天狼院書店店主の僕が初めて「コミケ」に行って、伊達政宗が天下を取れなかった理由がわかった。《天狼院通信》
【東京1/7 Sat】本屋が主催のコスプレ撮影会!天狼院ロールプレイヤーズ撮影会!新進気鋭の5人のコスプレイヤーがスタジオ天狼院に登場!!《コスプレ撮影初心者も大歓迎》
「三浦さん! 私とまおとちゃんが12月29日にコミケでブース出してるんで、来てください!」
きっかけは、スタジオ天狼院のマネージャーであり、ちょっと有名なコスプレイヤーである恵那の一言だった。
「外ではコスプレイヤーさんの撮影会もしているし、何なら、ロールプレイヤーズ撮影会のモデルさんも、スカウトすればいいじゃないですか! それに、コミケ、面白いですよ!」
正直告白すれば、未だに、「コミケ」が何の略かも知らない。
もっと告白すれば、僕は変態ではあるが、秋葉原的なオタクではない。
さらに言ってしまうと、たとえば出版業界でいえば、僕は商業出版に広く携わっているし、書店のオーナーなので、どちらかと言えば、プロ筋である。素人に対する、玄人と言ってもいい。
正直いってしまえば、「コミケ」をナメていた。ナメまくっていた。
どうせ、素人同士で、お互いの作品を買い合うイベントだろうと高をくくっていた。
ただ、マーケティングな意味での興味があった。
何年か前のニュースでは、「コミケ」の会場に設置したATMがすべて空になったと言っていた。
それは、全国から押し寄せてくる「コミケ」ファンが持ち合わせでは足りずに、ものを買うためにお金を下ろすためだと言う。
「コミケ」の3日間の来場数は、50万人クラスになると言う。
それは、日本最大級の花火大会、長岡花火に匹敵する人出である。
そこでは、何が行われているのか?
気になって仕方がなかった。
それは、もちろん、マーケティングな意味であって、決して、コンテンツとして興味があったわけではなかった。
ところが、行ってみて、僕は大きな衝撃を受けることになる。
有明のビックサイトに着くと、予想通りの人の多さで、人が流れていた。
ビックサイトの外は、人だかりで、寒い中、コスプレイヤーさんたち超絶薄着で、写真を撮られていた。
その中には、モデル並みに可愛い子がいて、大勢の男性カメラマンに、囲まれて写真を撮られているのである。
しかも、カメラマンが持つカメラが、どれも、プロ並みの装備なのだ。
プロのカメラマンが持つ機材と何ら遜色がない。
コスプレイヤーさんたちを取り囲む人で、僕らはなかなか会場内に入れなかった。
ようやく、中に入っても、ここも人混みだった。
目の前で何が起きているのか、ちょっと理解ができなかった。
僕にとっては、ファンタジーに近い何かが、そこで間違いなくリアルに行われていた。
恵那のブースは、東棟というところの、一番奥らへんにあったので、そこにたどり着くまでに、とんでもない数の人を見た。
様々な格好をした男女が行き違った。
みんな高揚していて、あ、お祭りなのかと、「コミケ」の本質にようやく気づいた。
これは、全国から人が集まるお祭りなのだ。
東棟の第3会場は、超絶広かった。そこに、一杯にブースが出ていた。
同人誌や、コスプレイヤーの写真集や、様々な商品がそこには売られていた。
さらには、それを巡る人で、なかなか、自由に通りを歩けないほどだった。
恵那のブースに行く途中、様々な作品を見た。
コスプレイヤーさんが写っている写真を集めた写真集で、映画のパンフレットのように綺麗につくられていた。
恵那とまおとさんのブースに来ると、小さなブースに二人は座り、自分たちの商品を売っていた。
その小さなブースめがけて、多くの人が訪れていた。ゆっくり話す暇がないほどに、ひっきりなしに、二人の元に人が来ていた。
今度スタジオ天狼院である天狼院ロールプレイヤーズ撮影会のチラシだけを渡して、とりあえず、恵那とまおとさんのブースを離れて、一緒に来たなつと一緒に、「コミケ」を巡る旅に出た。
僕らが到着した時間は、12月29日の13:30くらいだったと思う。
その時間帯には、すでに、閉まっているブースもあった。たぶん、そこは売り切れたのだろう。
人気のブースほど、売り切れるのかもしれない。
まるで、夜市のように、様々な小さな店が出ていたが、僕らは「オタクではない」というコンプレックスから、なかなか、お店の人に話しかけられないでいた。
