『ハンチバック』作者の市川さんはお釈迦様だと思う
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記事:村人F (ライティング実践教室)
小説『ハンチバック』の作者、市川さんはお釈迦様だと思う。
本作から、そう思わせるほどの慈悲深さを感じた。
なぜなら重度障害者である彼女が感じている生き辛さを、私のような軽薄な人間でも楽しめる形で教えてくれたのだから。
実際、本作で描かれている描写は、これまで考えたことすらなかった。
彼女達にとっては、紙の本を読む行為も苦行なのだ。
本を持ってくる。
姿勢を読みやすく調整する
ページをめくる。
この「健常者」と呼ばれる私にとっての当たり前が、とてつもなく難しい行為なのだ。
これは小説の主題である「女性」の部分も同じである。
身体の都合により、妊娠することすら難しい。
だからせめて中絶をしてみたい、こう書かざるを得ない状況にいる。
この現実を知らなかった自分に、ヘドが出そうになった。
しかし本書で示されているのは、健常者に対する恨みや説教ではない。
ただ重度障害者である主人公「釈華(しゃか)」の生活を淡々と描いているだけだ。
そのため、私のような無理解な男でも娯楽作品として読むことができる。
まるでお釈迦様の説法のように。
だからこそ、芥川賞に選ばれる作品になったのだと思う。
では本作を読んだ「健常者」がすべきことは何なのだろう。
普通に考えたら優しく接すること、彼らに対する言葉に気を使うといった配慮になるだろうか。
ただ、前段階として必要な作業が抜けている気がしている。
それは、重度障害者について知ることである。
考えてみれば、私は全く知識を持っていなかった。
例えば『五体不満足』の乙武洋匡さんがどのようにベッドから電動車いすに乗っているか。
着替えをどうしているか。
こういった日常の所作についてさえ、全くわかっていない。
このように日本で最も有名な重度障害者の彼でさえ知らないことが多すぎる。
だから他の方々についても、全く理解していなかった。
そして、この状態でできる配慮に何があるのだろうか?
私には何も思いつかない。
なにせ『ハンチバック』を読むまで、紙の本がどれだけ重度障害者にとって苦痛か想像したことすらなかった。
この状態で電子書籍がどれだけ彼らにとって救いになったか、理解できるわけがないだろう。
そのせいでピントの外れた対策も増えてしまう。
例えば「障害者」を「障がい者」と書き換えることが「優れた配慮」と言われている。
しかし、それをしても意味がないことくらい少し考えればわかるはずだ。
ただ私たちは、これすらできないほど彼らについて理解していない。
『ハッチバック』で市川さんがした問題提起には、こういった要素も含まれているのだろう。
つまり私はまだ、「障害者のためにできること」がわかるほど、彼らについて勉強していない。
そして、この状態で行われる配慮ほど、当事者を傷つけることはないのだ。
「健常者」だって同じじゃないか。
なぜ悩んでいるのかわかっていない人から、偉そうに「これが答えだ」と言われて誰が喜ぶ?
だから同じような苦しみを与えないためにも、まずは知ることから始めるべきなのだ。
そう考えると『ハンチバック』ほど優れた説法は、この世に存在しないと思う。
本書には、探しても見つからない生の情報が多く詰まっている。
グループホームの現実。
呼吸することすら難しい彼らの生活。
仕事、学び、性について。
これまで考えたことすらなかった日常が描かれている。
しかも、面白く読める。
このような作品を世に生み出してくれた市川さんこそ、現代のお釈迦様である。
そして、これらを理解した先にすべき配慮が見つかるのだ。
図書館にしか存在しないような古い本を、学びたい重度障害者のために電子書籍化しよう。
指を動かすことすら苦労する方もいらっしゃるから、目だけで操作できるタブレットを開発しよう。
このように知識を得るだけで、浮かび上がる対応は鮮明になる。
だからこの質を上げるために、まず徹底的に知ることから始めるべきだろう。
市川さんが芥川賞受賞の会見で述べたように、重度障害者の受賞は2023年なのに史上初である。
この事実は私の、「健常者」の無知を証明している。
しかし『ハンチバック』で行われる説法は、決して責めてはいない。
ただ慈悲深く、現実を示すだけである。
このお釈迦様の姿勢に対して私が返せることはなんだろう?
これをみんなが考えた未来こそ、真のバリアフリー社会なのだと思う。
その一員になれるよう、障害についてもっと勉強しよう。
***
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