じわり、じわり
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:カナコ(ライティング・ゼミ8月コース)
「そんなんじゃ、子どもになめらるよ。もっと厳しくしないと」
私が教師1年目の時に上司から言われた一言である。
当時の私が子ども達と関わる姿は、上司からすると「教師と子ども」の関係ではなく、友達同士のような、違和感を覚えたようだ。
それから私は、子ども達との距離感を見直し「威厳のある教師」を演じることに徹した。
仕事が終わって、家に着くと同時にソファに倒れ込むほど疲れ切った毎日を過ごしていた。
それからの5年間は、とにかく駆け抜けるような日々で、子どもの顔と名前以外はあまり記憶に残っていない位あっという間だった。
5年も経つと、集団指導をすることにも慣れ、安定した教師人生を送っている、かのように思えた。
しかし、それは大きな間違いだということが、今でははっきりとわかる。
いや、誤解があると困るので言い直すと、「今の時代おいては」間違いであると。
まず、なぜ教師は子どもになめられてはいけないのか。
単純に考えると、「厳しい先生の言うことは聞くから」かもしれないし、「子どもになめられると集団をまとめることはできないから」かもしれない。
これは、一見すると当然なことのようにも思えるし、教師の一つの側面として必要だと考える人が多いかもしれない。
しかし、昨今の学校現場では、他の教師から「子どもに厳しい指導ができて」「授業が上手くて」「集団をまとめる力がある」と認められてきた教師のクラスで学級崩壊が起こるケースが頻発している。
それは、なぜか。
「ゆでガエル現象」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
カエルをいきなり熱湯に入れると驚いて逃げ出すが、常温の水に入れて徐々に水温を上げていくと逃げ出すタイミングを失い、最後には死んでしまうという。
これは、段階的に環境が変化すると、その変化に気づかないまま悪化する状況を指す比喩である。
今の学校現場を見ていると、まさに教師はここでいうカエルなのである。
私が小学生だった20年以上前、一部を除いて、「子どもは教師の言うことを聞くのが当然」という雰囲気があった。その頃は、家族で出かける場所といえば「遊園地」、テレビアニメといえば「ドラえもん」、将来の夢と言えば「サッカー選手」とか「お花屋さん」というように、大多数が考えることをある程度予想しやすかった。
しかし、現代の子ども達はどうだろう。
子どもに好きなアニメを聞くと、半分くらいがアニメよりYouTubeで好きなチャンネルがあると答える。東京の観光地と言えば? と聞いて、何人が「東京タワー」と答えるだろう。
それくらい、体験や興味が多様化・個別化している。
そのような現状の中で、「一人の教師が40人の児童に画一的に授業をする」というシステムに無理が生じているのだ。
しかし、1年間に教えなければならない内容は決められている。教師側が必死になればなる程、話を聞かない児童がいた時に、厳しい口調で注意をすることが増える。
考えてもみて欲しい、お笑い芸人や落語家があくびをしているお客さんに対して、「集中して聞いて!」と怒りを感じるだろうか。
それは、発信する側が受け手の興味・関心にヒットする内容を提供できていないから起こることである。
それを、なぜか教師は、子どものせいにしてしまう。
いや、なぜか教師の立場だけ、子どものせいにしてもよいという勘違いがまかり通っている。
ここに、大きな錯誤があると思う。
しかし、教師側の視点に立って考えてみると、そうせざるを得ない現実もある。
例えば、水泳の授業がある時、1学年3クラスが一斉にプールに入る。1クラスでも遅れると、残りの80人を待たせ、教育の機会を奪うことになってしまう。そんな時、着替えるのが遅い子どもがいたり、「水が怖くて入りたくない」と言う子どもがいたりしたら、どうなるか。
クラスの他の39人を放っておいて、落ち着いてその子ども達に対応する余裕はない。
お尻を叩いて「早く! 早く! ちゃんとしてよ」と声を掛けたり、「そんなことで怖がってないで、ちゃんと足だけでも浸かりなさい」と冷たくあしらったりしてしまう教師は、残念ながら少なくない。
しかし、これだけ子ども達の実態が多様化している中、昨今の教師に求められているのは、本当に厳しさなのか。
私は、別の役割に移りつつあると思う。
それは、子ども達の多様な実態や学び方に伴走者として寄り添う役目だ。
「大丈夫、ゆっくりでいいよ。自分に合う方法で一つ一つ練習していこう」と。
教師を「ちゃんとしなきゃ」の呪いから解くには、「とらわれない、とらわれない」と自分自身に言い聞かせたり、同じ職場の教師同士が「先生、とらわれなくて大丈夫」と声を掛け合ったりしていく必要があると思う。
微々たる力かもしれない。
しかし、私はこの風を変えたい。
自分も含め一緒に働いている教師が子ども達と関わることに心から喜びを感じられるように。
また、将来の日本を担う子ども達に、予測不能な未来で少しでも笑顔で前向きに生きる力が付くように。
今日も明日も、じわり、じわりと草の根運動を続けるのである。
***
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