オタクではないことがバレたらどうしよう。
非国民と吊るし上げられるんじゃないか。
と、半ば、本当にビクビクしていた。
でも、恐れることはなかったのだ。
まずは同人誌のブースに行ってみた。
自分たちで、オリジナルで作品を作って、小さな冊子にまとめて売っている人が多く、とんでもないレベルだった。
プロでもすぐに通用するのではないかと思った。
特に気に入ったものの、中を見たくて、声をかけると、とても、丁寧に対応してくれた。
「本当に、すごいですね! すばらしいです!」
そう言って、思ったことを口にすると、みんな笑顔になった。
そして、どうやってそれを作ったのかなど、丁寧に説明してくれた。
ところが、アニメとか、ゲームとか、まるでわからない僕にとっては、異国語だった。
そうやって、何人かのお店の人に声をかけていると、次第に慣れてきた。
考えてもみれば、風貌的には、きっとあちらのほうが怖いに決まっている笑。
僕が話しかけたのは、際立って素晴らしいと思った作品を置いている人たちだけだった。
すると、同じような答えが返ってきた。
「じつは、プロとしても少し、活動しているんです」
「ですよね、うまいもの笑」
そんなやり取りをして、また、恵那とまおとさんのブースに近づきながら、その途中にあったブースも見ていった。そして、声をかけていった。
そこは、コスプレイヤーさん本人が、自分の写真集を売っていることが多かった。
「大きくなったらカメラマンになりたい」僕としては、これなら、話が合う。
とても、素晴らしい写真を置いてあるブースの人に、声をかけた。
どうしても、被写体というよりも、写真の素晴らしさについて、言ってしまう。
「これ、素晴らしい写真ですね! どうやって撮ったんですか?」
「実は、これ、知り合いのカメラマンさんに撮ってもらっているんですよ!」
そうだよな、と思った。
いくら、フォトジェニックとは言え、コスプレイヤーさんだけでは写真が完成するはずがない。
その影には、必ず、腕のいいカメラマンがいるはずだ。
「カメラマンさんって、プロなんですか?」
「いや、趣味でやってるひとです」
えー!! と衝撃を受ける。
大きくなったらカメラマンになりたい僕としては、聞き捨てならない。
僕よりも、はるかにうまい。
しかも、趣味なのに、うまい。
ヘタをすると、多くのプロのカメラマンさんよりも、上手い人がいるのではないかと思った。
面白くなって、いい写真を中心に、様々なブースを見て回った。
見本をめくらせてもらった。
被写体のポージングも、うまい。
どうすれば、観られるかも、計算されている。
ヘタをすると、多くのプロのモデルさんよりも、上手い人がいるのではないかと思った。
僕は、多くのプロのモデルさんやカメラマンさんを知っていて、いつも一緒に仕事をしているけれども、それと比べても、もしかして、遜色ないかもしれないと思った。
来る前は、「コミケ」を素人同士がお互いの作品を買い合うためのイベントだったと思い込んでいたが、実際に言ってみると、考えが変わった。
作っているものは、プロと遜色のないものも多い。
中には、実はプロとしてもやっているんですよ、という人も多かった。
コスプレイヤーさんも、可愛い子が多く、しかも、ファンをとても大事にしているようだった。
その心意気だけでも、十分にプロだと思った。
ひとり、列を作っているコスプレイヤーさんがいて、なんで行列を作っているのかと見本の写真集を見せてもらうと、これも衝撃を受けた。とてつもなく、きれいなのだ。写真も構図も、被写体も、本当に綺麗で、思わず、普通に列に並びそうになった。
けれども、2160円という値段を見て、ちょっと冷静になった。
ま、しかし、列ができていなければ、普通に2160円でも買っていただろうと思った。
コンテンツが、優れているのだ。
商品として、まったく、問題がない。
もしかすると、直接仕入れて、天狼院書店全店で売ってもいいとさえ思えるくらいの質だった。
被写体も、そして、カメラマンも、とてもいい仕事をしていた。
クリエイティブのプロとして、僕らは、もっと真面目に真剣に、そして、楽しんで作品を創らなければならないのではないかと思わされた。
あるブースでは、若い女の子が「罵声CD付き写真集」を売っていた。
なんですか、罵声CD付きって、面白すぎるでしょう!
