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記事:櫻井 るみ(ライティング・ゼミ)
昔から、顔を見られることが苦手だった。
それはひとえに自分の顔に自信がなかったからで(今でもないけど!)、好きな男の子と目が合うとすごく嬉しい反面、自分の顔を見られたと思うとものすごく恥ずかしかった。
未だに、好意を寄せている人と目が合ったときにどんな顔をすればいいのか分からない。
笑おうとすると変に歪む。
見つめようとすると睨んでいると思われる(ような気がする)。
全く意識していない人になら、へらへらと笑いかけることができるのに……。
笑いかけたい……。
にっこり微笑みたい……。
でも、笑顔を向けたい相手ほどそれができない。
今でも。
なので、「こっち向いて」と願う一方で、「こっち見ないで」と願うという、心のアクセルとブレーキを同時に踏むようなことを思っていた。
好きな人をまっすぐ見つめたいのに、見つめ返されるのは怖いのだ。
自分の顔を見られた後の反応やどう思われているのかが怖かったのだ。
そんな私のアンビバレントな欲求を満たしてくれたのが、写真だった。
写真なら、いつまでもいくらでも見ていられる。
写真なら、こっちを見ていても私を見ているわけじゃない。
だから私は、好きな人の写真を欲しがった。
いつの時代も女子中高生とは写真が好きだと思う。
イベントがあれば必ず何人かはカメラを持ってきていた。
イベントがなくても誰かしらがカメラを持っていて、教室や部室で写真を撮っていた。
修学旅行などの一大イベントともなると、何個のカメラが行き交っていたのか見当もつかない。
女子が写真を撮る理由は、もちろん友達との思い出を残すためも多分にあると思う。
でも、同じくらいの割合で、好きな人の写真が欲しい、もしくは、好きな人と写真を撮りたいという理由もあるだろう。
というか、私がそうだった。
イベントでみんなが浮かれているその機会に乗じて。
大会や合宿など、学校行事でありながら校外に出ているという中途半端な開放感に乗じて。
好きな人の写真を撮りたかった。
私が中高生だった頃は今のようなカメラ付きの携帯電話なんてなかった。
なので、写真を撮るとなれば、もっぱらインスタントカメラだった。
だけど、それで充分だった。
「撮るよー!」と軽く声をかけることができる。
軽いノリでカメラを向けることができる。
その簡単手軽さが、撮る側にも撮られる側にも、気負わない空気を作ってくれるのだ。
だから私はインスタントカメラが好きだった。
カメラ越しでなら、好きな人のことをまっすぐ見ることができた。
好きな人から見られても、慌てることはなかった。
カメラを介せば笑顔を向けることもできた。
カメラを持つことで私は安心していた。
カメラは私にとって目に見えないジュラルミンの盾のようなものだった。
自分は安全な位置にいて、安心して好きな人のことを見ていられる。
私はカメラに守られていたのだ。
そうして私は、時には自分で撮り、時には好きな人と仲のいい男子に頼んで、歴代の好きな人の写真を手に入れてきた。
そうした数々の好きな人の写真は私の「見られたくない」と思う心のトレーニングにもなった。
要は慣れたのだ。
好きな人の顔を見ることに。
写真を手に入れた直後は、それこそ写真なのにまっすぐ見られなかったり、一瞬だけ見てすぐ目を逸らすようなことをしていた。
写真なのに、恥ずかしかったのだ。
だけど、やっぱり好きな人の顔は見たい。
だからマジマジと写真を見るようになる。
ドキドキしながら写真を見つめる。
それが写真を見ることにも慣れてきて、「やっぱりカッコいいなぁ~」とヘラヘラしながら見るようになる。
そうなると今度は、やっぱり動いてしゃべっている姿を見たくなる。
でもその頃には、写真で顔を見ることにはすっかり慣れているので、ためらいなく見つめることができた(あまり見過ぎると不審者扱いされるので、そこは注意したけど)。
私は、カメラと写真を通して自分のコンプレックスを少しだけ打破することができたのだ。
そう考えると、カメラは私にとっては最強の武器だ。
最強の防具であり、するっと人の懐に入り込める道具で、かつ私も他人も笑顔にしてくれるもの。
初めてインスタントカメラを手にした時から、もう20年以上が過ぎている。
その間に、カメラはどんどん小型になり、写真はどんどん綺麗になっていった。
多くの人が携帯電話やスマートフォンで写真を撮り、気軽にSNSにアップするようになった。
私もインスタントカメラからスマートフォンに持ち替えて、あの頃と同じようカメラを向けている。
でも、あの頃と違うことが一つだけ。
あの頃はとても言えなかった「カッコいい」とか「可愛い」とか「そういう顔好き」とか、そういった言葉が自然に口を突いて出てくることだ。
お世辞じゃない。ノせるための言葉でもない。
本心から。
あの頃は恥ずかしくて言えなかった自分の気持ちを、今は素直に表現することができる。
年を取った分、心を出すことが恥ずかしくなくなったのだ。
顔見られることも……。
ごめん。
それは年を取った分、心とお肌の準備がいる。
***
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