「水無月」と「ミナヅキ」
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記事:萩原りえこ(ライティング・ゼミ4月コース)
一年の折り返しの月。今年ももう6月だ。
「水無月」とも呼ばれる6月だが、そのいわれは所説ある。例えば、
・田に水を蓄える水の月が転じて水無月と呼ばれるようになった。とか、
・暑さが厳しくなるころで水不足になるから。とか、
・“無”を以前は“の”と呼んでいたので水の月を由来とする。など様々である。
私は、季節に咲く花の移ろいでその時期の変化や時間の経過を感じ取ることが多い。
6月と言えば、真っ先に紫陽花の花を思い浮かべる。
紫陽花は、日本が原産地の花である。けれども江戸時代末期にドイツ人医師シーボルトによって日本からヨーロッパへと伝えられ、そちらで品種改良の後「西洋アジサイ」として再度逆輸入されたという経緯のある花である。
そして昨今、国内の生花市場で取引されている品種名は、アジサイではなく“水の器”という意味を持つ「ハイドランジア」という英名で取引されている。
しかし私は、漢字で表記する「紫陽花」というこの花の名前がとても好きだ。この「紫陽花」という言葉は、「藍色がたくさん集まること」が語源である。紫陽花の小さな濃いブルーの花がたくさん手毬状に固まりのように咲く姿と花の名前の語源となるビジュアルがしっくり合うと感じているからだ。
その紫陽花の花の色は、濃いブルー以外にもあるが、植えられているその土壌の性質によって変わることは良く知られていることだろう。日本の紫陽花がブルー系の花が多いのは、日本の土壌が概ね弱酸性で、アルミニウムが溶け出しやすく紫陽花がもともと持っているアントシアニンの色(赤色の素)とアルミニウムイオンが結合してブルー系になる場合が多いからだと言う。私は、理科の時間に良く使ったリトマス試験紙の実験結果と真逆なことが面白く、子ども時代からとても興味深く思っている。そして土壌にアルカリ性の成分を多く含むヨーロッパでは、日本に比べ赤系の紫陽花を多く見ることができると言うから、機会を作って一度鑑賞してみたいものである。
さて、紫陽花の中には、その名も「ミナヅキ」という名前の品種がある。
水芭蕉で有名な尾瀬国立公園のある片品村は、群馬県の北東部の端に位置する。新潟県、福島県、栃木県の3県にも接している山間いの地域である。
この片品村は、アジサイの「ミナヅキ」の産地である。片品村のミナヅキはその花の大きさや品質で日本においては、トップクラスの生産地である。それは、ピラミッドアジサイとも呼ばれ、片品村のミナヅキは、まるで大きなとんがり帽子のようだ。円錐状に花びらのようなガクをつけるアジサイである。
その1枚1枚の花びら(正確にはガク)には厚みがあり、花付きはとてもしっかりとしている。
そして、同じアジサイでもこれから咲き始めるこの花は、咲きはじめはクリーム色。そして、ほんのりと薄いピンク色へと変化する。さらに秋が深まるにつれて濃い茶色にも近いピンク色へと色を変えていく。同じアジサイの品種でも、こちらのミナヅキの花の色の変化は土壌の成分に影響されないそうだ。高原で栽培されるこの花は、その土地の特性上、気温の変化に敏感に反応しその折々で対応しているのかもしれない。
このミナヅキは、6月ではなく7月以降から霜が降る前の晩秋まで出荷が行われる。1つの花の品種としては、比較的長い期間取り扱われる花である。花全体が大きな円錐形になり、花の色がクリーム色から薄いピンク色へと変わるまでには、何と2か月もの時間がかかるというから、たいそうな箱入り娘かもしれない。
あるミナヅキの花農家さんは、こう言っていた。
「気長に色が変わるのを待っているんだ」
出荷まで大切に育て上げる花農家さんの眼差しがとても優しい。
これから先の季節、この高原で摘み取られたアジサイが全国の市場、そしてその先の家庭へと嫁いで行くのである。
梅雨の雨に洗われたように雨粒をたくさん付け潤った紫陽花の瑞々しさには、目を奪われる。霧のような薄もやのかかった景色の中でもその鮮やかな美しさは、見る人を魅了し、時期の鬱陶しさまでもしばし忘れさせ楽しませてくれる。
そして花が咲き進むその途中途中で、少しずつその色を変えて行く。紫陽花は、その表情を変えながら咲き進んでいくのも魅力的な花だ。
その紫陽花の花言葉は「七変化」
花の色を変えながら移ろいゆく紫陽花の花。自然に寄り添いながら、少しずつのそれぞれ変化を豊かに楽しむ。変わることを感じ取る。そんな日々のささやかな暮らしを大切にしていきたいと思う。
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