天狼院で、そんな企画を出すスタッフがいれば、僕に絶賛されます、きっと。
ある写真集を作っていたコスプレイヤーさんは、赤い靴をテーマに独特のエロスを作っていた。
なるほど、そんな視点があるのかととてつもなく勉強になった。
好きでやっているのが、面白がってやっているのが、これでもかというくらいに伝わってきた。
これで、おもしろいものができないわけがない!
ものづくりの基本は、クリエイティブの基本というものは、やはり、「好き」ということだ。
売れるかどうかなんて、どうだっていい。それは、後の話だ。
「好き」で没頭しているうちに、気づいたら、すごいものができちゃいました。
「好き」で没頭しているうちに、気づいたら、とても、綺麗なコスプレイヤーになっていました。
気づいたら、とても、カメラマンが上手くなっていました。
気づいたら、ブースの前に行列ができるようになりました。すぐに売り切れるようになりました。
気づいたら、プロの人に声をかけられ、お金をもらうようになりました。
つまり、好きなことをやっているうちに、気づいたら、プロになっていたというひとが、多いのではないだろうかと思った。
また、こんな話も聞いた。
プロとしてデビューしても、「コミケ」に戻ってくるのだと。
プロということを「宣伝材料」にして、「コミケ」で自分でしっかりと稼ぐのだと。
なぜなら、「コミケ」では、自分がメーカーであって、しかも、自分が販売者でもあるので、粗利益が極めて高いのだ。
「三浦さんがやりたかったこと、もうここでやられてますね」
と、一緒になつは笑った。
たしかにそうだった。
恵那とまおとさんのブースに帰ってくると、ようやく、話ができるくらいにすきはじめていた。
「どうでした?」
「いやー、すごかったよ。みんなプロ級だった」
「ですよね! じゃあ、これ、買って下さい」
と、これを買わされたわけだが、この写真集の質も、やはり、いいのだ。とても、綺麗なのだ。
被写体も、写真もいい。
何度も見返したくなる写真で、いい買い物をしたと純粋に思った。
今度、1月7日(土)に、天狼院では、彼女たちを主人公にした「天狼院ロールプレイヤーズ撮影会」がある。
もう、人気のコスプレイヤーさんのチケットは売り切れ続出なのだが、ここで、僕は、彼女たちの本当のポテンシャルを見せつけられるのかもしれないと、究極、楽しみになった。
思えば、天狼院では、前に、日本一かわいいコスプレイヤーとして人気になった「御伽ねこむ」を主人公に映画を撮ったことがある。舞台にもねこむに出てもらった。
彼女は、カメラの前に立つと、人が変わった。
とんでもなく、フォトジェニックに豹変した。
その後、彼女は、ホリプロでメジャーデビューし、テレビに度々出演し、雑誌の表紙も飾った。その絶頂期に、人気漫画家先生との結婚を発表し、今はママになっている。
ねこむだけではなかったのだ。
次のねこむが、この中に間違いなく、いる。
そして、この中にも、プロのカメラマンになる人が、大勢出て来るに違いない。
漫画家も、小説家もそうだ。
「コミケ」は、創るということの原点を、子供のように純粋にやっている人たちの祭典だったのだ。
それなので、あそこには大勢の人が集まる。
そして、結果的に、お金が動く。
僕らが「コミケ」を訪れたのは、一時間ほどに過ぎなかった。
まるで、相対性理論のように、時間が相対的にゆっくりなってしまったと感じた。
