メディアグランプリ

ずっと続くことへの安心感、断絶することへの不安


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記事:井上 ハルカ(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
思春期に、こう思っていたことをよく覚えている。
「悩み事って、1個なくなっても、また湧いてくるな……。いつまで続くんだろ」
昨日のことのように思い出せる。
何で悩んでいたかはパッと思い出せないが、この状況を憂いていたことは確かだ。
悩み事ゼロっ! ラリホー!!
ってときは一瞬で、次の日には新しい何かで悶々としている。
なんとなく山があって、谷があって、それが続くのが自分の人生……のようにイメージして、ため息をついた。まあ、当たり前なのだけど。
 
それは大人になっても続いている。
人生のステージが変わると、物理的に自分のことばかりは考えていられないので、外的要因が「悩むより何とかしなくちゃ!」という横槍を入れてくる。でも、基本は変わらない。やり過ごす方法が身についただけだ。
41歳、子供も二人いて、メンタルが思春期と一緒……。
愕然とするが、高校生の自分も胸にしまって大切にしていたいのだ。
 
私の基本にはこういう願望があって、「成長しない」という現象に妙に安心するときがある。
金曜17時のポッドキャスト番組『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN
」』(以下、オーバーザサン)を聴いていて、膝を打つエピソードがあった。
銭湯通いを趣味とするリスナーさんは、銭湯で人間模様を観察するうち、
「どうやら人間の不安定な思いはずーっと一緒らしいということがだんだん分かってきた」
と言うのだ。
そう、これは私も思い当たる節がある。
記憶が曖昧なので明記を避けるが、ある有名なミュージシャンが、還暦を過ぎても若いころと同じく精神的に尖っているというのだ。人の悪口は言うし、嫉妬はするし、人見知りだし、自意識過剰だし。これは彼の周りにいるミュージシャンのインタビュー記事で語られたことだったが、当時「ああ~年を重ねても人間って変わらないんだな」と思うと、元気づけられたのを覚えている。私のこの状態は未熟だからじゃない。経験を重ねても、多分変わらないのだ。
 
6/17配信のオーバーザサンで語られたことにも、その記憶がリンクして大笑いしてしまった。銭湯で交わされる先輩たちの話は、今の若輩の自分の悩みと何ら変わりない。容姿の悩み、夫の不理解、お金の不安、仕事の人間関係、子供が孫が……その年になるまで、まだまだ悩むんスね……。これを絶望と捉えるか、「もうずっと悩むなら、共に生きるとするか。人様に迷惑かけていないならいいじゃないか。それが人生」と諦めるか。もしかして、悩みがない状態は、もう死んでいるということかもしれない。少なくとも私にとっては。
人間の脳は命に別状がない限り、現状維持に努めるという性質もあるらしい。そういうこともあって、私はこの成長しない状況に希望を見出すのかもしれない。
 
時を同じくして、逆のエピソードにも触れた。
6/18の『オードリーのオールナイトニッポン』に宇宙飛行士の野口聡一さんがゲスト出演された。野口さんが感じた一番の恐怖、宇宙の闇の話だ。
3回目の宇宙飛行での船外活動で、野口さんはサッカー場ほどの広さの国際宇宙ステーションの端まで移動した。橋げたの端の先には何もない。ヘッドライトも太陽の光もあるのに、反射する物体がないと、何も像を結ばず真っ暗なのだそうだ。光がありながら、何も写らないその場所は、闇ですらない。「そこから先には生も死も存在しない、ゾッとした」と語っていた。足元で生き生きと光る地球とのコントラストで、尚更その恐怖が浮き彫りになったのだろうなと思った。
 
野口さんはこの世界の一番端まで行ったのではないか。その先は、異世界。想像するだに身震いする。
連続していた既知の世界が断絶する場所。とても怖い。宇宙ステーションの端にはなかなか行けないとすると、私にとっては生死の境みたいなものだろうか。それはとても興味は惹かれるが、同時に不安になる。
 
悩める私は、イコール生きている証なのだ。昔から連続してきた、よく知っている自分。
ほどほどにため息が出るくらいの大きさの悩みと、うまく付き合いながらいられる状況が、一番幸せかもしれない。克服力や諦める術は、体力と反比例して身についていく。でも、悩みを製造する根幹は変わらない。愛おしい思春期の自分だ。人によっては、どの時代の自分かは違うだろうが、ないものにしないで見つめて、その性質をボンヤリと理解するしかないだろう。
そんなことを、41歳になってもやっていて、多分還暦過ぎても、おばあちゃんになってもやってる見通しだよと、大切な思春期の自分に話してあげたい。ため息つかれるかな(笑)
 
 
 
 
***
 
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2022-06-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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