かちかち山に出てくる狸は、本当に悪い奴なのか?
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:都宮将太(ライティング・ゼミ4月コース)
私は童話が好きだ。
桃太郎やシンデレラといった話しがある中、私が一番好好きな作品は「かちかち山」だ。
「えっ? あんな残酷な作品が好きなん?」
「シンデレラの方がロマンチックでいいやん!」
かちかち山を好きだと言った時に言われる言葉は、だいたい否定的な言葉だ。
何故かちかち山が好きなのか。当時の私の心境もあっただろう。
当時の私は「相手の気持ちを考える」ということについて悩んでいた。
営業と恋愛。二つのことで悩んでおり、どちらにも共通するのが、「相手の気持ちを考える」ということだった。
営業ではお客様から断られ続けて成績が上がらず、恋愛では「これは付き合える!」と確信した相手に告白して振られた。
そんな絶望状態の中、出会った本が「かちかち山」だ!
かちかち山は、相手の気持ちを考え、相手の立場に立つことを教えてくれる。そんな話しだと私は思っている。
かちかち山には、一組の老夫婦が出てくる。
おじいちゃんが悪い狸を捕まえ、おばあちゃんが狸を殺して狸汁をつくろうと考える。狸はそのおばあちゃんを殺し、殺したおばあちゃんで出汁をとり、おじいちゃんに飲ませる。その事実を知ったおじいちゃんは号泣する。
そんな姿を見かねたウサギが、狸への復讐を考える。
書いていて改めて思う。とても恐ろしい話だ。
この話しの一体どこから、相手の立場を考えられるということを学べるのだろう?
妻を亡くしたおじいちゃんに同情するのか? 殺されたおばあちゃんに同情するのか? 違う! 私が着目したのは狸だ!
老夫婦の現状を知ったウサギは狸への復習を考える。
復習の方法は実に恐ろしいものだ。
ウサギが狸を山に誘う。そのとき狸は背中に薪を担いでいた。
ウサギは狸が担いでいる薪に火をつける。実に恐ろしい……。
狸は当然ながら、背中に大やけどを負った。ウサギは狸に火傷の薬を塗ると偽り、辛子の味噌を背中に塗った。
当然ながら狸は大絶叫だ。
ここまでで十分に恐ろしいのだが、ウサギの復習はそれで終わらない……。
「川を渡ろう!」と、ウサギは狸に提案する。
そこに用意された二つの小舟でウサギと狸はそれぞれ川を渡る。
しかし、ここがウサギの作戦だ!
狸が乗った小舟は、なんと泥でできている。泥船は当然のように沈む。
泳げない狸は溺れて死んでしまう。
ウサギは復習を果たした。
めでたしめでたし……。
この恐ろしい復讐劇の中で、一体どこに、相手の気持ちを考えることを学べるのだろうか? しかも狸から!
この作品を読んで私は不思議で、どうしても納得できない点が一つある。それは、
『狸は何故、小舟に乗って川を渡ったのか?』だ!
これまでのウサギの行動を思い返してほしい。
狸が背負っていた薪に火をつける。現在で言うなら、殺人未遂だ。しかも、火傷の跡に辛子の味噌を塗る。
もし、自分がそんなことをされたらどうするか?
ウサギを殴ってでもその場から離れるだろう。自分を殺そうとしているのは明白だからだ。
それなのに狸は逃げないし、ウサギに一切危害を加えない。
最後にはウサギが提案した、 「川を渡る」という案に賛成した。
想像してほしい。
狸は泳げないのだ。それに用意された小舟はウサギが準備したもの。
「何かある」と、疑って当然だろう!
ウサギはこれまでに自分を殺そうとしているのだ。
しかも、泳げない川の真ん中で襲われたら、逃げ場もないのだ。
勘が良ければ、ウサギは老夫婦の復習で、自分を殺そうとしていると気づく可能性だってある。
にもかかわらず、狸はなんのためらいもなく、ウサギが用意した小舟に乗った。結果、溺れ死ぬことになった。
『狸はおばあちゃんを殺したことを後悔していたのではないか?』
私はそう思った。
そう思わないと辻褄が合わないのだ。
それ以上に、狸が川を渡った理由を説明できるだろうか?
私は思う。
狸はウサギが自分を殺そうとしていることに気づいていた。
それを分かったうえでウサギの誘いにのったのだ。
老夫婦の人生を奪った償いとして……。
自分なりの仮設を立てたとき、
「これは相手の立場に立つことを学べる」と思った。
今までの私は、相手と少し話しをしたり、他人からの噂を聞くと、
「この人はこんな人!」
と、決めつけていた。
営業ではお客様のことが理解できず、いや、理解しようとせず、相手の気持ちを勝手に決めつけていた。
恋愛でもそうだ。
「この人はこんな人!」
と決めつけ、相手のことをそれ以上知ろうとしなかった。
これまでの失敗の原因でないか? と、強く感じた。
かちかち山を読み、狸の行動を見た私は、相手の性格を一方的に決めつけるのをやめた。
「この人はこんな態度をとっているけど、本当はどんな性格なんだろうか?」
「こう言っているけど、実際のところ、本音はどうなんだろう?」
狸のように嫌な奴でも、実際は心優しい人間で、何かがキッカケとなり本当の性格を隠している可能性だってある。
このように、私は相手のことを決めつけることをやめ、相手のことを知るために考えるようになった。
相手の気持ちを考えようとした結果、面白いことが起きた。
毎日話していた口数が少なく、大人しい同僚が、実はものすごいお喋りだったり、これまで気難しい顔をしていたお客様でさえ、笑顔になることが増えていった。
これまで見えなかった人の気持ちが、少しづつ見えた気がした。
ありがたいことに、営業成績も少しずつ伸びていった。
恋愛については……。これから良い結果がでることを願っている!
老夫婦を苦しめた狸は決して許せないが、私は敢えて言いたい。
ありがとう、狸さん!
***
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