「好き恐怖症」だった私の救世主は、アイドルでした
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記事:長井美由(ライティング・ゼミ)
好きってしんどい。
少女漫画も恋愛小説もずるい。嘘つきだ。
フィクションの主人公たちはいつだって、様々な試練を乗り越えながら最後にはキラキラした幸せを掴んだみたいに描かれるけど、本当にしんどいのは「ハッピーエンドのその先」だってことは、誰も教えてくれなかったじゃないか。
ただ人を好きでいるというそれだけのことが、こんなにも大変だなんて、誰も教えてくれなかったじゃないか。
大学生の秋、遅ればせながらの初めての恋愛を前に、私はこのどうしようもない怒りをどこにぶつけたらいいか分からなかった。
だって、始まりはすこぶる順調だったのだ。
ちょっといいなって思っていた男の子から告白されて、少女漫画みたいな意地悪な先輩も、強力なライバルもいなくて、あっさりと初めての彼氏ができた。
もしかして、これが大学デビューってやつ?
ここから私の素敵なキャンパスライフが始まるんだと、すっかり胸を躍らせていたというのに。
なんだ、この有様は。
しんどい。しんどすぎる。
ちょっと、好きってこんなにしんどいなんて、聞いてない!
例えばふとした瞬間の彼の一言に、思いがけず傷ついたり。
良かれと思ってかけた言葉で、酷く相手の機嫌を損ねてしまったり。
「どうしてわかってくれないんだろう」
「どうしてわかってあげられないんだろう」
そんな言葉ばかりがグルグルと頭を駆け巡る。
きっとみんなが当たり前のようにできている「ただ相手を好きでいること」が、私には難しくて、しんどくて、仕方なかった。
最初は、これが初めての恋愛だから上手くいかないんだと思った。
でも、何度繰り返しても同じだった。
好きってしんどい。
私はすっかり疲れ果て、言わば「好き恐怖症」になってしまった。
もう誰も好きになんてなりたくない! あんな辛い思いはしたくない!
誰かを好きになることも誰かに好かれることも嫌で、人と深く関わることを避け、気がつけばひとりが楽しい毎日。
これも幸せの形だと納得しようとしたけれど、どこかでずっと、モヤモヤした思いを抱えていた。
そんなある日、私に運命の出会いが訪れた。
偶然つけたテレビに映っていたのは、色鮮やかな衣装を身につけ、煌めくライトを浴びて歌い踊る、とあるアイドルの姿。
まさしく一目惚れだった。
今までアイドルに興味を持ったこともなかったのに、私はその一瞬で完全に魅了されてしまった。
そこからはあっという間だった。
CDを買い、ライブDVDを集め、ファンクラブに入った。
飛んでいく諭吉の枚数も気にならないくらい、私はアイドルに熱中していった。
同時に、私は凄まじい恐怖に襲われていた。
どうしよう、よりにもよってアイドルを好きになってしまうなんて!
だって、アイドルって絶対に手が届かない存在だ。
そんな人を好きになってしまったら、今までとは比にならないくらい、絶対に辛いに違いない。
私は「好き」が「しんどい」に変わる瞬間を戦々恐々と待ち構えていた。
しかし、数週間経っても、数カ月経っても、その瞬間は訪れなかった。
生まれて初めてコンサートというものに参加した。ファン同士で友達もできた。
楽しい。こんなに楽しいなんて。
全然しんどくなんかない。
想像していたのとは違い、アイドルに対する「好き」の気持ちには、ネガティブなものは全く生まれてこなかった。
私は不思議だった。
アイドルに対する「好き」と普通の「好き」ってどう違うんだろう。
もしかしたらここに、私の「好き恐怖症」克服の鍵があるかもしれないと思ったのだ。
答えは案外すぐに見つかった。
アイドルを好きでいてもしんどくない理由。
それは「アイドルは絶対に手の届かない存在だ」と私が認識しているからだった。
例えば、雑誌のインタビューで、自分がイメージしていたのとは真逆の発言をアイドルがしていたとする。
そんなとき、「思っていたのと違う!」なんて憤りを感じることは全くなかった。
むしろ、そんな風に考えることもあるんだなって、新しい一面を知れたようで嬉しくすら思うのだ。
だって、彼のことなんて、私は何ひとつ知らないのだから。
テレビやライブで見えるのは、彼のほんの一側面にすぎない。
私は彼が本当はどんな人間で、どんなことを考えて日々を過ごしているのかなんて、絶対にわからないのだ。
だから、例え今までのイメージと違った発言をしていたとしても、それは私が彼のことをまだまだ何も知らないからだって思えた。
そしてそのことに気がついた途端、私はどうして今までの好きがしんどかったのか、わかった気がした。
私は好きになった相手のことを、何でも理解できるはずだと思い込んでいた。
理解しなければならないと思い込んでいた。
「どうしてわかってくれないんだろう」
「どうしてわかってあげられないんだろう」
そんな思いの裏には、
「この人は私のことを理解してくれるはずだ」
「私にはこの人のことが理解できるはずだ」
という思い込みがあったのだ。
でも、それは思い込みにすぎなかった。
だって、出会ってからほんの少ししか経ってない相手のことをいきなり全部理解するなんて、到底無理だ。
物理的な距離が近いせいで勘違いしてしまうけれど、目の前にいる恋人も、遠く手の届かないところにいるアイドルも、本当は同じだけ遠くて、簡単には理解できなくて、それでも、同じように好きだって言えるはずなんだ。
なんだか、枷が外れたみたいだった。
相手の考えていることがすぐにはわからなくても、理解できないところがあっても、それを怖がる必要なんてないんだ。
わからなければ、素直にわからないって言えばいい。
わかってほしければ、自分の思いを伝える努力をすればいい。
そうして少しずつ、お互いを理解していけばいいんだ。
理解できるはずっていう前提で考えるから、いつもしんどかった。
でも本当は、理解できないことがあって当然なんだ。
そういう前提で考えたら、きっと私が思っていたよりもずっと、好きってポジティブだ。
そのことに気づかせてくれたアイドルは、まさに私の救世主だった。
というわけで、すっかり「好き恐怖症」も克服できて、これから順風満帆な恋ができると思ったのも束の間。
私、どうやら今度は「アイドルが好きすぎて他に魅力的な相手が見つけられない症」にかかってしまったみたい。
こればっかりは、自分で克服するしかなさそうです。
うーん、やっぱり、好きってしんどい。
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