悪ガキがちょっと良いことをすると、途端に好評価になる現象に名前をつけたい
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記事:NMR(ライティング・ゼミ)
その日の朝、僕はいつものように通勤電車に乗っていた。
東京の電車通勤は路線によっては地獄のような満員電車だが、僕が使っている路線はそこまで大混雑にはならない。始業が遅い会社のおかげもある。
その日も、家の最寄りから数駅は立って乗ったものの、ターミナル駅で大量の人が降りると自分の目の前の席が空き、無事に座ることができた。だいたいこの駅でいつも座ることができる。
席に座れたら、目を閉じて軽く一寝入りするのがいつもの日課である。
ターミナル駅を過ぎると、車内で立っている人はちらほらという空き具合になる。
その日もいつもと同じように混雑のない快適な車内、のはずだった。
席に座ってから数駅後、とある駅で外国人が乗ってきた。黒人の二人組である。
さすが外国人、体がかなり大きくて、いるだけで存在感がある。
彼らは日本語が分からないのか、優先席にどかっと腰をおろした。
そして、大声で話しはじめた。車内に笑い声が響き渡る。周りのことはお構いなしだ。
手にはハンバーガー。電車の中にポテトの匂いが流れてくる。
「おいおい、朝から勘弁してくれよ……」
僕は寝たふりを決める。彼らはしゃべっているだけだし、自分に実害がないならそれでいい。
しかし、その二人は大声で話し続けるものだから、電車の中には異様な空気が流れ始める。
僕も薄目を開けたり、目を覚ましたふりをして車内の雰囲気を確認する。
周りの客も外国人の方をちらちらと見始めていた。
日本人の電車での過ごし方と比べて、あまりにテンションが違いすぎて、明らかにその二人は車内で浮いていた。だが、二人は全く気にしていない様子だ。
「はあ、うるさいけどしょうがない……」
と、次の瞬間、僕から見て左奥の方から「ドサッ」と音が聞こえてきた。
外国人が座っている方とは逆の方向からである。
目を開けて見てみると、床に大きなカバンが落ちている。
どうやら、席に座っていた中年のおじさんが膝に抱えていた荷物が落ちたらしい。
「今日はいろいろと騒々しいなもう……」
そのおじさんかすぐに荷物を拾うかと思っていたのだが、そのおじさんは全く動こうとしない。
おじさんに目をやると、どうやら熟睡しているようだ。徹夜明けか何かなのだろうか、体がぐらんぐらんして隣に座っている人にもう少しで頭かぶつかりそうだ。
そんなわけで、落ちた荷物はそのまま。荷物が通路の真ん中に放置されているのは、ものすごく非日常な風景だった。
周りの人も困った人だねえという反応で、チラチラおじさんの方を見ているだけだ。
近くに立っていた人が、ようやくその荷物を少しだけおじさんの方に移動させる。
ちょっとやそっとじゃ起きそうもなかったし、自分がそのおじさんの近くに立っていたとしたらそうしただろう。
荷物がなんとなくおじさんの近くに収まったので一安心だ。
もう一寝入りしようかと思っていたら、さっきの外国人の一人がどかどかとそのおじさんの方に歩いてきた。
おじさんの前に立って、じっとおじさんを見つめている。
立ちはだかると、その背の大きさもあって、ものすごい威圧感がある。
「あれ、これ何か起こっちゃうのか?」
車内に緊張が走る。
次の瞬間、
「ヘイ! エクスキューズミー!」
と口笛をヒュイっと鳴らして、おじさんの肩をたたいておじさんを起こした。
そして、床に落ちた荷物を指差して、英語で荷物が落ちましたよ的なことを言って、親指で「グッド」のジェスチャーをした。サムズアップってやつだ。
そして再度おじさんの肩をタンタンっと叩いて、自分が座っていた優先席に戻っていった。
この一連の動きがやたらと格好良かった。俳優が映画でやるかのように様になっていた。それが爽やかで、とても自然だった。
さっきまでの大声でやりたい放題だった外国人に対し、あれれ、意外といい人じゃんという評価に変わる。
おじさんは、寝ぼけながらすまなそうに、その荷物をかかえて降りていった。
熟睡していていきなり起こされたと思ったら、目の前には体の大きい外国人というのはなかなかあることではない。さぞかし驚いただろう。
日本人は腫れ物には触らないというか、そもそも知らない人に電車で話しかけるなんて稀だ。
駅で困っている人がいても、なかなか話しかけることができない。
僕らにとっては話しかけること自体に勇気がいるのだけど、彼ら外国人はそれが当たり前のようにできるところが、単純にカッコイイと思った。
彼らは電車内ではやりたい放題だったけど、見習うべきところもある。
僕も他人にあまり興味がない方だけど、もう少し知らない人同士が自然に話せる文化になるのも悪くないなと思った。
外国人たちは次の駅で降りていった。
彼らが座っていた席の足元にはポテトのゴミが転がっていた。
せっかくかっこ良かったさっきの振る舞いが台無しだ。
やはり、彼らを簡単に見直してしまった僕もよくない。
複雑な心境になりながら、日本人な僕はまた寝たふりをする。
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