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私はぜんざいの甘さを引き立てるたくわんだ!


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:bifumi(ライティングゼミ)

「今年は紅白みる? ダウンタウンみる?」子供たちが呑気に話している。
「そんな話は後でいいから、自分の部屋の掃除を早く終わらせなさい! さっさせんと、年を越せんよ!!」私の怒鳴り声が響く。
毎年大晦日、私の気持ちはイラついている。
やることが多い。とにかくいろんなことが終わらない。お年玉の準備、年賀状、大掃除、食事の用意、何本手があっても足りない。一人追い立てられているようでイライラする。大晦日ってやつはなんでこうも気忙しいのだろう。そんな私を尻目に、のんびりダラダラ過ごす家族をみていると、つい大きな声が出てしまう。

私は元来、年末が好きだ。特に12月26日という日が好きだ。
クリスマスが終わった瞬間、街が洋から和に一変すると、空気さえも凛としてみえてくる。今までさんざんクリスマスソングを流していたスーパーから、お正月のBGMが流れだす。毎年この変わり身の早さに驚かされるが、スピード感は好きだ。
この日から街全体が、年末にむけて走り出す。大晦日が近づくにつれ、私の心の余裕もなくなってくる。ほんの1週間足らずで、全てを終わらせなくても、日常に大差ないことはわかっている。でも年内に何とか片をつけたいという焦りが、私を追い立てる。私のイライラは大晦日の恒例行事。一声吠えると、家族もようやく重い腰をあげ、しぶしぶ言われた用事をやり始める。

年越しまでに終わらせたかったことが一段落すると、私のイライラは収まり、夜はまったりみんなで紅白歌合戦をみる。じっくり紅白をみるなんてどれくらいぶりだろう。演出もかなり凝っていたし、ぐだぐだ感も楽しめた。お目当ての歌手がでると、つい見入ってしまう。歌も口ずさむ。だから年賀状を書く手がとまる。あ~ほとんど進まない。だめだこりゃ。年賀状書きはもうあきらめた。子供たちがくだらないことを言いあうのを聞きながら笑う。合間に数種類のインスタントそばを食べ、誰のそばが一番おいしかったかランキングをつける。結果どれもすごく美味しかった。インスタント食品って何気にすごいと、感動!

紅白が終わると、初詣でに出かける。
子供が産まれてから毎年、近所の神社の初詣でに参加している。
車をとめ、暗い砂利道を歩いていくと、夜通し焚かれるお焚きあげが、目の前にぼわっと現れる。境内に入っただけでもう熱い。気を付けないと火の粉が飛んでくる。
すでに大勢の参拝客で賑わっている。お祭りみたいだ。色とりどりの屋台がでていて、食べ物を焼く香ばしい匂いが漂ってくる。こういうところで買うイカ焼きは、最高に美味しい。

初詣での長い列が既にできている。鈴を鳴らさず横からお賽銭だけ入れようかと提案したら、子供たちに「それはあんまりだ!」と怒られる。
今年はあまり寒くないからまぁいっか。そういえば、こうして家族4人揃って出かけるのはいつぶりだろう。部活や塾、友達との付き合いで子供達もそれぞれ忙しい。以前はよく外食していたが、最近は全員揃うこと自体が難しい。

それにしても、参拝の列が一向に進まない。よくみたら皆さん律儀に二礼二拍手一礼をやっている。二回おじぎをした後、二回柏手を打って、最後にもう一回おじぎをする作法だ。賽銭箱の横にやり方が書いてある。みんな横目でチラチラとこの紙をカンニングしながらお参りしている。これっていつお願い事をしたらよいのか、いつもタイミングが掴めない。最初なのか、最後なのか? 後ろの人の邪魔にならないよう、最後に家族の一年の健康を早口でお願いして列を離れる。

おみくじは毎年、豪華賞品付きの福みくじを引いている。1年の運試しなのに、結果は、普通のティッシュより重みがある「鼻セレブ」3箱と、ポケットティッシュのみ。残念! でも息子は「鼻セレブ、すごくない? すごくない?」と大喜び。それを見ていると、「鼻セレブもそんなに悪くないか」と思えてくるから不思議。少し寒くなったので娘にくっついたら暖かい。お母さん背が小さくなった?と、娘が上から見下ろしてくる。頭にきたのでちょっと小突く。高校生の息子は、中学で主人の背を抜いた。中学生の娘も私より大きくなり、私は家族で一番背が低くなった。昔は子供たちのよちよち歩きが危なっかしくて、手をつないだり、抱っこしながらお参りしてたんだけどな。

初詣での一番の楽しみ、ふるまいぜんざいを食べに行く。
「おめでとうございます!」の声とともに、熱々のぜんざいが配られる。中に小さな白玉団子が2つ入っていて、下の方につぶあんがぎっしり沈んでいる。あんこが苦手という人に時々でくわすが、そんな人にはぜひこのぜんざいを食べて欲しい! あんこ嫌いという言葉を後悔させるくらい、甘すぎず品があり、味わい深く美味しいのだ。和菓子党の私がいうのだから間違いない。ぜんざいは、社務所横の休憩所に入って食べる。ここだとお茶とたくわんが自由におかわりできる。このたくわんがまた美味しい。黄色味の加減といい、塩味といい、ちょうどいい塩梅なのだ。たくわんをぽりぽりかじると、ぜんざいの甘さが口の中で際立つ。塩コブが添えられる地域もあるようだが、この神社はたくわん派だ。ぜんざいとたくわんを食べていると、あぁまた新しい一年が始まった、お正月っていいなとしみじみ思う。イルミネーションのキレイな場所で新年を迎えなくても、家族一緒なら、近所の神社での参拝も、鼻セレブしか当たらなかった事も、ぜんざいとたくわんが相変わらず美味しかった事も、もうそれだけで十分嬉しいし楽しい。

大晦日恒例、家族のだらだらに爆発する私の怒りは、例えるならぜんざいについてくるたくわんのようなものだ。ぜんざいだって、たくわんのピリッとした塩気があるからこそ、甘さが際立つ。
「自分の部屋くらいキレイにしなさい! 年賀状を書き終わらせなさい! お父さんちょっとは私が言う前に掃除くらい察してやってよ!」私がみんなのお尻を叩くことで、だらだらしていた家族がやっと動き出す。これがないと単なる怠け者家族だ。ピリっとした愛の鞭という塩があるからこそ、年末にだらだらできる幸せに気付ける。
甘さを引き立てる絶妙は塩味、たくわん役も結構大変なのである。

息子も来年には家を出ていく。「そういえば、お母さん大晦日はいつも怒ってたなぁ、でもだらだらした年末は楽しかったし、初詣でのぜんざいも美味しかった」こんな風に暖かい思い出として彼の記憶に残っていると嬉しい。私は甘さを引き立てるたくわん役だったことに、彼はいつか気付いてくれるだろうか?

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2017-01-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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