無理してお酒を飲むのをやめた話
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記事:飛鳥(ライティング・ゼミ2月コース)
なんとなくちょっと、気が重い。
その日は大学のサークルで気の知れた同期5人で、卒業前最後の飲み会が開催されるはずだった。けれども、そのサークルを卒業した先輩の飲み会も同日に行われることが直前に判明し、急遽合流して飲み会をすることになったのだ。
参加するのは同期・先輩合わせて30人以上。
ただでさえ大人数の飲み会は苦手である。たまたま近くに座った人と取り留めのない話をすると言っても話題に困るし、誰にどんな話を振れば良いのか逡巡してオロオロしているうちに、相手が私に話を振ってくれる。口下手な私は気の利いた話も出来ず、逆に相手に気を遣わせてしまったかと落ち込むばかりだ。
今回の飲み会も、気の置けない同期のみで集まるというから参加を決めたのだが……。
とは言え、先輩方のことは嫌いではないし、先輩が参加するからと言って突然キャンセルするのは気が引ける。久しぶりに会う人と話すチャンスだと前向きに捉えて、夜の繁華街を集合場所に向かって歩く。
私のサークルは、お酒が好きな人が多い。人にお酒を無理やり飲ませたり、一気飲みをしたりということは全くないが、自分の好きなペースで好きなだけお酒を飲んでいるうちに、かなりの量を飲んでいる人が多いのだ。
終盤に誰かが酔っぱらって寝転び出すと飲み会はお開きで、酔っぱらった人を誰かが引き摺って帰るといった調子だ。
なかでも卒業後に飲み会で定期的に集まっている先輩方は酒豪が多い。
在学中から良く飲み会に参加していたメンバーだな、と考えながら集まったメンバーを見回す。普段大人数の飲み会にあまり参加しない私はこのメンバーの中では浮いていそうだ。すると私と同じように、あまり飲み会に参加するイメージのない先輩の姿が、隣のテーブルにあるのを見つけた。
全員が席につき、「とりあえずビール」と声が上がるなかで、その先輩はソフトドリンクを注文した。
「ちょっと最近、身体の調子悪くなったことあってさ。社会人になってから、お酒飲まないようにしてるんだよね」
周りは一瞬、その先輩を気遣う様子を見せたが、今は体調に全く問題がないことが分かるとほっとした空気が流れる。飲み会はそのまま何事も無かったかのように始まった。
私が初めて出会った、「お酒飲まない宣言」である。アルコールを受け付けない体質で、という理由で「飲めない宣言」をする人はいたが、「飲まない」という選択肢もあるのだと気付いた。
翌日、私はベッドで一日中ゴロゴロしていた。
立ち上がる気力も起きず、飲み会のあの場面で上手く話せなかったな、などとマイナスな思考が頭の中をグルグル回る。飲み会ではお酒を2杯半ほど飲み、特に飲みすぎたわけではないにも関わらず、飲み会の翌日はいつもこうだ。
周りに比べて、自分がお酒に強いわけではないことは分かっている。飲み会後のこの疲労感は、人と長時間話すことへの苦手意識からの疲れだと信じこんできたが、もしかしたら、お酒を飲んでいるからという理由もあったのではないだろうか。
そんな考えになったのは、前日に「飲まない宣言」を目の当たりにしたからかもしれない。飲み会でお酒を飲まないという選択肢がある。飲み会で当然のようにお酒を飲んできた私にとって、その選択肢は存在しているようで考えたことがないものだった。
考えてみれば、私はお酒を飲みたいから飲んでいるわけではない。周りが飲むから飲んでいるだけだ。美味しいと思うお酒も確かにあるが、どちらかと言えばソフトドリンクの方が好きなくらいだ。それであれば、お酒を飲まないほうが自分に合っているのではないだろうか。
その後社会人になった私は、飲み会でお酒を飲まないようにしている。注文時に一言、「私、お酒飲むと具合悪くなっちゃうので、ソフトドリンクでお願いします」と言うだけだ。
嘘ではない。飲み会でお酒を飲まなくなってからの私は、翌日に一日寝込むことも無くなり、マイナス思考に支配されることも減った。飲み会中でもお酒に気分を左右されず話に集中できるようになったので、話を楽しめることも増えてきた。
「お酒飲むとどうなるの?」と聞かれれば、「お酒飲むとテンションが下がって今以上に口数が減りますし、翌日一日寝込んでいます」と答える。
「それは飲んだらダメだね」と理解してもらえる場合もあれば、「それならお酒飲めるじゃん」と納得できない様子を醸し出す人もいる。お酒を勧められたときは「飲み会を楽しめなくなってしまうので勘弁してください」と返す。時には毅然とした態度も必要だ。
でも、それだけの話だ。周りが結婚や出産をしているからと言って自分が同じ人生を歩む必要がないのと同じである。周りは私の人生に対して責任を取れないのだから。
今の時代、お酒を飲めない体質の人がいることは周知の事実だし、お酒の強さの程度も人それぞれだ。お酒を飲める人でも、体調や都合によって飲めないことだってある。
お酒を多少飲めるからと言って、周りに合わせて無理して飲む必要は無いのだ。
「お酒飲まないと楽しくないでしょ」
今まで何回もそんな言葉を聞いてきたし、それが当然だと思ってきた。でも、周りの当たり前は、私の当たり前ではなかった。私が一番楽しめる方法は、私が一番知っている。だから、私は私なりの楽しみ方をしたいと思う。
***
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