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遊びたい息子と帰りたいオヤジの攻防戦


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:久田一彰(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「もう何回この滑り台を繰り返したんだろう、いい加減私のお尻から火が出そうなんだが」そう思いながらも、息子は先に滑っていき、私も覚悟を決めて、えいやっとそのロングローラー滑り台へと飛び込んだ。
 
幼稚園のお迎えが終わって、息子と外で遊ぶために、市内にあるちょっと大きめの公園に来た。いつも息子と同年代の子供たちや、お兄さんお姉さん、ちょっと年齢が下の子など、子供たちの遊園地みたいに賑わっている。
 
ここには息子の大好きな遊具がたくさんあり、お気に入りの場所のひとつだ。小高い丘の斜面を利用した高低差の遊具があり、親とてしも軽いハイキング気分を味わえる。運動不足解消にはもってこいの場所でもある。
 
籠のようなブランコ、ターザンのように捕まるロープ、ロングローラー滑り台など、子供は喜んではしゃぎ回り、親はそのあとを見守りながらついていく。
 
幼稚園から公園までの道中では、車の中で昼寝をしたもんだから、元気は100%充電されており、ネジを巻いて勢いよく飛び出すおもちゃのように、遊具に向かってロケットスタートしていく息子。
 
ここからは、親がどこまでついていけるか、体力勝負だ。私だけでなく、ここに来ている親はみんな、子供と体力はどちらが長く続くのかを競っている。
 
途中で水分補給するよ、といいつも、自分が回復したいがために、水筒に入っている麦茶を息子に飲ませ、びっしり汗をかいた顔を、ウェットティッシュとタオルで拭いてあげる。だが、こんなものは気休め程度にしかならない。
 
すぐに息子はロケットスタートを切り、次の遊具へと駆けていく。山登りよろしく、綱を握りながら上がっていく様子は、山岳登山家のようだし、狭い階段を登る様子は、さながら消防士のようでもある。こういった経験が積み重なって、将来の体力の基礎作りがなされているのだと思うと、やはりへたばっていられない。
 
あの時食べた間食や、ちょっと食べ過ぎた焼き肉などの贅肉が、私の腰回りに浮き輪のように引っ付いているのが恨めしく思いながら、息子の後を追っていく。
 
ここの公園の最大の目玉は、ロングローラー滑り台だ。遊具がいくつも連なって、階段、滑り台、蜘蛛の巣のようなネット空間、インディージョーンズ気分が味わえる吊り橋、次第に斜面を登っていくにつれて、期待感もどんどん上がっていく。
 
いくつもの遊具の試練を乗り越えた先には、見晴らしのいい景色が広がっている。さっき車を停めた駐車場も見えるが、トミカよりも小さくなっている。そんなことを考えながらいると、息子は感傷に浸る間も無く、その滑り台へと飛び込んでいった。
 
慌てて私も飛び込む。SFものでありそうなワープホールのような装飾の滑り台へと体を預ける。ローラーは勢いよく回転して、私を下へ先へと送ってくれる。途中息子に追いつきそうになるので、足と手で滑り台にブレーキをかけながら滑る。
 
勢いよく滑り台から降りると、息子はすぐに踵を返して、またしても遊具の山頂へと向かった。よっぽど楽しいんだろう。連れてきてよかったと思いながら、後を追っていく。
 
途中で他の子が先にいたり、後から追ってきたりすると、誰となく譲ってあげたり、どうぞ、というジェスチャーをしながらコミュニケーションをとっている。こうやって社会性が身につくんだなと思いながら微笑ましく眺めている。
 
子供と一緒についていく親もいれば、もう疲れたという顔をして、下から眺めている親もいる。私は、まだまだついていくぞ、という気持ちで息子の後を追う。
 
ロングローラー滑り台を登っては滑り、何度繰り返したのか分からない。まだ飽きないの? という気持ちになりつつ、ついていく。
 
しかし、私のお尻は、ローラーという大根おろしに、何度も削られてきた。いや、正確には削られたような感覚にはなっているが、一ミリもお尻の肉は減っていない。なんとも恨めしい状況だ。それに、もしかしたら、お尻から火がついて煙も出ているのではないかと思うくらい、お尻の熱が上がっているが、なんのエクササイズ効果は得られていない。それどころかきっと翌日は、また筋肉痛になるのが予測できる。
 
いったい子供の集中力はどこからきているんだろうか。ただ滑って降りるだけの単純な遊び。わずか20秒ほどで下まで行くのに、数分かけて登っていく労力。コスパはどう見てもよくない。
 
しかし、息子の顔は終始笑顔なのだ。滑り終わったら「もっかーい」と、もう1回りクエストして滑り台へと向かっていく。その笑顔を見ていたら、私のお尻が削られてなくなろうと構うもんか。今日はとことん遊んでやろうかとも思う。
 
やがて、17時のサイレンが鳴り響き、そろそろ帰る親子も見える。
 
さあ、うちもそろそろ帰ろう。「帰るよ」と呼びかけるも、「いやだーー」と言いながら次の遊具へと移って遊び続けている。本当に子供の体力は、興味があることに対しては、無尽蔵にあるようにも思える。私の体力はもう空っぽになってしまっている。これ以上遊んでいては、私の帰る体力がなくなってしまう。こうなった時の奥の手がある。
 
「車の中でおやつ食べよっか。ゼリーあるよ」
 
そう呼びかけると、息子は振り返って、「ゼリー!」と言う。手をひいて車の中のチャイルドシートにのせて、ゼリーを食べてもらう。
 
「すまん、お菓子でつってしまった」と思いながら、やっと帰れると安堵している自分がいる。ずるい大人だなと思いながらも、また連れてこようと思うオヤジなのであった。
 
 
 
 
***
 
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