たかが庭の水やり
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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ライティングゼミ:中園 由紀子
細かい枝を切り、生きた枝がぐんと伸びるように アーチ上に花が咲き並ぶように
我が家の実家の小さな庭は花畑だ。花壇ではなく花畑。春にはすれみやポピー。夏にはあじさい、ゼラニウム、秋にはコスモス、バラ。多年草やら宿根草やらいろいろ説明されたけれど、私には花の知識は増えていない。
だって、私はこの庭の花畑が大嫌いだからだ。
母はこの庭をこよなく愛している。一年中毎日、花や緑を絶やさないために、土を変え、肥料や殺虫剤を与え、もちろん水をまく。
母の庭を見る人が誰もが褒める。行き届いた庭、手入れの怠らなかった庭は、見る側からすればとてもよい観賞物だろうけれど、私にとってはこの庭のためにどれだけ家族の時間が犠牲になっているのかと思っている。
庭がある、植物があるというのは、世話をしなければならないやっかいなもので、長期に出かけることができない。たかが庭だが、庭にもエサがいる。すなわち水である。母は雨が降らなければ水をあげていた。丁寧にあげていた。話かけるように。そのため、2日以上家を空けることを拒絶していた。庭の世話があるからと。水枯れの心配があるからと。
庭なんて、3日くらい家を空けたってなんてことないじゃない。それより旅行に行こうよ。招待するから、おいしいもの食べて、温泉入って、たまには飛行機で遠くまで行こうよ。社会人になってから、母を何度も誘ったが、いい返事をもらえたことはない。
母は庭の世話を誰かに任せることも嫌がった。以前父や私に頼んだことがあったが、そのやり方が気に入らなかったようだ。まんべんなく、しかも日のよく当たる場所は多めにとか、種をまいたばかりのところはそーとしかもたっぷりとか。思ったようにやってもらえなかったことで、「誰かに任せる」ということをやめ、すべて「自分でやる」ということを頑なに決めた。
母にとっては、自分にしか世話ができない庭であっても、家族にとっては、たった一人の母であり、庭が迷惑ではないけれど、自分が庭以下の扱いとされることが禍々しかった。
その人が商品であれば、その人しかできないものであろう。例えば、ライティングゼミは三浦さんしか講師がいない。誰かに任せることはできない。でも、庭の水やりは、誰でもできそうだ。でも母は代わりがいないと、自分にしかできないと思ってしまった。
母の凝り性は、エスカレートしていった。いつの間にか、狭い庭にアーチができ薔薇まで咲き始めた。薔薇を庭で育てるのは本当に世話がいると知ったのは
「うちじゃあ、母は私たちより庭が大切だし、見事な花畑よ。バラも咲くんだから」
「バラを咲かせるなんて、本当に熱心なんだね。手入れが大変なんだよ。バラは。トゲもあるし、アーチにそって枝を添わせるために、細かい枝を丁寧にとるんだよ。お母さんすごいね!」
と他人から褒められたからだ。
庭のためには、花が咲かない冬にもやることがたくさんあるようだ。花を咲かせるため、堆肥を土に混ぜ込み地力をあげる、できるだけ有機肥料がいい、球根は秋に植えつけ、しっかりと根付くことで春に花が咲く。なおさら冬も手が抜けない。人と一緒で、花によって必要な養分が違うようで、種類や状況によって使いわけていた。
花はどんどん増えていく、母の知識もどんどん増えていき、そして、いつの間にか教える側になっていった。近所の人が人から人へ、そして、人がインターネットを通じて母を紹介し、母のことを知るようになった。ブログをするほど、母には知識も時間もない。けれど、時間があり、花が好きで、母を応援する人がホームページを立ち上げてくれた。
母は「ローズ」と呼ばれていて、そこにはいつも見慣れている見事に花が咲いた我が家の庭が写っている。
父と私は母の庭を愛する気持ちをここまで理解しなかった。リビングに虫が来るのも、青々と生き生きとした庭のせいだと思い、曇りだというのに何も咲いていない庭に水をまく姿に執念すら感じていた。
庭は、私が上京するも日もきれいに整備されていた。
実家に帰ると、必ず庭にでるようになった。母が精魂こめて育てた庭はホームページで知っている。そして、そのコメントをみると母のすごさがよくわかる。この庭は、好きだからでできるレベルのものではないことを。花、土、自然に対する深い慈しみと長い根気がないとできない特別なものになっていることを。母の代わりに水をまける人はいないとようやく理解できた。
その母がイギリスのガーデニングを見に行きたいと言ってきた。
「飛行機に乗ってどこか遠くに行こうって前に誘ってくれでしょ?」
「イギリスなんて、2日じゃ行けないでしょ。庭はどうするの?」
聞けば、ホームページで知り合った人たちが、順番に水やりに来てくれるらしい。本場を見に行ったらとすすめてくれたのも彼等だ。母も、庭繋がりの人たちなら安心して水やりを任せられるようだ。
大事なことを任せるには、やっぱり信用できる人にお願いすることが一番なのだ。たかが、庭の水やりであっても、頼むほうにも頼まれる方も心構えが一緒ではないと不協和を生じる。
イギリス旅行で、ゆっくりと母から庭について聞こうと思う。
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