬娘に触れた瞬間、私は意識を取り戻せた。
 
とにかく、落ち込む暇なんてない。娘に会いたい。
まずは足を動かそう。食事は全て完食した。医者からは「お母さん無理しないでください」と怒られるほどとにかく食べることに必死だった。
 
ベッドに寝た状態で両足を少し動かせるようになってきた。退院するためには歩けるようにならないといけない。
座ることにチャレンジしたが中々できない。お腹を切っているので、腹筋がうまく使えないからだ。休み休みチャレンジし、なんとか座ることができ、時間をかけて立って一歩踏み出せるようになった。
 
ポシェットに手作りで縫われた「一歩」の文字の重みを肌で感じた。
 
娘とはまだ会えないが、おっぱいはどんどん張っていく。旦那さんが撮影してくれた娘の
動画をみながら「ごめんね、ごめんね」と泣いて謝りながら機械で母乳を搾乳した。
搾乳した母乳は旦那さんが娘がいる病院に持っていってくれた。
 
出産4日後、なんとか壁に手をかけながらも歩けるようになった。
医師には「お母さん、大丈夫ですか?もう少しこっちでゆっくり体を休めた方がいいと思うけど、どうしても娘さんの所へ行きたいんですね?わかりました。退院を許可します」
と退院の許可をもらえた。
 
携帯の画面越しにしか会えなかった娘とようやく会える!
心から嬉しかった。
 
大学病院から娘のいる病院まで車で20分。
私には車の中での時間が永遠に感じられた。
 
「お、お母さんだよ。会いたかったよ」
 
娘を初めて抱き上げることができた。
お母さんという言葉が震えた。
 
命を落としかねない出産を通じて、いつ死ぬかわからないと気づいた。
人生1度切り。何でもやりたいことを娘と一緒にやろう。そう心に決めた。
 
変な奴と思われてもいい。どんどん外国人に声をかけよう。
自宅の隣に公園で外国人を見かけた。お、赤ちゃんが隣にいる。
「ハイ!」
この一声が、私の小さい頃からの夢だった
「日本と海外の懸け橋になりたい」という夢実現へ向けての大きな一歩になる。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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