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猫だけが知る永遠の秘密


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記事:田盛稚佳子(ライティング実践教室)
 
 
猫は遊女の生まれ変わり、と言われることがある。
もし、家に猫を飼っておられる方がいれば、そのしぐさを改めて、まじまじとご覧いただきたい。
しゃなりしゃなりと足音を立てずに四つ足で歩く姿は美しい。
また、ちらりとこちらを振り向いては、体のラインをより綺麗に見せる術を知っている。
そして、優しく声をかけると、すりすりとおでこや首の辺りを手のひらに擦りつけてくる。
「アナタはワタシのものよ、うふふ」
と言わんばかりだ。
これら独特の猫のしぐさが、お客さんに対する遊女のしぐさと似ていることから来ているのだそうだ。
また、遊女たちが使用していた「三味線」が猫の皮から作られるものであることから、遊女が猫の生まれ変わりだとされる説もある。
 
かつて日本最大級の遊郭でもあった吉原は、東京の浅草の裏手にある。
実は今でも浅草が「猫町」と呼ばれることは、こういった遊女と猫の関係が密接であったからなのだろう。
 
はて、うちの猫は果たしてどうだろう? と考えてみた。
今年7歳になる白黒のハチワレ猫は、避妊手術はしたけれど、れっきとした女の子である。
休みの日など、よくよく鳴き声を聞いてみると、遊女の片鱗を感じるときがある。
両親と3人で暮らしているが、なぜか父親にだけしか出さない声があるのだ。
「ウルルルル~」
小首をかしげながら、ちょっと艶めかしく、それでいて決してしつこさのない感じ。
女性には出さない、独特な声に父がメロメロになる。
その声を聞くたびに、母と私は目を合わせて
「やっぱり、メスだね~。完全に(人間の)オスに反応しているもんね~」
と笑いながら、でもちょっとだけうらやましい気持ちになる。
人間の女子だったら、嫌われそうなツンデレ具合も猫だったら余裕で許されるからだ。
 
専用のベッドですやすやと眠る姿を撫でながら、思う。
「アナタは、誰の生まれ変わりだろうね~」
残念ながら私が住んでいる場所は東京ではないので、吉原の遊女ではなさそうだ。
実は一つだけ、私だけが勝手に確信していることがある。
「もしかして、祖母の生まれ変わりなんじゃないだろうか……」
祖母というのは、母方の祖母で、広島県の田舎で農業を営んでいた。少ない親戚の中でも、私が最も好きで憧れの女性でもあった。決して人の悪口を言わない、明るい人柄だったからだ。
初孫である私をいたく可愛がってくれ、年に一度会いに行くと決まって、
「チカコはいい子じゃのう。お母ちゃんのそばから離れんでな。結婚しても遠くに行くなよ」
と言われた。
それはもう何十回と聞いたか知れないセリフだ。
そのセリフは、祖母の心の奥底から湧き出る気持ちそのままであった。
というのも、祖母は母と暮らした時間が他の子供たちと比べて長くないからだった。
 
私の母は若いうちに実家を出て、働きながら学校に行っていた。
昭和30年代、まだまだ女性の社会進出が多くなかった時代のことだ。地元のそこそこ大きな会社で事務員として働きながらの生活は、きっと今よりも不便で大変なこともあっただろう。慣れない都会で人一倍苦労をしてきた努力家だ。
その後、縁あって父と知り合い、結婚して九州へ嫁いできた。
祖母は、長女である母が離れていったのがとても寂しかったのだ。嫁に行ってしまうことを表向きは喜んでいても、
「ちゃんと生活できとるじゃろうか。九州で困ってはおらんじゃろうか」
といつも気にかけながら、畑仕事をしていたはずだ。
それを本人に言ったら困らせてしまう。だから、本当は娘である母に言いたいセリフを、孫である私に託していたのだと思う。
 
7年前に白黒のハチワレ猫が家族としてやってきてから、私よりも誰よりも母親になついた。
母が寝ていると、布団のすぐそばに置いている専用ベッドに、そろりと入り、くるくると丸くなって眠る。その姿は心底幸せそうで、安心しきっている様子が見てとれる。
一緒にいる時間が一番長いからじゃないの? と友人から言われることもあるが、私はそうじゃないと思っている。
「きっと、母と離れていた長い時間を取り戻すために、祖母が生まれ変わってきたんだ」と。
実際、私と遊んでいる時よりも、母と遊んでいる時のほうが今でもいきいきしている。
庭掃除で母が外に出ると、短時間でも心配になるのだろう。窓のほうへ飛び上がって、どこにいるかをいつまでも観察している。
「ほら、ここにいるよ。ねぇねぇ、早く戻ってきてよ」
そんなふうに、私の前で鳴いてみせる。悔しいけれど、母にはかなわないのだ。
 
家族の皆が寝静まった、ある夜のこと。
一度だけ、そのハチワレ猫に聞いてみたことがある。
「ねぇ、私だけに教えてよ。実はおばあちゃんの生まれ変わりなんでしょう? お母さんのそばにいたいから、猫に生まれ変わってやって来たんでしょう?」
それまで私に背中を向けて寝ていた猫は、ふとこちらをチラリと見て、
「にゃ」
といつもより小さく返事をした。
それが、果たして「イエス」なのか「ノー」なのか。
彼女しか知らない永遠の秘密なのである。
 
 
 
 
***
 
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2023-04-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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