先輩が私を溺愛しすぎている
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:川端彩香(ライティング・ゼミNEO)
自慢ではないが、そんなに人に好かれる方ではない。
考えられる原因としては人見知りのため、親しくなるまでに結構な時間を要すること。大人になるにつれ、多少マシになっているんじゃないかと自分では思っているが、初対面の人に対して謎の敵対心のようなものを感じてしまうのは変わりない。こちらがそんなんだから、もちろん相手も私に嫌な気持ちは抱いてしまうよなーというのももちろんわかっているのだが、30年これで生きてしまったから、変えたくてもなかなか変えられない。そして「これが私だ!!!」と開き直り、今に至る。
そんなに好かれる人間ではないはずの私のことを、なぜか溺愛している人がいる。同じ会社の先輩だ。
先輩は私が入社した際の教育係だった。そして彼は私と同類で、かなりの人見知りだった。お互いが人見知りだったものの、さすがに仕事に支障が出るので仕方なく喋る。それを繰り返していくうちに、私たちは「なんか兄妹みたいやね」と言われるくらいまでに仲良くなった。
先輩は異性ではあるが、結婚して子どももいるので変な感情を抱いたことはなかった。年齢も3つ上だったので、話も合うし楽しかった。私にはお兄ちゃんがいないので、「もしお兄ちゃんがいたらこんな感じなんだろうか」と思ったりはした。
先輩が私を可愛がってくれているのは、よくわかっていた。
先輩の誕生日は私より1週間早かった。何かあげないとなと思ってはいたが、結構好き嫌いが激しい先輩へのプレゼントは選ぶのが難しく、結局スタバカードという無難なものになった。
そして翌週、私の誕生日。先輩が私にくれたプレゼントは、ニンテンドースイッチのソフト、大乱闘スマッシュブラザーズだった。
「はい!」と私に渡す先輩を見て、周りは少し引いていた。私も引いていた。ただの会社の後輩にあげるプレゼントにしては、少し高くないか? みんなでお金を出し合ってプレゼントしてくれるならまだしも、単独購入だ。……高くない? 私なら買わないよ? 私がケチなだけ? 私が変なのか? いや、でも周りも引いてるしな……。
私があげたのは、スタバカード、しかも1,000円。それに対して返ってきたものはゲームソフト、8,000円弱。7,000円のキャッシュバック。
「いや……、あの、なぜスマブラ?」と恐る恐る聞いてみた。「欲しいって言ってたでしょ?」と、「何か変なことしてますか?」とでも言うような、そんなテンションで先輩は言った。
いや、言うたけどさ……。言うたけどさ……?
そこからも焼肉が食べたいという私を、関西の某百貨店の上階にある、一人うん万円もする焼肉のコースに連れて行ってくれたり、一緒に行ったスタバでどれにしようか悩んでいると「全部頼みなよ」と、フラペチーノとケーキ2個を買い与えてくれたりした。仕事がつらくて泣いた時は、プリンを買ってくれて一緒に食べた。もはや餌付けと言ってもいいかもしれない。しっかり餌付けされた私は、素直と言うべきか単純と言うべきか、先輩によく懐いた。
ただ先輩は、どうやら好きな子はいじめたくなったり、やたらと構ってきたりするタイプだった。まるで小学生男子だ。
チーズが嫌い、と私が言うと「チーズが嫌いな女子なんか可愛くない」と言うし、お酒を飲んでも素面の時と何も変わらない私を見て「可愛くないな、モテへんぞ」と言ってくる。酔うと走って追いかけてきて跳び蹴りしてくる。ミナミの街を夜中に全力でダッシュしたのは、一度や二度ではない。跳び蹴りはさすがに上司に叱られていたが。
そんな先輩を見て、周りの人たちは口々に「溺愛しすぎやろ」と言っていた。
周りからそう言われても、そんなに溺愛されている自覚はなかった。なかったのだが、最近になって「この人、私のこと好きすぎるだろ」と思ってきた。
定期的に先輩とは飲みに行っているのだが、ある時「お前もいつかは結婚するんよなー」と言い出した。その時彼氏もいなかったので「まぁ、予定はないですがいつかできたらいいですね」と普通に返事をした。すると先輩は、そっかー、と言い、「……なんか、その相手に負けた気になる」と言い出した。
こいつ、ついに存在もしない人間に対して嫉妬し始めた……!?
そしてまた別のある時。会社で業務の話から脱線してしまい、いつの間にかまた私の結婚(もちろん予定はない)の話になった。
「いつか結婚式することになったら招待しますね」と冗談で言ったら、「泣いてまうかも……」とボソッと言うのだ。
……お父さん? お父さんなの? お兄ちゃんを通り越して、もはやお父さんなのか? 私は娘なのか……?
そういや私が仕事で誰かに理不尽に文句を言われて悔しくてわんわん泣いていた時も、その理不尽な奴に「なんであいつを怒るんだ」と庇ってくれたし(もちろん正当な理由で)、彼氏に振られた時もやっぱり餌付けをしながら「そんな人やめて良かったんや」と愚痴に付き合ってくれた。少し過保護な気もするから、やはりお父さんなのかもしれない。というか、実のお父さんより確実に過保護だ。
別に特別可愛くもないし愛想も良くない。日頃から「お前は可愛くない!」と言われ続けている。にも関わらず、彼はなぜこんなに私のことを溺愛しているのだ……?
疑問に思った私は、お酒の席で勢いに任せて聞いてみた。
「前から思ってたんですけど、なんで私のことそんな好きなんですか?」
返ってきた答えはこうだった。
「うーん……、なんか好きなんよなー」
理由がわからないのに好きって、溺愛以外の何物でもなくないか……?
異性との関係って、付き合うか友達かの2択だと思っていたけれど、こういう関係もあるのか……。ありだよな??
先日、「有休、一気に使いすぎじゃない? もっと考えて使った方がいいんじゃない?」と心配してきた。先輩が去ったあと、近くにいた数人の同僚に「有休の使い方とか、心配されたことないんやけど……」と変わらぬ溺愛ぶりと過保護ぶりに引かれてしまった。
先輩が言う「なんか好き」の「なんか」はわからぬままだが、先輩が溺愛してくれる限りは、私も可愛げのない妹、または娘でいてあげようと思うのだった。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」
〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168
■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」
〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325