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僕はあの日の言葉を言い返さないと気が済まないんだ


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記事:城裕介(ライティングゼミ)

 

「は? 城よりは単位取ってるし」

 

大学生のとき、あいつはよく絡んできた。しかも毎回自分の方が上だと主張したがるのだ。たまらず僕は言い返した。

 

「はぁ!? ろくに授業出てもいないお前には言われたくないし!」

 

「いや、お前こそ授業中ずっと寝てるくせに!」

 

「学部違って見てないくせに何言ってんだよ! 別に間違ってないけど」

 

しまった。馬鹿正直に隙を見せてしまった。案の定あいつは食いついてきた。

 

「ほら見ろ! こんな奴に俺が負けるわけないし!」

 

馬鹿馬鹿しい言い争いだけど、僕とあいつのやり取りはほとんどこんな感じだった。大抵あいつの方からになにか吹っかけてくる。僕もハイハイと受け流さず立ち張り合ってしまうから、中身はないのにエスカレートしてしまう。

 

サークルで出会ったあいつは無茶苦茶な奴だった。普段の学校に行くときにはジャージなのに急に欲しくなった服に4万使い、そのくせお金がないとか言ってたりした。滑舌が悪くて、スキだらけで、先輩からはよくいじられていたが、同時にすごく愛されてもいた。普段はいじられてるくせに自分には妙に強気で絡んでくる。くそー、なんなんだ。

 

それからしばらくして時はたち、僕は就職活動をし始め、あいつは何を思ったか休学届を出していた。世界1周をするつもりらしい。相変わらず無茶苦茶な奴だ。

そんなあるときあいつは僕の家に急に来た。この日はめずらしく子どもの言い争いはせず、普通にお互いの近況を話した。僕は就活を始めたもののやりたいことが思うように見つからず選考も思うように行かず、さらに就職氷河期の影響もあり、四苦八苦していた。帰りがけ僕の手帳を彼はちらっと見た。

 

げげ。しまった。

 

「周りのみんなを笑顔したい」。あまりおおっぴらにするのは恥ずかしくて人にはあまり見せたくないことが書いてあった。これはバカにされるかとちょっと身構えた。でも返ってきたのはちょっと予想外の言葉だった。

 

「そんなことよりまずは自分が笑えよ」

 

普段だったら言い返すところだけど、ぐっと詰まって何も言い返せなかった。誰かの役に立つ仕事をしたいとは思っても、自分が何をしたいのかわからずにいたからだ。なんだか腹立たしくて、また言い返してやろうと思った。

 

でもあいつはそのあとすぐいなくなってしまった。交通事故だった。急すぎる話でただびっくりして悲しむ暇もなかった。

 

それから1年たって彼の実家に行って、あいつのお母さんからいろんな話を聞いた。大学のときは先輩からも後輩からも愛されキャラだったんだと伝えたら、ひどく驚いていた。

 

「家では全然そんなことなかったんですよー」

 

彼のキャラとは全然違う朗らかなお母さんだった。大学で何をしているのかも何も言わず、お母さんが聞いても教えてくれなかったこと。高校までのあいつはかなり反抗的でしかも友達ともどちらかというとぶっきらぼうな付き合いだったこと。

 

そして、親子仲はよくなく、大学入学してからろくに帰ってこなかったが、事故の直前にはふらっと帰ってきてぶっきらぼうなのは変わらずだがゆっくりしていったこと。

 

僕は人見知りでしかも意地っ張りでうまく自分の考えを伝えられなかったし、だから自分を変えたくて仕方なくて、大学では無理矢理でもしゃべる機会を増やし、克服しようとしていた。

 

キャラは似てないけれどあいつもしゃべるのはうまくなかったし、それなのに進んで人と関わろうとしていた。あいつも大学になって自分を変えようとしてた。僕とあいつは思ったより似た者同士だったんだ。ただし違うのは、僕は自分が嫌いだというネガティブな動機だったのに対して、あいつのほうは前向きだったということだ。あいつはいじられても楽しそうに自分から向かっていたから。

 

あいつは多分そのことに僕より早く気づいていた。そしてあのとき僕が後ろ向きなことも見抜いていた。悔しいけど、今回の言い争いは僕の完敗だ。

 

あれから5年たって、僕は自分の言葉を発信して、誰かに伝えることの楽しさを知った。あいつの言葉がずっと引っかかっていたけれどようやく、次は僕も楽しんでると言い返せる。言い負かされたまんまだったらなんか悔しいから。

 

そうだ。今度またあいつの実家に挨拶に行こう。あいつはお母さんにもっと優しくしたかったんだと思うから。どうやって伝えたらいいかわからなかったんだと思うけど。じゃなかったらどうやって会話したらいいかも見えていないのに実家に帰ったりはしないはずだ。似た者同士だからたぶん間違いない。

 

だからそれは今度お母さんに会ったときに伝えておこう。意地っ張りだから余計なお世話だとあいつは言うかもしれないけれど。

 

そしてあいつがやろうとしていた以上に楽しめることをたくさんやって思い切り自慢してやろうと思った。また子どものケンカみたいになるのはわかっている。けどその場面を想像したらなぜだかふっと笑ってしまった。

 

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2016-12-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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