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「ある道具」の魅力を知る旅へのご招待

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:深谷百合子(ライティング・ゼミNEO)
 
 
いつも取材を申し込む時はドキドキする。ホームページの「お問合せ」から、取材目的と取材したい内容を書いて送るのだが、送信ボタンを押すときは緊張と期待で胸が高鳴る。昔、好きな子の家に電話をかける時、電話番号の最後の数字をダイヤルする時と同じような感覚がよみがえってくる。何しろ相手は私のことなど、これっぽっちも知らないのだから、私の「片思い」なのである。
 
「断られたらどうしよう」という不安を打ち消すように、「お願いします」と心の中で唱えて送信ボタンを押した。
 
翌々日、メールを確認すると先方から返信がきていた。「一つご提案をさせて頂きたいと思います」という文言の後に続いていたのは、自社の施設だけでなく、隣接する施設を含めた全体を取材してくれないかという提案だった。1年前に新しくオープンした施設があり、これに伴って最寄りの鉄道駅の名前も変わったという。私にとっては願ってもない提案だ。早速返信すると、先方から「施設を運営する観光協会には、私から連絡を入れますから」と返事がきた。
 
「企業って、普通は自分たちのことしか考えていないよね」と思っていた私は、この先方からの提案に驚いたというか感動した。「恋心」は急上昇である。60年以上前に書かれた本まで見つけ出して、今回取材する地域の歴史を調べながら、私は取材までの日を過ごした。
 
依頼を出してから20日後、いよいよ取材の日がやってきた。名古屋から高速道路を使って小一時間で到着した。周囲を山に囲まれた盆地状の地形だからだろうか、とても暑い。でも、駐車場奥の広場にはアイスクリームなどを売るキッチンカーが2台停まっており、建物の中からは賑やかな声が聞こえてくる。平日の昼間だというのに、結構な賑わいだ。
 
そこから小さな川を渡って歩いて行くと、関所のような建物が現れた。中にはレストランがある。鶏肉を使ったご当地グルメも気になるが、ジビエ料理「猪鹿ちゃん定食」を頂く。
 
昼食を終えて約束の時間より少し前に、観光協会が運営する施設の中に入った。「観光案内所」というと、それほど広くないスペースにパンフレットがずらっと置いてあるイメージだけど、ここは違う。カフェもあるし、地元の職人がつくった雑貨や、こだわりを持ってつくられた食品などが並んでいる。オシャレなアンテナショップといった感じだ。
 
「お待たせしました」
奥から男性一人と女性一人が現れた。
「この施設の立上げに関わるご質問を頂いていたので、今日は市役所の観光課からも対応に来て頂きました」
と観光協会の女性が笑顔で紹介してくれた。
 
「ここの地場産業は800年に及ぶ歴史があるんですけど、今までは施設が点在しているだけで繋がりがなかったんです。それぞれを繫ぐ接点として、人、もの、情報が集まる場をつくりたい。そうすることでこの地域一帯に人の流れをつくろうというのが、ここのコンセプトです。構想自体は30年前からありましたが、昨年ようやく実現しました」
観光課の男性が、資料を見せながら経緯を説明してくれた。
 
ここ岐阜県関市は、鎌倉時代に始まった刀鍛治の伝統を受け継ぎ、世界三大刃物産地のひとつに数えられる「刃物のまち」である。包丁の国内シェアは5割を超えているし、理髪用の刃物に至っては、7割を超えている。もともと私が最初に取材依頼を出した会社は、日本で初めて安全カミソリを製造した会社である。
 
「刀鍛治の歴史を紹介したり、日本刀を展示している伝承館には、特にPRもしていないのに外国人観光客が来たりするんです」
というくらい、「刃物の聖地」なのだ。
 
一方で刃物は危険と隣り合わせである。ケガを心配して、子どもに刃物を触れさせたがらない親御さんも多いという。
 
「そんな親御さんに代わって、子どもに刃物を使う経験を提供するワークショップを企画、開催しているんです。カトラリーを作ったり、木を削ってたき火をするワークショップなどです。できあがったものを嬉しそうに見せにくるお子さんの姿を見ると嬉しいですね」
観光協会の女性はそう言って笑った。
 
観光協会への取材を終えると、次は道路を隔てて真向かいにある「刃物博物館」へ向かった。この博物館は日本で初めて安全カミソリを製造した会社が運営する博物館である。安全カミソリの国産化に挑んだ歴史も興味深かったが、ここは単なる企業博物館ではなかった。
 
今のような刃物がなかった古代の人たちは、どのようにして物を切っていたのか?
包丁で切れる仕組みとハサミで切れる仕組みにはどんな違いがあるのか?
 
そんな普段考えたこともないような問いが投げかけられ、その謎が解ける。身近な道具でありながら、あまり深く考えたことのない「刃物の持つ力」を体感できるのだ。そして、刃物は人の生活とともに進化してきたことを感じさせてくれる。
 
もうすぐ夏休みである。この夏休み、「刃物の聖地」岐阜県関市を訪れてみてはどうだろう。お子さんの自由研究のテーマに、「切る」を取り上げてみるのも面白いかもしれない。

 
 
 
 
***
 
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2022-07-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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