ベーグルに取り憑かれたアラサーはなんでも包みたがる
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記事:mumi(ライティング・ゼミ12月コース)
沼……何かにどっぷり「ハマる」という意味。周りが見えなくなるくらい夢中になることを表現するときに「沼」と表現する。
ほう、最近よく聞く「沼」について軽くネット検索してみたところ、こんな回答が得られた。
なるほど、まさしく私は今、ベーグル沼にいるわけだな。
ちなみに私は料理が好きだが、あまり得意ではない。
レシピに「適量」と書かれようものなら戸惑い、料理中に話しかけられようものなら、自分が大さじ何杯目を測っているのかすぐに分からなくなってしまうくらいには苦手である。目分量での調理など一生できる気がしない。
けれども、そんな私も今やベーグル沼にどっぷりだ。ベーグルそのものにハマったのは、コロナ禍に入った3年ほど前のこと。家から歩ける範囲をひたすら散歩していた頃に遡る。その日偶然散歩していたエリアに大人気のベーグル専門店があったのがきっかけだ。
常時60種類以上はあるだろうメニューの豊富さと、こだわり食感の虜になるのに時間はかからなかった。
生地だけでも、食感を楽しめるよう3種類用意されており(もち・ふか・むぎゅ)、お食事系と呼ばれるものでは、トマトラザニアミートクリーム、明太子バター、そら豆キーマカレーから始まり、甘い系もモンブランクリームやかぼちゃチャイクリームといった見たことのないラインナップが、それぞれの具材にあった食感の生地に包まれて焼き上げられていく。次々に焼きたてが並べられていくのを、視覚と嗅覚で永遠に楽しめる勢いで私は見入ってしまった。
今までベーグルと言えば、プレーンやブルーベリー、チョコといった生地練り込み系、もしくはベーグルサンドしか知らなかった私には衝撃的な光景だったのだ。
地下1階という一見すると不利な立地でありながらも、開店前から大行列しているのにも納得だ。
ところが、せっかくお気に入りのお店を見つけたのに、転居によりお店には足が遠のいてしまった。パン大好き女優として有名な木南晴夏さんがTVで紹介したことで、より混雑してると耳にしたのも大きい。新居近くにもベーグル屋さんを発見し、何度か足を運んではみたが、焼き立てにお目にかかれることは少なく、以前のようなわくわく感は薄れてしまった。
そんなとき以前通い詰めていたベーグル屋さんが手作りベーグルの本を販売していたことを思い出した。通っていた頃は気にもとめなかったのだが、行けないならふと自分で作ってみようという気持ちになった。
行けぬなら 自分でつくろう ベーグルを
といった豊臣秀吉的ノリで私のベーグル作りは始まった。
そして驚いた。軽い気持ちで始めたものの、まんまとハマってしまった自分に。
まずはなんといっても焼きたてをすぐに食べられること
お店によっては焼き上がりの時間をお知らせしてくれ、それに合わせて買いに行くことはできるが、商品をつかんだトングでそのまま口に運ぶなんてことは到底できない。
それが家だとオーブンから出してそのままかぶりつくことができるのだ。
やけどしそうなほどの熱々ベーグルを前に、食べかすなんて気にしていられない。
そして癒やし効果を感じている。
始めは指にぼそぼそとまとわりついていた粉たちが、愛情を込めてこねるうちにつるんときれいにまとまっていくさまは、幼い頃夢中になった泥だんご作りを思い出させてくれる。
むにむにとした手触りが愛おしく、いつまでもこねていたくなるような気持ちになるのだ。
特別な道具なしに始められるのも初心者にはありがたい。
そりゃあ、スケッパーだのこね台だのあるにこしたことはない。ましてやホームベーカリーがあれば、材料を入れてボタンひとつ押すだけで発酵まで終わらせてくれるというのだから、私も暇を見ては「ホームベーカリー おすすめ」と検索をかけてしまっているのも事実である。
とはいえ、まな板や包丁、家庭用オーブンレンジといった、一般家庭にある道具で誰でも作ることができる手軽さは初心者にありがたい。料理が得意でない私は、大さじ小さじを測るとき、大きな声での指差し確認を欠かせないのだが。
意外なことに体力がいるため、自然と筋トレになっている。
こねる際に胸筋や二の腕に力をこめる必要があり、さらに体重をかけるためには腰を軸とした下半身の安定感も必要なことがわかってきた。
子どもを抱っこするお母さんにいわゆる「抱っこ筋」ができるように、私の体にも「ベーグル筋」が作られ始めているのかもしれない。
そして私の中でハマる決め手として大きかったのは、バリエーションが無限にあることだ。
先日タンドリーチキンの失敗作を、角切りにしたポテト、とろけるチーズと一緒に包んでみた。焼き立てをほおばったとき「え、美味しい」と思わず声に出して驚いた。
ベーグルの具材用として作ったとしたならば、100点満点ではないだろうかと思うくらいに美味しかった。それ以来余ったおかずを見ては「これベーグルに入れられるかな」と考える癖がついてしまった。
今となってはご飯のためのおかずなのか、ベーグルの具材のためなのか料理の目的がわからなくなってきているくらいだ。
少し傷んでしまった果物も、砂糖やレモン汁を加えることで美味しい具材に早変わりしてくれる。自分のアイデア次第でいかようにもバリエーションを広げられるのはとても楽しい。
お店に並ぶベーグルももちろん美味しくて大好きだが、時に失敗しながら自分で作ったベーグルには汗と涙と、そしてなんともいえない充実感がつまっているように思える。
困ったことと言えば、ウエストがほんの少しきつくなったことだろうか。
まあ、そこはご愛嬌ということで。ベーグル筋の発達に期待してよしとしよう。
そんなわけで今日もまた、ベーグルに入れる具材をあれこれ考えながら夕飯の買い物へでかけていく。
***
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