メディアグランプリ

電車で泣いた誕生日が、私を結婚に導いたといっても過言ではない。


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記事:川端麻美(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
この7月の半ば、私の36回目の誕生日だった。今年も暑い1日だった。
36回目にもなると、欲しいものも無くなるし少しずつ落ち着いてきているけれど、誕生日はやっぱりうれしい。
しかし誕生日を迎えるとどうしても思い出す出来事がある。
30歳の誕生日におめでとうと言ってくれず、そのまま音信不通になった彼のことだ。
 
出会いは普通に友達主催の合コンだった。
歳は私のひとつ下、お父さんの会社の経営を手伝っていた。年下の割には現実的でしっかりしているように見えた。
どちらかと言うとあちらからの強い押しもありデートを数回して付き合うまでそんなに時間はかからなかった。彼が住んでいた横浜市・野毛に飲みに行くのが楽しかった。
 
付き合ってみると、どちらかというと私の方が新しい恋にウキウキ、前のめりになっていたかもしれない。彼は典型的な「釣った魚に餌はやらないタイプ」の男性だった。
彼からのこまめな連絡は付き合ってからはほぼ無くなり、彼の唯一の日曜日の休みは、趣味のバスケサークルの練習を優先されるので会えない。
休日には会えないけれど、平日の夜にいきなり車でうちまで来てくれたりしたのがうれしかった。
 
そんな付き合いが続いて3ヶ月、私の誕生日の7月がやってきた。
仲の良い女友達はステキなご飯会を開いてくれて、「新しい彼からも何かお祝いされるかもね?」などと煽ってくる。
そりゃ期待してしまうじゃないか……!
 
彼とは誕生日の前日、会うことになった。
というか、前日?
でも前々から嫌な予感はしていたのだ。
なぜなら、私の誕生日当日は日曜日だったから。
彼の大事なバスケサークルとの天秤、なんだか負けそうだなとは思っていた。
 
誕生日の前日、その日は鎌倉に行った。
海の近くでお寿司を食べて、鎌倉の街をブラブラした。
その日はお酒を飲みたいというリクエストで電車での移動だった。
夕方になり、疲れたから解散しようかという彼。
それ自体は問題ないのだが、そこまで一切言われてないことに気づいた言葉。
「誕生日おめでとう!」
 
そのまま電車に乗り込み、ゆらゆら揺れながらモヤモヤしてしまう私。
ここで絶対言わない方がいいと分かっていたけど、ついつい口から出てしまったセリフ。
「私、明日誕生日なのですが? 何も言ってくれないの?」
 
それを聞いた彼。
「ああ、おめでとう」
 
「忘れてた?」
 
「いや、知ってたけど。 俺は誕生日を祝われてもうれしくないから、特におめでとうと言わなくてもいいなと思った」
 
流れる沈黙……。
 
「本気で思ってない人におめでとうと言われても、全然うれしくないものだね……」
 
そのとき、おいおーい! とか笑って突っ込んでいたら良かったのかもしれない。
そんなこと言われたのが初めてで、やっと口から出たのがこのセリフだった。
野毛に住む彼は、先に電車を降りていった。
付き合って初めての誕生日だし何かあるかも? という期待で浮かれていた自分が情けなくなって、泣きながらひとり電車で帰った。
その日以降、彼とは一切連絡が取れなくなった。
 
誕生日当日、離れて暮らす家族からLINEがきた。
「誕生日おめでとう! お姉ちゃん、生まれてきてくれてありがとう!」
父親、母親、妹のメッセージ入り動画だった。
毎年同じような動画が送られてくるのだけど、そんな出来事があったからものすごく泣けた。
たかが誕生日、されど誕生日。
単純なことだけど私のことを大切にしてくれる人、誕生日おめでとう! と、心から言ってくれる人を見つけようとそのとき思ったのだ。
 
それからすぐ気持ちを切り替えるのは難しかった。
あの最後のセリフを言わなければよかったのかな?
音信不通になった理由は何なのだ?
共通の友達の情報によると、変わらず毎週バスケサークルには参加しているらしい。
横浜が、彼の住む野毛という街が、嫌いになった。
 
今思うと、この誕生日事件は野毛の彼との「価値観の違い」を表す出来事であり、割と付き合ってすぐ分かってよかったと思う。
そして私のことを彼はそこまで好きでなかったのだなと感じる。
今まで生きてきた環境も違う、他人の男女が出会うわけだから価値観の違いがあって当然であるけれど、
なんか変だなと感じたら、自分の中でその違和感にきちんと向き合うこと。
おかしいなと思うことを飲み込んでそのままにしないことがその先の幸せへとつながると、この体験を通して思うのだ。
 
この誕生日の数年後、知人の紹介で私は新しい彼に出会った。今の旦那さんだ。
彼はこの悲惨な誕生日エピソードを「そりゃあいい恋したなあー!」と、思いっきり笑い飛ばしてくれた。なんだか心がスッと軽くなった。
彼とは結婚するまで長い時間は必要なかった。
それからは野毛に飲みに行くのもヘッチャラになり、野毛の街が好きになった。
 
「お誕生日おめでとう!」
誕生日の1週間前からバースデーウィークと題して、美味しい物を食べに行くなどイベントが目白押しな我が家。
 
30歳の誕生日は涙しかなかったけど、失恋だって何だって、必ず時間が解決してくれる時が来ると思う。
ありがたいことに、今の私はとても幸せだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-07-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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