3つ子の魂は100までも?
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:安斎 智美(ライティング・ゼミ2月コース)
「ブスよりマシよ」
最近、祖母に言われた言葉だ。祖母は認知症である。そして、認知症になる以前から減らず口なのである。
認知症の症状は人によってそれぞれだが、満腹という感覚がなくなることもあるらしい。祖母はそれだった。色んなものを食べ続けた結果、祖母は丸々と太った。そんな祖母に、戒めも込めて、「デブデブー」と言ったところ、この衝撃的な一言が放たれた。祖母にとっては、デブよりもブスのほうがダメで、しかも可愛い孫をブス呼ばわりしたのだ。
私はとても驚いて少しイラッとはしたが、笑ってしまったし、内心嬉しい気持ちもあった。
最近、ぼんやりする時間が増えていっているように感じた祖母が、以前と同じように減らず口を叩く余力が残っていたのかと思った。
もしかしたら、認知症になっても、歌の歌詞を覚えているように、条件反射的に減らず口が飛び出たのかもしれない。
祖母は数年前、それまで勤めに出ていたが、70歳も超えていたし、勤めにいくことを辞めた。それ以降、鍵をなくすことが多くなったり、短期の記憶が怪しいことが増えた。
祖父が10年以上前に亡くなってからは、一人で働きながら暮らしていた。祖母はとても働き者だったし、70歳を超えても肌は綺麗だったし、お金の管理などもキチッとした人だった。
最初に診断を受けた際には、脳の萎縮が見られなかったが、自分でお金の管理すらできなくなった頃、やっと認知症であることが診断された。
後から知ったことだが、症状が出てから実際に診断がつくまでには時間がかかることも多いようだ。
それからは、母や叔母が面倒をみることとなったが、二人とも以前の面影が消えていく祖母を見るのは辛かったようだ。
それまで化粧品などに気を使い、身綺麗にしていた祖母だが、髪型も気にしなくなり、ましてお化粧をすることはなくなった。その姿を見て、母は「昔はおしゃれな人だったのにねえ」ととても残念そうにしていた。
私も変わっていく祖母の姿を見るのは悲しかった。一緒にご飯を食べたときのことで、春巻きを指差し、「これって何ていうか知ってる?」と祖母に聞いたところ、祖母は黙ってしまい、最終的に「何だっけ」と言うので、「これは春巻きだよ」と私が言うと、祖母は「春巻きかあ」と納得したようだった。しかし、それから10分もしないうちに、もう一度私が春巻きを指差して「これ何ていうか知ってる?」というと、祖母はキョトンとして「何だっけ」となってしまう。
祖母の記憶はもう少しも持たないということを認識させられた瞬間だった。
孫である私のことはまだ覚えていてくれているというのは救いだったが、いつまで覚えていてくれるかなという不安も持っていた。多分いつか忘れてしまうのだろうと思う。
今も、従姉妹の名前と私の名前が混ざってしまったり、大分怪しい状況だ。
ぼんやりしている時間も増えた。最初の頃は、母や叔母と盛大にケンカしていることがあったが、それも少しずつ減ってきているように思う。
今までの色んなことを、穏やかに忘れようとしているのだろうか。
祖母の体は太ってはいるが、元気だ。生き永らえることができている。だけど、それが幸せなんだろうか。そんな事を考えてしまう。
そんな状況であったが、当の本人はご飯を食べているときは楽しそうなこともあり、「おいしいね」と誰かがいうと、「おいしいね」と祖母が返すこともあった。
普通だったらごくごく日常のやりとりではあるが、確実に意思疎通がまだ取れ、祖母から満足感が感じられる時は嬉しい。
小さな意志疎通でもよかったという気持ちが生まれるくらいの状況なのに、突如思いがけず、「デブ」という悪口に対し、「ブスよりマシよ」という高度な仕返しを受けて、「ああ、なんかおばあちゃんまだ大丈夫かも。楽しく生きていけるわ」と安心してしまって、大笑いした。
条件反射的にでた言葉かもしれないけど、それでも祖母の頭を通って出てきた言葉なのだ。まだ頭が動いている証拠なのだと思った。
母や叔母、従姉妹にも言いつけたところ、皆笑ってくれた。「私なんかおばあちゃんからデブって言われたよ」と従姉妹も言っていたり、祖母の減らず口の報告で会話が盛り上がった。
祖母が認知症と聞いて悲しいし、残念だし、面倒を見るのは想像以上に大変だ。減らず口が災いして、祖母と母、叔母とでケンカも絶えない。
それでも、減らず口が祖母の脳を活性化しているのかもしれない。色んなことを忘れても、歌が歌えるように、祖母は減らず口を言い続けることができるのだ。それはそれで、面白いじゃないか。認知症以前にも散々減らず口を言っていた祖母のことも考えても、なんか祖母らしいなと思えてしまって可笑しい気持ちになる。
あんまりハードな悪口はやめにしてほしいものだが、人をイラッとさせない程度に孫としてはこれからも元気に減らず口を言い続けてほしい。
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