メディアグランプリ

堂々と無愛想を楽しもう


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記事:木村保絵(ライティング・ゼミ)

「え?」
わたしは目が点になっていた。
びっくりしすぎて、おかしすぎて、心の中で吹き出しそうだった。

だけど恐らくそれは、一切顔には出ていなかったはずだ。
誰にも、伝わっていなかったはずだ。

わたしは感情を表に出さないし、口に出さない。

そのことが、これまでのわたしを苦しめ続けてきた。
だけど、これからはそのことが、わたしの誇りになり、自信になっていく。

「ちょっと本論とはずれますけど、簡単なタイプ診断をしてみましょうか」
休日返上で参加した勉強会で、突然講師の人が質問表を配り始めた。

「コーチングで使うんですけどね。すぐ2~3分でできちゃいますから」

コーチングという言葉は、何度も耳にしていた。
だけど、具体的な内容はわからなかったし、タイプ診断を使うということも、この時に初めて知った。
きちんと理解していないので、具体的な言及は避けるが、
簡単な質問に答えていくことで、自分が4つに分けられたどのタイプなのかがわかるという。

じっくり考えるか、スピード重視か。ハッキリ物を言うか、内に秘めるのか。
仕事への向き合いかたや人付き合いの姿勢などについて、いくつかの質問に答えていく。

「うーん、こっちの時もあれば、こっちのこともあるしなー」
悩みながらも1つずつ丸をつけていき、最後には自分がどのタイプかを割り出した。

『アナライザー・冷静な分析型タイプ』

え、そうなの? 
4タイプの中でも、一番心を惹かれないタイプに当てはまっていた。

最初は驚いたものの、説明を聞けば聞くほど、だんだん可笑しくなってくる。

感情を表に出さない
じっくり考える
急かされることや、突然の変更にパニックを起こす
自分のことをあまり話さない
正解を求める
頑固で融通がきかない
曖昧な表現には、徹底的に質問で返してくる

それらは、わたしがこれまで30年以上悩み続けてきた自分の欠点だった。

「なんだ。そもそもそういう人なんだ」
そう思うと急に肩の力が抜けて、可笑しくなってきた。

いつもニコニコしていたい。
どんな時も明るく笑って、まわりを元気にしたい。
困っている人がいたら、やさしく受け止めてあげたい。

そう思うのに、心からそう思っているのに……まったくできない。

仕事中にニコニコしていると、小さなミスをしてしまう。
そのミスが気になり、笑えなくなってしまう。
根拠を突き詰めないように、頭をやわらかくしようと意識すると、
自分が何をしているのかがわからなくなる。
「え、結局何しているんだっけ?」「これってなんの目的でやっているんだっけ?」と
自分や相手に対して追求が始まってしまう。

そんな自分を変えようといっぱい悩んで考えて、改善する努力もしたはずなのに、長続きしない。
すぐにいつもの無愛想で冷淡な自分に戻ってしまい、自己嫌悪に陥る。

「なんでわたしはこんなに意地悪で冷たいんだ」
そう思って苦しくなる。

だけど……
そんな自分が100%悪いとは、認めたくない自分もいる。

本当に意地悪だったら、こんなに真剣に考えなくない? 
本当に冷たい人だったら、最初から関わらずに放棄してない? 

どうしてわかってくれないの。
そう思って、悔しくなる。
それでも口に出しては言えないから、結局シャワーの中で泣いて、布団の中で歯を食いしばる。

この欠点さえ無くせればうまくいく。
みんなと仲良くできて、楽しくなる。
そう信じて努力しては、結局できずに絶望することの繰り返しだった。

だけど、そんなわたしの悩みは、たったの2~3分の質問で解決されてしまった。

わたしが消そう消そうと努力していた欠点は、
欠けている「点」なんかじゃなく、わたし「そのもの」だったのだ。

だから、どんなに消し去ろうとしても消えることはないし、
消そうとすることは自分を否定することになり、それが苦しかったのだ。

なんだ。そうゆう人なんじゃん。
「どうしてわたしはそんな人なの!」と悩んでいたって仕方がない。
「そうです、わたしが変なおじさんです」と開き直るように、
「そうです、わたしが無愛想で冷淡で面倒くさい女です」と受け入れるしかない。

それなら自分でも笑って納得できるかもしれない。
だめなところを消し去るよりも、笑って受け入れるほうが、ずっと楽そうだ。

長所と短所なんて、いつだって紙一重だ。
それが自分だと認められれば、あとは良い方向に転じさせるだけだ。

わたしは多くの人を盛り上げることはできないけど、冷静に話すことはできる。
例えば心に残る結婚式は、賑やかに盛り上がる瞬間と、会場がシーンとして聞き入る場面の両方があるからこそ、メリハリがあって心を揺さぶることができる。

主役としてスポットライトを浴びることはできないけど、一人ひとりがいかに輝けるかを客観的に判断することはできる。
映画や舞台だって、演者だけがいるわけじゃない。
優秀な裏方が全力で役割を果たすからこそ、作品全体が熱を帯び、光を放つことができるのだ。

それが長所だと思えれば、いくらでも活かし方はある。
第一、たった4つに分けたうちの1つのタイプなだけだ。
共感出来る人だって大勢いるはずだし、タイプが違うからこそ必要としてくれる人だっているはずだ。

相手のことも自分のことも否定しない。
それだけで、もっともっと肩から力を抜いて生きていける。

もう、正解を出せない恐怖に怯えるのは止めよう。
誰かに何かを聞かれたら、会話をすればいい。
なんでそんな簡単なことにも、気づかなかったんだ。

相手が出してきた問題に正解を出せないと、嫌われてしまう。
そんな不安が、ずっと心の中に根付いていた。

間違えたら、終わりだ。
そんな恐怖にずっと追われ続けていた。

そのために必死で考えて考え続けて、結局うまく言えなくて、相手には何も伝えられなかった。

そのことに気づけた今は、なんだか、楽しくなってきた。
感情が表に出ないなら、あえて出さないことも、楽しんでみよう。
「さぁ~て、当ててごらん」と気楽に構えていれば、「なんでわからないの!」と溜息をつくこともない。

うまく口に出せないなら、書き出せばいい。
目に見える文字にして、自分の思いをどんどん分析していけばいい。
そうやって客観しすれば自分も満足するし、そのことが誰かに届けば、何よりしあわせだ。

あの人、無愛想なのにしゃべると面白い。
あの人、普段は飄々としているのに、文章は熱いよね。

そんな風に思われるために、あえて、無愛想で生きていこう。
無愛想に苦しめられるのではなく、堂々と無愛想を楽しんでいこう。

そう思って街に出てみたら、冷たくなり始めた風も、なんだか心地良く感じられた。
固いアスファルトの地面から顔を出し、
屈折しながらも伸び続けていく雑草が、ニヤリと笑いかけてくるようだった。

***
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2016-10-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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