「留年」か「卒業」かギリギリのラインで
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:大和田光太(6月開講ライティングゼミ)
「E? そんなことはないはず……見間違いだよね?」
僕はパソコンの画面を見て、つぶやいた。
自分に言い聞かせているのか、確認のためなのか、
いや、違う。そんなわけない。でも、画面の表示は、と、
繰り返し繰り返し、つぶやく。
けれど、どこからどう見ても、
パソコンの表示は「基礎西洋史 E」と表示されている。
「嘘でしょ……。これじゃ卒業出来ない」
僕は焦った。
大学の卒業まで、あと1ヶ月というとこで、
こんな「E」という表示があっては、
もう、取り返しがつかない。
もし、これが前期の成績表であれば、
まだ救いがあったけれど、
後期の成績表で、しかも卒業までの時間がないとなれば、
答えは一つしかない。
「留年」
ということだ。
大学によるかもしれないが、
僕が通っている大学では、
A〜Fまでで成績の優劣がつけられるシステムで、
Aが一番上のランクで、BからDまで、
どんどん下がっていって、
EとFはランク外ということになり、
単位がもらえないということになる。
なので「E」という表示が、パソコンに出ていたということは、
僕はランク外の成績をとってしまったということ。
しかも、
僕はお世辞にも成績優秀とは言えない学生だったので、
浪人して入学をしているし、
恥ずかしながら、すでに1回「留年」もしている。
なので、
親に対して申し訳ない気持ちもあったし、
卒業した後の就職先も決まっている状態で、
プレッシャーを感じる中、
テストに挑んでいた。
単位を落としてはいけない。
これを落としたら、卒業出来ない。
Aなんて取れなくてもいい。
Dでもいい。「E」じゃなければ!
「E」じゃなければ、なんでもいい!!
という風に、
自分を追い詰めるように、
テスト勉強は深夜までしていた。
もしかしたら、
その余裕のなさが、
今回の事態を招いてしまったのかもしれない。
と、冷静に分析をしたところで、
パソコンに表示されている「E」の文字は、
自然にDへと変更されることはないので、
僕は大学の成績管理をしている部署へと電話をかけた。
「あのぅ、僕の成績に間違いがないか確認したいんですが」
「成績に間違い? そうですね、先生に確認を取ってみますね」
「あの! 出来れば、すぐに確認して欲しいんですけど」
「急いでいるんですか? どうして?」
「えっと、この授業がEランクになると、僕は卒業出来ないんです」
「それは困りましたね。でも、この先生、ウチの常勤の先生じゃないので、すぐに連絡がつくか……」
大学の職員の人に言われて、
僕はハッとした。
大学には常勤と呼ばれる、大学の専属の先生がいる一方で、
非常勤と呼ばれる、大学には所属していない先生の授業がある。
常勤の先生は、
大学の敷地内に自分の研究室を持っているので、
大学の中で連絡を取るのは簡単だけれど、
非常勤の先生の場合は、
外に出ているのか、他の大学で授業をしているのか、
全く別の仕事をしているのかもわからない。
なので、
僕の脳裏には、
「留年」という文字が大きく表示され、
どうしたものかと思いながら、
電話を切ることにした。
しかし、
僕は「留年」をするわけにはいかない
理由があって、
なんとか、
連絡を取る方法を、
すぐに見つけなければいけなかったので、
「E」評価になった基礎西洋史の授業のノートや、
関連資料を片っ端から、
ひっくり返すことにした。
すると、
幸いなことに、
基礎西洋史の非常勤の先生のメールアドレスが、
ノートのすみっこに書いてあった。
僕は一縷の望みをかけて、
先生へとメールを打った。
すると、
思ったよりもすぐに連絡が返ってきた。
「事情はわかりました。しかし、何もせずに成績を覆すことは出来ません。なので、追加の課題を出しますので、1週間で終わらせて提出をしてください」
先生!!
ありがとう!!
と、僕は叫びながら、メールを返信をした。
「ありがとうございます。すぐに課題を提出いたします。1週間はかからないように、早く提出出来るようにします!」
僕は先生に出された課題を、必死になって取り組んだ。
内容としては、西洋の歴史についての小難しい本を読んで、レポートにまとめるというものだったけれど、僕は楽しくて楽しくて仕方がなかった。
だって、これさえなんとかすることが出来れば、
「留年」という文字を脳裏から抹消することが出来て、
「E」のパソコンの表示も、Dへと格上げされるのだから。
そうして、
僕は3日で課題を終わらせて、先生へメールで提出をし、成績表の評価の変更を待った。
事務手続き上、数日かかるということだったので、
僕はその間、気が気じゃなく、一日中ゲームをして気を紛らしていた。
そして、
数日後、再度パソコンで成績表を見てみると、
「基礎西洋史 D」という表示に変更されていた。
その時、僕の卒業が決まった。
これは、僕が大学卒業を控えた、
2011年の3月のことである。
当時は、とにかく必死になって、
課題を取り組んでいた。
卒業という、〆切があったので、
僕はなんとか頑張れた。
ギリギリのラインを乗り越えるというのは、
人生においての成長になる。
けれど、
余裕のある状態じゃないと、
人は判断を間違えたり、
苦しくなってしまうことがある。
なので、
これを読んでいるあなたには、
出来る限り余裕のある状態で、
〆切を設定して、
課題に取り組むということをオススメする。
そうすれば、
適度な緊張感の中で、
成長していけると思う。
でも、
僕はまだまだ、あの時の教訓が活かされていないのかもしれない。
だって、この文章は〆切の、
30分前に書き上げているのだから、
僕は、根っからのギリギリライン好きなのかもしれない。
そんな僕は、
ごくごく稀に、
卒業出来なかった(という設定の)悪夢を見るのは、
ここだけの話にさせてください。
***
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