私はきっとまだ薬剤師になりたいんだと思う
【8月開講/東京・福岡・全国通信対応】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜《初回振替講座有》
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記事:永井里枝(ライティング・ゼミ)
週末になると、パソコンの前に張り付きになる。
インターネットでFacebookのページを開いたまま、自分の作業にとりかかる。
ポーン
新しい投稿の通知だ。
待ってましたとばかりにそれを開き、記事を読む。
そんな過ごし方になってから、そろそろ1カ月が経とうとしている。
この夏、私はライティングゼミに通い始めた。
週1回の投稿チャレンジの締め切りは月曜日。
週末になると受講生が次々に記事をアップし始める。
それを、かたっぱしから開き、何度も何度も読み返す。
「なるほど確かに」と唸ったり、「こんな素敵なエピソードに出会うにはどうしたらいいんだろう」と頭を悩ませたり。
今まで生きてきた30年間の中で、こんなにも目を見開いて日々を過ごしたことはなかっただろう。
ライティングゼミの開催されている天狼院書店という場所は、どこか異世界へ通じる入口なんじゃないかと思うことがある。
時がとまったような空間のなかで、知らない世界への引き出しをどんどん開けられてしまう。
その日は2回目のゼミが開催されていた。
「私は、普段は薬剤師として働いているんですが……」
隣からそんな声が聞こえてきた。
へー、私以外にも薬剤師の人きてるんだ。
後で話してみたいと思いつつ、グループディスカッションに意識を戻した。
しばらくしてまた、同じ声が聞こえてきた。
「出身は栃木で……」
その言葉に耳を疑った。
私も栃木の出身である。
加えて、このゼミの開催地は福岡である。
1000キロ以上も離れた土地で、同郷の、しかも同じ薬剤師の人と出会うなんて!
そして、ゼミの終了後に「偶然ですね」なんていう話から、高校まで同じことが発覚したのだ。
もうこれは運命だと思った。
きっと天狼院という不思議な場所のパワーに引き寄せられて、私たちは出会ってしまったのである。
私たちの母校は、バイタリティという言葉を具現化したような生徒の集まる学校だった。
その陰にかくれて、当時の私はとても面倒な奴だった、いや、今もそうだけど。
物心ついたころから「生きる意味」や「産まれた理由」を自問自答し、アイデンティティを拗らせていた私は、中学、高校と暗闇を駆け抜けるような青春を送っていた。
大げさに語れる身の上話があったらいいのに。
なんて思うほど、私の抱える不幸話は陳腐で面白みのないものだった。
そこにアイデンティティをねじ込むほどでもない、ありきたりな話は行き場を失い、私の中で炎症反応を残したままだ。
18歳になった私は家を出て、同じ高校の人間が一人もいない、遠くの大学に進学した。
移り住んだ福岡という土地は、私の知らないことに溢れた魅力的な街だった。
言葉も、食文化も、何もかもが新鮮だった。
そしてある時ふと思った。
「私と同じ炎症を抱えた人は、世の中に必ず存在する」と。
ならば、それを発信しようじゃないか。
整骨院に通うおばあちゃんが
「雨の日は痛みますね」
「ほんとほんと、梅雨の時期は憂鬱でしょうがないですね」
なんてニコニコしながら話している。
そんな感覚で。
決して私は自分の不幸やコンプレックスを切り売りしたいわけではなく、何かメッセージを伝えたいわけでもなく、ただ示したいだけだ「ここにもいるよ」と。
きっとそれは、同じ炎症を抱えた人を癒すことができるはずだと信じている。
それからは、自分の感じたことをできるだけ形にして残したいと思うようになった。
暗闇を照らす光になんてなれないけれど、駆け抜けた足跡くらいは残したっていいだろう。
全然、格好よくなくたって。
まず、歌うことを始めた。
天神という場所はストリートミュージシャンのメッカだ。
たくさんの人が立ち止まって歌を聴いてくれた。
歌う歌は自分で作ることにした。
私自身のことを過不足なく表現できる歌は、やはり私にしか書けないと思った。
その結果、たくさんの友達ができた。
SNSの発達に乗っかって、まだ見ぬ人とのつながりもできた。
そして、天狼院書店という場所に辿り着いた。
前からやってみたかった「文章を書く」ということを始めた。
ようやく、自分自身の炎症を鎮める薬を見つけたような気がしている。
腫れて熱を持った場所から目を背けることなく、「ここか、どれどれ」と優しく薬を塗ってやる、そんな作業に思えてならない。
できることなら、同じ炎症を抱えた人の薬になりたいし、私の薬では癒せなかったとしても「ちちんぷいぷい」くらいにはなれたらいいな、と思っている。
そうか、だとすると私にとって本は読む薬ってことか。
はじめて会った同郷の先輩を車で送り、その足で本屋に向かった。
本が「読む薬」なら、作家は「薬剤師」かな。
なんて言いながら。
解決なんてしなくてもいい。
大げさに話すほどでもない、日々のモヤモヤにただ寄り添ってほしいのだ。
あのころ読んでいた作家の棚を無意識に探していた。
「読んだ、これも読んだ。これも読んだ、と、思う。これ、は?」
藤色のクラフト紙に一羽の鳥と雨粒が銀の型押しで描かれている。
シンプルでかわいらしい装丁のその本は、今の私にピッタリの薬だと確信した。
「絶対泣かない/山本文緒」
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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