それくらいに、密度の濃い一時間だった。
衝撃に疲れて、近くの和風レストランで遅い昼食を取っているとき、僕はなつにポツリと言った。
「あのさ、今回、コミケをはじめて見て、どうして伊達政宗が天下を取れなかったのか、僕はようやくわかったよ」
伊達政宗とは、宮城県出身の僕にとっては、「おらほの殿様」であり、神に等しい。
独眼竜政宗とうたわれた、真田幸村と同等に、遅れてきた英雄は、あと10年早く生まれていれば、天下を取れただろうと言われていた。
素質的には、織田信長や豊臣秀吉や、徳川家康に、匹敵する武将だったのだろう。
けれども、結果的に、伊達政宗は、天下を取れなかった。
62万石の大名で、生涯を終えた。
僕は、伊達政宗には、天下を取るだけの能力があったのだろうと思う。
伊達政宗だけでなく、黒田官兵衛にも、上杉謙信にも武田信玄にも、毛利元就にも、その能力はあった。
誰が天下を取ってもおかしくはなかっただろうと思う。
けれども、彼らは覇者にはなれなかった。
それは、簡単な理由だった。
伊達政宗は、偶然、10年遅く生まれたから、天下を取れなかったのだ。
武田信玄も、あと寿命が少し長ければ、天下を取れたかもしれないが、偶然、寿命が長くはなかった。
結局は、偶然なのだ。
チャンスのそばにいるかどうかで、すべてが決まってしまう。
「コミケ」には、数多くのプロ級の人たちがいた。
けれども、彼らはプロ級であっても、「プロ」ではない。
ほとんど同等レベルの人が、「プロ」であっても、彼らはプロではない。
それは、能力の差では決してない。
単なる偶然なのだ。
偶然、プロではない人がいて、偶然、プロの人がいる。
もっとも、実は、その紙一重に思える境界には歴然とした差があると僕は思っている。
それこそが、決意だ。
プロになるという決意と、プロになれるという盲信ともいうべき、強い信念だ。
そのことを、「コミケ」で教えてもらった。
そして、腹の底に熱い火を灯されたように思えた。
おもえば、御伽ねこむは、信念がとてつもなく、強かった。
あの当時、二十歳そこそこだったが、自分の能力と未来について、実に冷静に見ていた。
そして、強い強い、信念を持っていた。
だから、ねこむは、人気が出た。
かわいいだけなら、ねこむクラスは大勢いる。
けれども、御伽ねこむは、彼女ひとりしかいない。
ねこむをねこむたらしめていたのは、想いだったのだと僕は思うのだ。
あるいは、今回見た「コミケ」にいた人の中からも、メジャーになる人が多く出るだろう。
間違いなく、言えることは、その人の胸には、強い信念や決意が抱かれているということだ。
そして、「天狼院ロールプレイヤーズ」や「天狼院フォトジェニック」においても、モデルとして活躍し、または劇団天狼院で大活躍し、メジャーとなって羽ばたく人が多く出てくるだろうと僕はとてつもなく楽しみになった。
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スタジオ天狼院 2016.12.23(祝金)OPEN
〒171-0021 東京都豊島区西池袋3丁目31−10 4F
TEL:03-6914-3618(東京天狼院)
*ドリームコーヒーの入っているビルの4階です。
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