夕方が青い街の照明とカレーの共通点について
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記事:aiko(ライティング・ゼミ4月コース)
渋谷のMIYASHITA PARK(ミヤシタパーク)にある一風変わった本屋を訪れた。そこは四角いシーリングライトとカレーのポスターが印象的な、こだわりを感じるおしゃれな空間だった。私がこの二つの要素から連想した、北欧の照明システムについての話をしようと思う。
北欧では、夕方はオレンジ色ではなく、青い。昼と夜の間が日本よりも長く、現地ではこの時間帯を「ブルーアワー」と呼ぶ。この薄暗い時間の長さゆえに、北欧の人々は家の中で心地よく過ごすことに執念を燃やしてきた。この地域から生まれた「ヒュッゲ」という概念は、家での快適さを重視する文化の象徴だ。
その一環で生まれた、華やかで実用性の高い食器や、ユニークで座り心地の良い椅子といったインテリアは、いまや世界的にもファンが多いブランドになった。家の居心地にかけるその情熱たるや。照明システムも、おそらくはそんな小さな幸せへの執念の産物だ。
北欧の家は、人がいる場所に寄り添うように小さなたくさんの灯りに囲まれるのが特徴だ。日本のようにシーリングライト1つで部屋全体を照らそうとする発想で作るのとは趣が違う部屋に仕上がる。
照明システムと呼ばれる芸術的な組み合わせは、大きく「アンビエントライト」と「タスクライト」の二つに分類された灯りで構成される。前者は空間をやさしく照らすもので、部屋の角にある間接照明などがそれにあたる。後者は読書など明確な目的を持つものだ。
日本で一般的なのは部屋全体を煌々と照らすいわゆるシーリングライトだが、北欧の住宅ではこうしたリビング照明には滅多にお目にかかれないという。
北欧を訪問すると、一般的なビジネスホテルでもこの発想に触れることができる。夜に到着して電気をつると、部屋全体の薄暗さに驚く。一般的なシーリングライトはほとんどなく、代わりに目につくのがベッドサイドや窓際、机上のライトだ。各所に配置された灯りが意識せずとも「北欧に来た」感を演出してくれる。
個人的な体験だが、リゾートホテルに宿泊しても机の上にはしっかりとデスクライトがある。「あら、みんなこんな場所でも仕事をするのかしら?」 と思った社畜な日本人の私だが、どうやらそういうことではなく「そういうもの」 らしい。
北欧では、必要なところ、人間が居るところを照らすのだ。照明は机や椅子といった家具の配置に合わせて置かれ、その場所で過ごす人を照らすように最適化されている。
北欧のホテルの部屋に必ずと言っていいほどに置かれている一人がけの巨大な椅子(デンマークは椅子の聖地らしく、普通のビジネスホテルにもプライドを感じる立派なものが置かれている)の傍らにもライトがあり、必要に応じた明るさを提供してくれる。
全体の配置だけでなく、個々の照明機器も特定の目的や狙いのもとに設計されている。さまざまな照明器具に手をかざすと、360度ぐるりとあかりの強さが違うのだ。
日本のスタイリッシュなモデルルームでよく見かける、壁や天井に向かって光を放つ派手なライトやスポットライト風の天井灯は北欧ではあまり見かけない。代わりに、ペンダントライトやブラケットライトという光をうまく分散させるアイテムが使用される。単なる光源カバーではなく、光源が直接目に入らず、手元に落ちる影までもが緻密に設計されているものが多い。
こだわりの器具を暮らし方を熟慮した空間設計で配置することによって、照明は単なる実用品ではなく、居心地の良い環境を作って生活の質を高めるためのアイテムに昇華する。
北欧の照明は、ただの光を灯すためのものではなく、その設計一つ一つに生活の哲学が込められている。私たちも日常において、どのように空間を照らすかを考えることは、より良い生活への一歩と言えるだろう。このような照明の考え方を知った時、自分の部屋作りにおいても大いに参考にしたいと思った。
「本を読む場所」……うむ、食事場所と一緒かもしれない。
「コーヒーを飲む椅子の傍ら」……悩ましい。東京の家は狭い。
「足元を優しく照らす、コロンとした可愛らしい間接照明」……うちのルンバと喧嘩をしそうだ。
発想の転換というべきか。考えるほどに、自分の部屋に味気なさを感じるようになった。照明システムに興味を持つこと、北欧流を理想に据えて自分の部屋作りを考えることは、きっと暮らしを見つめ直すことにもつながる。
さて、ここで話は冒頭に戻る。この照明システムなる考え方に衝撃を受けて以降、照明とカレーは似ているな、と考えてしまうほどに頭の片隅に照明への欲求が渦巻いている。
そう、照明とカレーはおそらく似ている。無数の素材を、地域ごとのベースの考え方や暗黙のルールに則って組み上げ、自分好みの究極の1つを探求するのだ。
ペンダントライト、ブラケットライト、スタンドライト、テーブルランプ、シーリングライト、ダウンライト……。
照明には、個々のスパイスのように、さまざまな種類の素材が無数にある。そして、宗教や気候、合わせるべき主食が地域ごとに異なるように、ベースになる考え方やニーズには地域ごとの特徴がある。北欧にはヒュッゲ、そしておそらく日本にも、私が知らない和の照明哲学があるのだろう。
さて、ミヤシタパークの下りのエスカレーターでジャックオーランタンの集団とすれ違わないかと考えたあの日からそろそろ2年だ。円は安いが北欧旅行に行けるかもしれない日常が戻ってきた。リモートワークのおかげで多少は広い家に住む人も増えたのかもしれない。この記事を読んだ誰かが、豊かな暮らしへの欲求を抱いた時に、街でカレーの看板を見た時に、照明へと思いを馳せる日が来ることを祈って。
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