一所に居続ける彼と移り続ける彼女は双子だった
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記事:SoL(ライティング・ゼミ)
ある時、上司に言われた。
「君には欲がない」
そして、またある日、別の先輩に言われた。
「君の望むものは何か」
その問いに答える前に私のアイデンティティの1つを頭に入れておいて欲しい。
私は双子だ。
10分先に世界に出て行った兄と私は、二卵性の双子だった。
顔はどちらも父親似。
一卵性のように見分けがつかないくらいにそっくりだということはなかったけれど、兄妹として認識されることに不都合がないくらいには似ていた。
けれど、性格は真逆。
それはまるで水と油。
それはまるで白と黒。
面白いくらいに正反対だった。
社交的な兄と1人が好きな妹。
落ち着きの無い兄とのんびり屋の妹。
浪費家の兄と節約家の妹。
まるで真逆だった。足して2で割ればちょうど良かったのにという言葉を何度も聞いて、耳にたこが出来るほどだった。
そんな真逆の双子が進んだ人生も全く違っていた。
兄は故郷を離れなかった。
大学も県内、就職先も県内。
一所に居続ける彼。
私はと言えば、高校で1年間海外へ、大学は関西、就職は関東。
地元の北陸に戻る事はない。
とどまることなく移り流れてここにいる。
最後まで真逆な双子であることよ。ちゃんちゃん。
と終わるはずだった私に降りかかった1つの問い。
それが、
「君の望むものは何か」
「君の欲求はどこにある」
あー、そんなものある訳ないじゃないか。
「なぜ」
なぜと言われても、欲求なんて生じるか生じないかなんて決められない。あなたは欲情する相手を選べるのかい。
「なぜ」
生じないものは生じないんだ。
「なぜ」
なぜ、
「なぜ」
なぜ?
「なぜ」
なぜ、望まないのか。
「なぜ」
諦めるのか。
「なぜ」
だって、……
「なぜ」
だって、……望んだらここにいられないかもしれないじゃないか。
私たちは双子だった。
同じ年齢で、同じタイミングで、同じものを必要とする。
私たちは恵まれていた。
出来る限り1人に1つ与えられた。
おもちゃもバッグも絵本もそれぞれに与えられた。
私たちは恵まれていた。
1人1つ与えてもらった。
双子なのだから、何でも一緒になんてことはなかった。
けれど、同時に与えられないものがある。
例えば、それは保育園のゴールテープを切る瞬間だったり。
例えば、それは絵画の1等賞だったり。
例えば、それは――母の背だったり。
1つしかない場所をどうやって2人で分けられただろう。
年齢が違えば、タイミングをずらして2人とも得られたかもしれない場所。
けれど、双子の私たちは、同じ年齢で、同じタイミングでやってくる。
その場所を、その地位を、その価値を、どうやって分けられただろう。
中学生までの私の居場所は学業で得られた。
私の存在価値はテストの点数だった。成績だった。
それを悲観するために書いている訳ではない。
ただ、私は、勉学に励むことで居場所を、地位を、存在価値を手に入れた。
それは何年間続いただろう。
中学の3年間。いや、もっと前から――
だから、高校以降の私は疲れてしまったのだ。
居場所を保ち続けることに。
だから、私は知ってしまったのだ。
居場所を保ち続けることの大変さに。
蝶が甘い汁を求めて花から花へと移るように、居場所を変え続ける。
居場所を保ち続けることは大変だから。
居場所を保ち続けることはしんどいから。
けれど、
けれど、
『居場所が欲しい』
だから、移ろい続ける。
鉄則は、多くを望まないこと。
兄は恐らくその社交性と性格の良さで居場所を、地位を、存在価値を手に入れた。
恐らくだ。
けれど、友人を集めて、知人を集めて、彼は居場所を保ち続ける。
故郷に留まって、彼は待つ。
大学進学で故郷を離れた同級生も、
仕事で都市に出た友人も、
家庭をもって離れた知人も、
戻って来た時には、自分の居場所で出迎えられるように、
自分がいることを思い出してもらえるように。
だから、彼は一所に留まり続ける。
一所に居続ける兄と移り続ける私は双子。
きっと私たちは似た者同士。
「居場所が欲しい」
そんな私、最近引っ越しをしましてね。
ルームシェア。
誘った相手に聞いたよ、私で良いのかって。
そしたら、答えたんだ。
「いいんだよ」
そして、私にまたしばらくの居場所が出来た。
また移ろうかもしれないけれど、その時はまた居場所を探そう。
そして、見つけたら、故郷の方向、西の空でも向いて彼に教えてあげよう。
一所に居続ける兄と移り続ける私は双子。
きっと私たちは似た者同士。
「居場所が欲しい」
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