未来なんか、本当はないほうがいいのに。
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記事:ほなみ(ライティングゼミ)
金曜日11時53分、新宿駅東口ビックカメラ裏、女性13人・男性1人(そのうち2人組が2組)
開店直後の占い屋、これだけの人が並んでいた。
休日だったら分かる。
だけど、平日の、ましてお盆も明けたランチタイム。
そして、私も15人目の客になろうか悩んでいた。
今ある不安、この先どうなるのか、これからしようとしている選択は正しいのか、
ひとつひとつの答えを求めて私たちは占いをする。
手のひらに広がる線や生まれた日をもとに、自分の未来を教えてもらう。
占いを通して未来を知ることで、このうえなく安心する。
見えない未来はものすごく不安なものだ。
東京生まれ、東京育ち。
最先端のものがそろう、世界有数の発展した街。
先日のリオオリンピックの閉会式でも、最新の技術と演出で世界中にそれを発信した。
数ヶ月前にオープンしてSNSや情報番組を騒がせたと思いきや、いつの間にか違う店に変わっている。
昨日まで建っていたと思ったビルが、更地になっている。
みんな同じような服装をしていると思えば、少したつと新たなブームをみんな装っている。
こんな風に東京は未来であふれている。
この街で生きていて、日々未来を目にしてきた。
それと同時に、社会は「こうあるべき」であふれているようにも見えていた。
いい大学に入るべき、ちゃんと会社に勤めるべき、結婚はこの歳までにするべき、べきべきべきべき……。
社会も少しずつ変わってきてはいるものの、昔からつづく「こうあるべき」には強く縛られる。
この固定された「こうあるべき」のレールから一度でも外れてしまうと、すごく戻りづらい社会だ。
なのに、東京はどんどんどんどん新しく変わっていく。
「こうあるべき」と縛る社会と、ものすごいスピードで迫りくる未来。
旧と新、この2つのバランスをとるのは難しくて、ストレスになる。
だから、未来への不安はつもり、平日の昼間から多くの人が占いに列をつくる。
東京はそういう街だとつくづく感じる。
先日、新潟へいく機会があった。
車の助手席に乗せてもらって、いろいろな場所に連れていってもらった。
初めて見る新潟の日常、そこはおどろくほどに時間がゆっくりしていた。
公園で寝転んでひなたぼっこをしているおじさん。
渋谷駅によくいるせかせかと歩いている人なんていなくて、どうしてこんなところにあるの? どうやって経営しているの? と思わせるようなカフェで店主がひとりのんびりとすごしている。
そして、なにより忘れられないのが、海岸線だ。
一面に広がる日本海をみていたら、きっとこの光景は大昔からつづいてきたんだろうな、
ずっと変わらない形でそこにあって、未来も過去もない。
ここにあるのは、今だけなんだろうな。
穏やかな波の音と夕暮れに近づく日差しをあびながら、この景色が10年後、100年後とずっとつづいていくような感覚がした。
東京で暮らしていて疲れると、ふと「田舎へいきたい」と感じる。
リフレッシュしたい、ってその感覚を漠然とした言葉でまとめてきた、
だけど、日本海を前にして漠然としていたものが形になった。
きっと、不安になるような未来がない、平穏な今がつづく気持ちよさ、
それをくれる田舎という環境を求めていたんだと思う。
そんなことを考えながら、新潟の海に安心感を覚えた。
それとともに、
「きっとここでは飽きちゃうなあ」
そう確信している自分もいた。
わたしが通っていた高校は東京にあるものの、最寄駅からは徒歩20分。
畑にかこまれて寄り道する場所なんてない、よく言えば勉強や部活など“学校の生活”に集中できる、のどかな場所にあった。
そののどかな場所が、私には苦痛でしかなかった。
まわりには行く場所が学校以外ない、すごく狭い世界。
その上、異常なほどに勉強をさせる校風から、勉強に追われる日々で、ただ家と学校を往復するだけの生活になっていた。
与えられたことだけをしていた生活、同じ制服を着てローテーション化した日々をすごす中で、自分の好奇心が失われていく気がした。
なにがしたいのか分からない、なにがほしいのか、なにが楽しいのか、何かを求める欲求がなくなっていることに気づいたとき、ものすごく不安になった。
それから、学校に行かずに本屋にこもる生活が始まった。
地下1階から地上9階までの大型書店、座る場所もある。
お金もなく、遠くへは行けない高校生にはちょうどいい。
そこで、私はかたっぱしから本を手にとった。
今考えれば制服の高校生が平日の午前中からずっと本屋にいて、よく補導されなかったと思う。
当時はそんな心配をすることもなく、本から自分の知らなかった世界をみて、新しいものを知って、好奇心をみたしていた。
そうやってすごすのが、楽しくて仕方がなかった。
卒業後は、東京の中でも最先端の地域にある大学に通うことを決めた。
講義をサボっては、展覧会や映画、真新しい商業施設に行ったりして、本を通してではなく、今度は直接新しい世界に触れるようになった。
出席不足で試験のたびに苦しみはしたが、未来を感じられることが刺激的で楽しくて仕方がなかった。
結局、本能的に未来を求めてしまう。
もちろん、不安にも襲われる。
未来が見えなくて怖くて、ストレスに押しつぶされそうになって占いに救いを求めたり、
いっそう、未来になんて何の期待も抱かないほうがいいんじゃないかと思ったりもする。
大人になるって、そういうことかなあと、「こうあるべき」に従おうとも考えたし、
「こうあるべき」な道をすすんで、平穏な毎日を手にするほうが正解な気もした。
それでもやっぱり、あの何が待ち受けているか、未来に期待する楽しさを失いたくない。
何が起きるか分からなくて、ワクワクして、おどろきに胸躍らすような、
そんな未来を楽しみにして生きていきたい。
いつだって私は未来のとりこなんだ。
私がどうあるべきかは、私が決める。
そう思えた12時23分、占いの列からは自然と足が遠のいていた。
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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