今を刻むもの
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:メイプル・シュガー(ライティング・ゼミ6月コース)
「私に続くのかなぁ……」
今からちょうど5年前、知人からあるものを紹介された。それは、5年日記というものだ。同じ日付のページに5年分書き綴っていく日記帳だ。私は、飽き性で子ども時代から日記を書いてはやめ、やめては書いてを繰り返していた。だからこの日記帳で、5年もの長い間、本当に書き続けられるのだろうかと疑問に思った。だけど、「もしかしたら続かないかもしれない」という不安より「やってみるとどんな感じなのかな。続いたら面白いだろうな」という興味の方が勝って、ひとまず始めてみることにした。
せっかく毎日使うものだから、やる気が出るようなデザインがいいと思い、自分が納得いく日記帳を探した。色や形、大きさなど、できるだけたくさんの日記を見ていると、表紙だけではなく、紙の質感や中身がメーカーによって様々な種類があることが分かった。私は、あれこれ悩んだ挙句、あの世界的キャラクター、ミッキーマウスが表紙にデザインされている少しレトロでおしゃれな日記帳を選んだ。
家に届いた日記帳は少し硬くて、ピカピカしていた。日記をつけだした最初の頃は、何を書くのか思いつかなかったり、書くのをつい忘れたりして書くこと自体が少し負担だった。それでも何とか毎日続けてみることで、少しずつペースをつかみ、楽しく感じられるようになってきた。仕事がひと段落した夕方にコーヒーを淹れて、お気に入りのペンを持って日記帳を開く。1日をふりかえるそのルーティーンは、何だか私を元気にしてくれた。
この日記帳を、旅先にまで持っていったこともある。分厚くて重いので、連れていくのはどうかとも思ったけれど、あとから記録するよりはその瞬間をその場所で記録したいという思いから、連れていくことが多くなった。
年月を重ねていくと、自分の傾向が分かるようになってきた。同じような時期に同じようなことを思い(成長はどうなのかという疑問もあるが)それでも(本当に微々たる変化ではあるものの)少しずつ歩んできた道のりが記されていた。家族の誕生日。姪が生まれたこと、祖母が亡くなった日。仕事でうまくいかなかったこと、後悔したこと。美味しかったこと、初めて訪れた場所の記録。何でもない毎日が、言葉として書き表すことで、光に照らされるように特別な時間に思えてくる。
残念ながら、途中途中で抜けた日もある。その日に書ききれずに、後から慌てて書き足したところもある。だけど、何とか完走した。この5年、日記帳は、私の毎日を支えてくれた。写真だけでは、きっと覚えていられなかったであろうことをこの日記は、その時の体温とともに覚えてくれているのだ。
30代の激動の時代を、この日記とともに過ごせたことは、私にとって、とても大きなことだった。職場の異動、大切な人との別れ、苦しみが続いた日々。いつもそばでよりそって、見守ってくれていたような気がする。書くことで不思議と、ギスギスしていた心がほぐれていった。1日にしてたった5行程度の記録。だけど、その時見えたこと、生まれてきた感情やちょっとした後悔、喜びといった感情は、記されることでこそ留まることができる。シャボン玉のように風に流れて消えていくものを、そっと手のひらで包み込んでいくように、その瞬間をつかまえることができる。
もし、何かのご縁があってこの文章を読んでくださっている人の中に、毎日が少しつまらなくて、モヤモヤを感じることがあるのなら、おせっかいながら、この日記帳にトライしてみることをおすすめする。その日の出来事や考えたことを数行にまとめていくという小さな行動は、ごちゃごちゃになった頭をクリアにし、心に安定をもたらしてくれる。書くことを通して、その日をふりかえり、明日へと備える。そうすることで、今日の不安や不満が少し減って、明日への期待へと変えることができるかもしれない。
5周目を回り、役目を終えた日記帳。5年もの歳月を経てやわらかくなった。パラパラとページをめくってみると、その時の感情を含めていろいろなことを思い出すことができる。5年の間に出会った人、物、場所・・・・・・。時折、写真や、もらった手紙を貼り付けている。この日記帳を開くと、これまでの思い出が力となって励ましてくれる。いつしか、この日記帳は私を勇気づけてくれる「宝箱」のような存在になっていった。
2代目の日記帳は10年だ。調べてみると1年のもの3年のもの、とあったが、何だか10年先を見てみたくて、10年日記に挑戦してみることにした。
これからどんな10年になるのだろう。ちょっと新鮮な気持ちでページを開く。また新たな旅が始まるのだ。
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