メディアグランプリ

たまには頭を両手の奴隷に


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:前田 光(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
「精麻」の読み方すら知らなかった私が「精麻(せいま)結び飾り」なるものを作ろうと思ったのは、神事や神社やお守りや、はたまた魔除け云々に興味があったからではなく、自分の手でたまにはキーボード入力以外のことをやってみたくなったからだ。
 
朝から晩まで自宅でパソコンに向かい、ああでもない、こうでもないとうんうんうなりながら作業をするのが私の仕事だ。
好きでやっていることではあるが、たまには頭を空っぽにしたいし、いつもとは違う風に体を使ってみたい。
そう思ってはいるものの、インドア派の私は自宅にいると休憩時間と作業時間の区切りもあいまいになり、気づけばモニターをにらみながらキーボードを叩いている。
ああ、絵に描いたような悪循環……。
 
そんなある日、新しく知り合った友人から、麻を縒って作る「精麻結び飾り」をやってみないかと誘われた。
あるある! やるやる!!! ところで、それは何?
 
そして今日、彼女のお宅にお邪魔すると、幅は3センチくらい、長さは1.5メートルほどの、クリーム色をした独特の光沢を放つ植物の繊維を渡された。
ほうほう、これが麻か。
 
手に取ると意外とかっちりしていて、繊維に沿って縦に割くことは楽にできるが、横にちぎるのはなかなか大変そうだ。
友人は「昔は生まれた赤ちゃんのへその緒を切るのに麻を使っていた」と教えてくれた。
なるほど。それほどまでに強度のある繊維なのだな。
麻は古来、漁師がつかう網や神社のしめ縄、衣類などの材料として日本人の生活になくてはならないものだったと聞いたことはあった。
だが、実際に手に取るのは初めてだった。
大麻の栽培は昭和23年の大麻取締法施行以来、免許制になっており、厚生労働省ホームページによると、平成28年末の大麻栽培者免許者数は全国でわずか37人、栽培面積は約8ha。
今回の材料は栃木県鹿沼市の大麻農家さん栽培のものだそうだ。
37人のうちのお一人なのか。
なにか、ものすごく貴重なものを手にしているんじゃないかと思えてきた。
 
早速ワークショップが始まった。
最初に幅3センチほどの麻を二つに割き、太い方(つまり根っこに近い方)を結び合わせて結び目を机に固定した。
それから左右の親指と人差し指で麻を一本ずつつまんで、同時進行でそれぞれ右回りに縒っていく。
手が乾いているとうまく縒れないので、濡らしたハンドタオルで時々手を湿らせながら、縒って交差させ、縒って交差させ……をひたすら繰り返す。
90センチくらいの長さになったところで縒り終わりを結び合わせたら、本体になる部分が完成だ。
次にもっと細い繊維を使い、同じ要領で15センチくらいの細い麻紐を2本縒る。
それが出来上がると、いよいよ飾り結びを形作っていく。
まずは90センチの麻紐を真ん中で半分に折り、それから手順に従って結んでいくのだが、残念ながらこれは文章では説明できない。
そもそも、どんな風に作ったのか頭に入っていない。
友人の手元を見ながら、見よう見まねでなんとか完成させたものだからだ。
全体の形ができたら、手できれいに整える。
それから飾り結びの結び目の部分から下に垂らす房の根元を、細い麻紐でしばる。そして、飾り結びの上の部分にもう一本の麻紐を結わえて、フックなどにぶら下げられるようにする。
これで完成だ。
所要時間は2時間ほどだったか。
 
「そんな当たり前のことを」と思われるかもしれないが、人の手ってこんなに繊細な動きができるものだったんだ、というのが正直な感想だ。
そしてもう一つ、今日の主役は手だったなとも。
 
これは、ただ麻の繊維を縒り合わせるだけの単純な作業だ。
だがちょっと気を抜いたり、わずかに手元が狂ったりしたら、せっかく縒った部分が緩んでしまったり、均等な縒りにならなかったりする。
確かに自分の手の中で、形あるものが生まれてはいるのだけど、頭に描くイメージ通りにはできないのが、最初はとてももどかしかった。
なぜか。
普段なら私の頭は両手を奴隷のように使役しているのに、今日は両手の方が頭を主導していたからだ。
そう、指先の感覚を頼りに、どうやったらうまくきれいに縒れるかとちょっとずつ工夫を重ねるうち、さっきやったことが次の瞬間に自分の新たな経験値になって、一縒りするたびにその前よりうまくできるようになっているのが、頭ではなく体で実感できる、そんな2時間半だったのだ。
この体験を言葉で、つまり頭で説明すれば「達成感と充実感が得られた」などと言えるのだが、これも頭で考えたあとづけでの説明だ。
そう、すべての感想は「あとづけ」なのだ。
それに没入している最中は、自分の行動を客観視することなんてできないし、それに没頭しているという自覚すらないのだから。
 
ところで「精麻結び飾り」は、お守りなのだそうだ。
ついつい頭優位になって身体感覚を忘れがちな私に「体を使え!」とメンションしてもらえるよう、よく見えるところに下げておこうと思う。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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