私が「ドM」だと気づかされた「人妻上司」
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:たむ(ライティング・ゼミ)
「全然ダメ! 最初からやり直し」
上司が言った。
上司はとても綺麗だ。芸能人で例えるなら、篠原涼子に似ている。
会社内外問わず、「お前はいいなー。綺麗でとても仕事ができる上司で。世の中を見てみろ。上司と言えば、だいたいみんなおっさんだぞ。あー羨ましい」
最初は私もそう思った。確かに綺麗だ。最初は密かに心の中で「やった」と叫んだものだ。
だが、あくまで会社の仲間、上司。もう結婚もしている人妻だし……。
しかし、1週間もたつとそんな浮かれた思いは見事にふっとんだ。
人妻上司は厳しかった。特に、言い方が非常に厳しい。冷たい。そして、何度も何度も修正させるのだ。
また、今回も提案資料に修正の指摘を受けた。
私は、人からの指図は嫌いだ。「あーしろ、こーしろ」と言われると天邪鬼のような行動をとってしまう。そして、もっと嫌なのが指摘をされることだ。資料作成や自分なりの仕事の仕方を指摘されると言い返したくなる(うまくいっている仕事についてだけだが……、うまくいっていない仕事はしっかりと質問し意見を聞く)。
特に自分のなかでは資料の完成度が高く、なおかつ同僚に見てもらい(上司ではないので、気軽に聞けるし、ちょっとしたタイプミスなどを教えてくれる)、万全を期して上司に見せにいくのだ。そして、上司は2分ほど資料を眺めて一言、
「やり直し」
と告げてくる。
なにがいけないのかわからない。社内共通のフォーマットで資料を作り、言われた通りの図を入れ、言われた通りの構成・文章を入れているのに……。
納得がいかない。
毎回一言しか言わない上司に向かって私は言った。
「わかりました。では、どこがやり直しのポイントなのか教えてください」
私は、挑むようにそう問いかけた。
「3つある。1つ目、図が表している文章の要約がわかりづらい。もっと説明文章を。2つ目、この数字はどこからの資料なのかちゃんと記載すること。3つめ……」
上司が言うことは正しかった。ぐうの音も出ないとは、まさにこのことだ。
悔しかった。
認めたくない自分と認めなくてはいけない現実のはざまでゆれ動く私の心。
私は、負けず嫌いだ。小さいころからスポーツをしていて、負けるとすぐに泣いていた。
そして、人に見えないところで自分にできる最大限の努力をし、最後には勝ちをつかんでいた。もちろん、中学生・高校生になってくると難しくなるが自分なりの勝ち負けの基準があり、チームが負けたとしても自分は勝ちというような基準をつくっていた。
そして、私は「ドS」だ。
指摘をするほうに回ってトコトンいじってやりたい。本音は、人妻上司の立場を私がしたい。そして、人妻上司に言いたい。「はい、だめだ! 資料訂正だ!」と。
確かに今回の資料作成は、上司が言っていることが正しい気がする。
しかし、自分のなかで納得がいかないことがあるのも事実だ。
なぜ、最初に言ってくれなかったのか?
なぜ、上司はいつも褒めてくれないのか?
上司から、「お前はできない奴だな」と思われてないか?
など、様々なことを考えてしまう。
私は、思う。いつから人の目を気にして生きるようになったのだろう、と。
私は、思う。いつから社会と足並みをそろえて生きることに慣れたのだろう、と。
私は、思う。いつからそんな自分に安心をしているのだろう、と。
私は、残業をして資料を作り直した。
上司から言われた3つの指摘を修正した。さらに、人妻上司にどうしても認めてもらいたくて「+α」のことを付け足した。上司から褒めてもらいたいと思った。
翌日、朝早く出社し、上司が来るのをいまかいまかと待ち続けた。
そして、上司が出社するやいなや、すぐに上司のもとに駆け寄り、
「昨日、見て頂きました資料を修正しました。ご確認、お願いします」
すると、上司は、
「早いね。今から朝会議だから。そこの未決済のボックスにいれておいて」
肩がガクッと崩れてしまった。
昨日、残業して作った資料。いち早く見てもらい褒めてもらいたくて作った資料。
後回しにされてしまった。
「わかりました……」
私は、高ぶる気持ちを抑えながら自席と帰っていった。
午後、上司から呼ばれた。
「資料確認したよ。指摘部分はできていたが、余計な文章が多くなった。そこは削除して」
それは、自分では余計ではなく「+α」で書いた文章。
「正直、ここまでできるとは思わなかったよ」と言ってほしかった。
今日も残業だ。
そして、次の日の朝。
「提案資料、修正しました。確認をお願いします」
「ん」
提案資料をじっくりと見る人妻上司。
「オッケー。やればできるじゃない」
と満面の笑顔で言った。
「はい、有難うございます」
「あなたはケアレスミスが多いけど、良い文章を書くのよね。あとはもっと人に見てもらう文章というのを意識しなさい。目線は自分ではなく相手よ」
普段と変わらない口調だが、心に響く。この誉め言葉がたまらなくうれしい。私の仕事の達成感はここにある。「良い文章を書くのよね、か……」
人妻上司から言われた気持ちのいい部分だけ、自分の頭のなかで繰返し響いていた。
私は、「ドS」だと自分のなかで思っていた。
人に指示されるのがいやだ。
人に指摘されるのがいやだ。
人をいじることが好き
人をいじめることが好き(いたずら程度)
だが、人妻上司に出会うことで、「ドМ」になった。
アメとムチを使い分けられ、あの少し冷めた冷たい言葉で褒められる快感。
私は「ドМ」になっていく……。
そんな新しい自分の発見になんだか自然と笑顔がこぼれてくる。
「おれはこんな奴じゃあ、なかったんだけどな……」
人生ってこんなもんかなと思い、人妻上司の笑顔を思い浮かべた。
***
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